おとなしくなんかできない!
フードをぬいだ、その頭には、大きな耳があった。
「やっぱり、ジャナ国の人だ……。つまり、王女様の手先! 私の推理的中ね! 良しっ!」
興奮のあまり、思わず、声がでた。
「良し……? 今のこの状況、わかってるのか……?」
と、つぶやくジャナ国の人。
良しって言ったのは、別に嬉しいって意味じゃなくて、推理したとおりだったから、想定通りに動けるって意味なんだけど。
なーんて、丁寧に説明する義理はないよね?
コリンさんを眠らせ、私を連れ去ってきた人に。
その時、大きな耳がピクピク動いた。
このふかふかした耳、見覚えがある……。
「あっ! もしかして、公爵邸の玄関の前に立っていた、王女様の護衛の方のひとりじゃない!? その耳、しっかり覚えてる!」
私は犯人をつきとめた名探偵気分で、きっぱりと言い切った。
ふかふかした大きな耳の動きが、私のほうを向いたまま、ぴたっと止まった。
ふかふかして、やっぱり、かわいい……。
こんなかわいい耳を持つ人が、悪人とは思えない。
王女様に命じられて、いやいやながら、ルーファスを誘拐しようとしているに違いない!
とにかく、今は、ルーファスのところに向かわさないようにひきとめなきゃ!
そう思って、話しかけようとした瞬間、護衛さんのほうから話しかけてきた。
「そんなにこの耳が珍しいですか? この国には耳のある獣人はいないようですし、お目障りなら、隠しておきますが……」
と、言いつつ、上着のフードに手をかけた。
「ちょっと、やめて!? むしろ、見せてください! だって、その耳、ふかふかして、かわいいし。その素敵な耳があるから、私を連れ去ってきた人でも怖くないんだと思う」
私は耳に向かって、思わず、力説する。
次の瞬間、護衛さんが、ふっと笑った。
「そんなに耳をほめられたのも、耳に話しかけられたのも初めてだ。やっぱり、おもしろい方だ。……だが、あの方は気に障るだろうな」
そうつぶやくと、私に向かって真剣な口調で言った。
「さっきも言いましたが、俺は、あなたに危害を加えるつもりもないし、危害を加えたくもない。……だから、これから何がおころうが、ラジュ王女には抗わず、おとなしくしていてください」
それって、やっぱり、王女様が何か仕掛けてくるってことよね……!?
つまり、ルーファスの誘拐……。
「そんなの、おとなしくなんかできるわけない。王女様がルーファスを狙うなら、私は全力でたたかうから!」
「失礼だが、ラジュ王女とあなたでは勝負にならない。ラジュ王女は獣人の中の獣人といわれる竜の獣人。しかも、先祖返りといわれるほどの特別な力を持っている」
護衛さんは、ここでぐっと声を落とした。
「それに、ラジュ王女は恐ろしい方だ……。こんなことを本来、しかも、王女の護衛が他国の人間に言ってはいけないが、あなたは見るからに危なっかしい……」
やっぱり、この護衛さん、悪い人じゃない。
初めて会った私を心配してくれているんだから。
王女様に逆らえないだけなんだ……。
だったら、こんなことに手を貸してほしくない。
「護衛さんだって、こんなこと、本当はしたくないんだよね? 悪いことをしたら傷つくのは、護衛さんの心だよ!?」
護衛さんの耳が、動揺したように揺れる。
が、すぐに緊張したように立ち上がった耳が、ぴしっと私のほうを向いた。
「俺は王女の護衛。俺の心はどうでもいい。それより、あなたは、自分の心配をするべきだ……。ラジュ王女が本気になれば、あなたはひとたまりもない。あなたは獣人でもなく、生粋の人なんだろう? 獣人じゃないあなたは、なんの力も持っていないんだ」
「だったら、何……!? 確かに、私は獣人じゃないし、力なんて何も持っていない。でもね、ルーファスを思う気持ちは、この体におさまりきれないくらい持ってるの! 私が獣人じゃなくても、力で王女様にはかなわなくても、なんとしてでも、ルーファスは私が絶対に守るから! ルーファスの危機を黙ってみてるなんて、ありえない!」
「無理だ。気の毒だが、思いだけでどうにかなる相手じゃない……。そのことは俺がよくわかっている。俺だって、ラジュ王女から救いたいと思っている奴がいる。なんとか救う手立てを見つけようと、王女の護衛になったのに、どうにもできないんだ……」
苦しげに目をふせた護衛さん。
え……? 今の話、どういうこと……。
護衛さんが、王女様から救いたい人って誰……?
その時、ふと、悲しく揺れる漆黒の瞳が頭にうかんできた。
「もしかして、それって……、ロイスさんのこと……?」
護衛さんが、はじかれたように私を見た。
バタバタとあわただしく、久々の更新になりました。
不定期な更新の中、読んでくださったかた、本当にありがとうございます!




