ぴんときた!
口に布をかまさまれた状態で、肩にかつがれて運ばれている私。
手も足もしばられてはいないから、背中をボコボコたたいたり、思いっきり暴れてみるけれど、びくともしない。
敵ながら強そう……、じゃなくて、私が弱いだけなんだけど……。
ルーファスを守るなんて言ってたのに、なんて、不甲斐ないんだろう、私……。
それに、コリンさん、大丈夫かな?
私に協力しなかったら、眠らされたりすることもなかったのに。
スコップをもって勇ましい発言をしてくれたけれど、よく考えれば、庭一筋で、植物にあんなにやさしいコリンさんだから、戦うこととは真逆のひと。
私を安心させるため、あんな風に言ってくれたのかも。
コリンさん、無茶をさせようとして、ごめんなさい!
でも、そもそも、コリンさんを眠らせ、私を連れ去っているのは誰!?
つかまった時も顔は見えなかったし、今も、荷物のように担がれているから、連れ去る人の足元しか見えない。
とっさに、誘拐!? とも思ったけれど、状況からして、私を狙うっていうのは、どうも考えられないんだよね。
あそこの場所に行ったのは、流れでそうなっただけだし……。
そんなことを思っていたら、ぴんときた!
もともと、あそこに誰かが潜んでいて、そこに、私とコリンさんがやって来たってことじゃないかって……。
じゃあ、なぜ、あのマラミがよく見える場所で潜んでいたか……。
それは、やっぱり、考えられる理由はただひとつ。
狙いはルーファス……!
だって、庭でマラミがみたいと言って、ルーファスを連れ出したのは、王女様。
マラミの情報を与えたのは、第二王子。
そういえば、最初、王女様はルーファスとふたりだけで庭にでたがったよね……。
第二王子のほうは行きたがらなかったけれど、ルーファスが連れ出した。
ということは、マラミの見えるあの場所に誰かを潜ませていたのは、王女様ってことじゃない?
警備の厳しいこの公爵家に、不審者が紛れ込めるはずもないけれど、王女様の護衛だと名乗れば、庭に入ることも可能なのかも……。
だとしたら、王女様がマラミの咲く場所にルーファスをよびだし、誰かに潜ませていた目的は一体なに……?
なにを企んでるの……。
あ、もしかして、それこそ、誘拐!?
今までの会話から、王女様はルーファスを相当気に入っている。
でも、ルーファスはそうじゃない。
だから、無理やり、ルーファスをジャナ国に連れて行こうとしてるんじゃない!?
そうよ!
だって、そう考えたら、全部つじつまがあう!
確信したとたん、私は、今、知らない誰かに運ばれている怖さや不安は、頭から、きれいさっぱり消え去った。
かわりにわきおこってきたのは、怒り!
子どもの頃、誘拐されそうになって、あんなに傷ついていたルーファス。
不安で不安で、私の手をにぎって離さなかった、ルーファスの手の感触。
思い出したら、涙がでてきた。
そんなルーファスを、また誘拐としようとするなんて許せない!
ルーファスを傷つける人は、誰であっても、絶対に許さない!
早く戻って、ルーファスを助けなきゃ!
こうなったら、全身の力をふりしぼって、連れ去っている人の背中に一撃をあたえて……、あれ、でも、待って……?
私を運んでいる人が、ルーファスを誘拐するための王女様の手の者だったとしたら、この人をさっきの場所に戻しちゃダメなんじゃない?
ということは、ここは、おとなしく運ばれて行ったほうがいいよね?
時間かせぎになるから。
そして、私をどこかに置いて、さっきの場所に戻ろうとしたら、なにか話しかけて、無理やりにでも、ひきとめる。
あ、でも、口に布があるから無理か……。
だったら、それこそ靴を投げてでも、体当たりしてでも、なにがなんでも、ひきとめよう!
そうと決まったら、闘志がメラメラとわいてきた私。
今は、体力温存のため、おとなしく運ばれよう。
なんてことを考えていたのに、体力温存するまもなく、運んでいた人の足がとまった。
思っていたより、短い距離しかすすんでいない。
公爵邸の庭からでてもいない。
やっぱり、私を置いて、すぐにあの場所に戻ろうとしてるんだ!
そうはさせないわ!
扉をあける音がしたかと思うと、あれ、建物の中に入った?
そこで肩からおろされて、椅子に座らされると、目の前は大きなガラスで、見えるのは庭だった。
あ! ここって、いつも、コリンさんがいるところだ……。
そう、私が連れてこられた場所は、コリンさんが庭仕事の合間に休憩する、小さな建物。
休憩している間も庭の様子が見たいからといって、前面はガラスになっている。
だから、外からも、中の様子がまるみえ。
ルーファスと私は、小さいころ、庭であそんでいた時、コリンさんがいるのが見えたら、よく寄っていた。
なかは、こじんまりとしていて、小さなテーブルセットがあるだけ。
ここで、ルーファスとふたり、植物の話を聞いたりしていた、ほっこりした時間を思い出すな……。
なんて、ほっこりしている場合じゃない!
私は椅子に座らされて、椅子の背もたれの後ろにまわされた両手を紐で縛られてしまった。
乱暴に扱われてはいないから痛くはないけれど、これじゃあ動けない……。
「しばらく、このままでいてもらいます」
と、背後から、丁寧な口調で言われた。
とにかく、この人を、あの場所に行かせないように、なにがなんでも、ひきとめなきゃ。
でも椅子から立ち上がることすらできないから、体当たりとかは無理……。
こうなったら、口の布をはずしてもらうしかない。
そう思って、「口の布、はずしてー! 逃げないからー!」と、全力で叫んだけれど、やっぱり、くぐもった声しかでてこない。
すると、唐突に、ふっと、口がゆるまった。
「……あ、外してくれたんだ! よかったー、ありがとう!」
思わず、声がでた。
「こんな状況でお礼を言うなんて、おかしな方だ」
そう言って、私の前にたった人は、目深にかぶっていたフードをぬいだ。




