逃がしてあげられない. 2(レーナ視点)
今回も、引き続き、レーナ視点です。
ルーファスは体は子どもであっても、大人のように冷静だし、すでに、竜の獣人としての力もあったから、そうそう簡単には狙われないだろうと私も油断していたのだと思う。
本屋にでかけたルーファスが護衛と少し離れた隙をつかれるようにして、男に連れ去られそうになった。
ルーファスの容姿に魅せられて、突発的に連れ去ろうと思ったと、男が言っていたことを知り、ぞっとしたわ……。
無理やり、手をつかまれそうになったところで防げたのは、幸いだったのだけれど、ルーファスはそのショックで部屋にとじこもってしまった。
本人に詳しいことを聞くこともできず、余程怖い思いをしたのだろうと、ものすごく心配した。
私もメイドたちも寄せ付けず、何も食べず、部屋にとじこもったルーファス。
扉越しに「ララをよんで」としか言わない。
心配でたまらなかった私は、すぐにララちゃんに来てくれるようにとお願いしたの。
とんできてくれたララちゃん。
ララちゃんがずっとルーファスのそばにいてくれたから、ルーファスはやっと食事もとれた。
ララちゃんが帰る時間になっても手を離さないルーファス。
結局、ララちゃんには、10日間もうちに滞在してもらうことになった。
幼いララちゃんは、それまで、ひとりで外泊したこともなかったのに、一度もお家に帰りたいともいわず、ずっと、にこにこして、ルーファスによりそってくれる姿を見て、私は、思わず、泣いてしまったわ。
ララちゃんのおかげで、やっと、元気になったルーファス。
でも、それからも、思い出すたび怖いと言って、ルーファスはララちゃんを頻繁に呼んだ。
いつだって、ララちゃんはルーファスを思って、バスケットにいろんなものをつめこんで、すぐに、やってきてくれた。
天真爛漫なララちゃんには、本当にどれだけ助けられたかわからない。
でも、今になって、あの頃のことを思い出すと、疑問がわいてきたの。
あの時、ルーファスは本当に怖がっていたのかしら、って……。
当時はルーファスのことが心配で、冷静に考えることができなかったけれど、今になって、冷静に思い返せば、誘拐されそうになった心の傷があるようには、どうしても思えなくて……。
だから、ルーファスの父親、マクシミリアンに、私の疑問を言ってみたの。
すると、マクシミリアンは苦笑いして言った。
「ルーファスは誘拐された当時から、怖がってはいなかったぞ。強いて言えば、自分を邪な目で見た男への怒りがおさまらなかったくらいか……。ルーファスを誘拐しようとした男は、ルーファスの前に立った瞬間、ルーファスの威圧でふきとばされてるからな」
「じゃあ、怖いって言っていたのは……、もしかして、演技だったの……?」
「利用したんだろう、そのことを。目的はもちろん、ララちゃんだ」
ララちゃんを囲いこむために、ルーファスは怖がるふりをして、ララちゃんをおびきよせていた、……そう思ったら、全てが腑に落ちたのよね。
わが息子ながら、目的のためには、母親の私ですら欺くなんて恐ろしい子だと思ったわ。
そんな執着の激しいルーファスを見ていたら、やっぱり番という言葉がうかんでくる。
本人が口にしない限り、私が聞くことはないけれど、多分、ララちゃんはそうでしょうね……。
ルーファスは絶対に口にしないけれど。
それは、もちろん、ガイガー様がひきおこした婚約解消のことで、ララちゃんが番に拒否反応があるため。
まあ、でも、ルーファスにとったら、ララちゃんはララちゃんで、番であろうが関係なく、なによりも大事な存在。
そんなララちゃんに、アンヌ様が、あんな暴言をはいて、傷つけようとしたなんて……。
ルーファスがいない時で、本当によかったわ。
もし、ルーファスがいればアンヌ様がどうなったのか……想像もしたくない。
それになにより、まわりにいたメイドたちもまきこまれて、万が一にでもケガをしたら大変だもの。
ララちゃんを傷つけようとする人を、ルーファスは絶対に許さない。
ララちゃんはすぐに許しそうだけれど……。
ララちゃん。
こんな重苦しい息子でごめんなさいね。
でも、私もルーファスのお嫁さんになるのは、ララちゃん以外に考えられないの。
ララちゃんのことが大好きだから、ララちゃんが本当の娘になってくれる日が今から待ち遠しいのよ。
やっぱり、ルーファスの親だから、そういうところ、少し似ているのかしらね。
それに、今日は別室で待機しているマクシミリアンだって、ララちゃんが来ると楽しそうに顔をだすし、私と同じ気持ちだと思うわ。
だから、ララちゃん。ごめんなさい。
あなたをルーファスから逃がしてあげられないわ。
あ、いけない……。
早く、マクシミリアンに報告しないと。
今頃、やきもきしながら待っていると思うから。
でも、アンヌ様のしたことを知れば、マクシミリアンも、アンヌ様のことは許さないでしょうね。
重い罰を受けることになっても、私もさらさら止める気はないのだけれど……。




