逃がしてあげられない.1(レーナ視点)
今回は、ルーファスの母、レーナ視点となります。
「はいっ! ルーファスを守ってきます!」
張り切った声でそう言うと、澄み切った青空のような瞳をきらきらさせて、庭にとびだしていったララちゃん。
その愛らしい姿に、こんな時なのに、自然と笑みがこぼれてしまう。
ルーファスは、ララちゃんにここにいるようにと、念を押して庭にでた。
片をつけるつもりなんでしょうけど、ララちゃんに見られたくない顔が色々あるものね、あの子は……。
でも、ララちゃんは、おとなしく待っている子ではない。
すぐにでもあとを追いかけようとしているのが、くるくるとかわる表情で手に取るように伝わってきたわ。
ルーファスを思ってくれる、ララちゃんのかわらない優しさが嬉しくて、ほっと、気持ちがあたたかくなる。
淡いピンク色のドレスにピンクの靴をはき、金色の髪をふわふわとなびかせて走るララちゃんは、本当に妖精みたいよね。
その小柄な体に、どれだけの光がつまっているのかしら……。
いつも、ルーファスのそばにいてくれて、本当にありがとう。
そう心でつぶやいた。
「だから、私は悪くないって言ってるの! ミナリアに似た、あの小娘が全部悪いんだから! ガイガー様を奪おうとして……! あんな小娘、消してやる! 離せーっ!」
執事のキリアンと護衛のランダに別室へ運ばれていく王子妃アンヌ様のわめく声が、扉の向こうで遠ざかっていく。
ララちゃんへのあまりの暴言が腹立たしくて、思わず、こぶしをにぎりしめてしまう。
アンヌ様には長くお会いしていなかったけれど、まさか、ここまで悪化していたなんて……。
番が、ガイガー様だったことはお気の毒だとは思うけれど、正直なところ、アンヌ様ご自身の問題が多分にある。
長年がんばってきたミナリアさんから王子妃の地位を奪った形になったアンヌ様。
王子妃は、贅沢するだけの立場ではないのだから、ミナリアさんと比べられるのは避けられないこと。
できなくても努力している姿をまわりに見せていれば、状況も少しはかわったのでしょうが、そういう性格の方でもないようだったし……まあ、今更よね。
それに、いくら、今、ご自分が不幸せであったとしても、鬱憤をはらすように、全く関係のないララちゃんを攻撃しようとしたことは、絶対に許せないわ。
長年、ロイド公爵家の公爵夫人としてやってきた私は、並大抵のことでは動じない自負がある。
でも、今回ばかりは、久々に怒りがわいてきて、公爵夫人の仮面がはずれてしまったわね。
なんといっても、ララちゃんは私のかわいい娘も同然なのだから。
ララちゃんは、私の学生時代からの親友、ソフィの愛娘。
ソフィが、しゃべりだしたばかりのララちゃんを連れて、うちにあそびにきてくれたのが、ルーファスがララちゃんと最初に出会った時だったわね……。
その頃のルーファスは達観したような子どもで、冷めた目をしていたのだけれど、ララちゃんが、「ルールー!」といって、きらきらした笑顔で呼びはじめると、ルーファスはその笑顔にすいこまれるように、見入っていたわ。
無邪気で、光の塊みたいなララちゃん。
すぐに、ルーファスにとっての一番はララちゃんになった。
わがままなんて一度も言ったことがなかったルーファスが「次、ララにいつ会える? 早く会いたい」って、ララちゃんとわかれるたびに、私に言いだした。
だから、忙しいソフィに無理を言って、ララちゃんを連れて遊びにきてもらったり、私がルーファスを連れて、マイリ侯爵家に伺ったりして、しょっちゅう会うようになったのよね。
それでも、ルーファスは不満そうだった。
ルーファスは毎日、ララちゃんに会いたがっていたから。
そんな日々が続き、何年かたったころ、ルーファスが誘拐されそうになる事件がおきた。




