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私が一番嫌いな言葉。それは、番です!  作者: 水無月 あん


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俺は気づいた(ガイガー視点)

今回はガイガーの視点となります。

「本当に、ガイガー王子は私をなんだと思ってるの? そんなひどいことを私が願うわけないじゃないの。ガイガー王子にできるような、簡単なことしか頼まないわよ。ガイガー王子の身体を傷つけたり、財産を使わせるような頼みごとは一切しないわ。ただ、前もって約束してくださる? 私が望めば、いつでも動くと」


俺に、強い口調で、そうつきつけてきたラジュ王女。

金色の目がぎらついて、竜の獣人というより、本物の竜を思わせて、ぞっとする。


正直言って、気味が悪い……。


ラジュ王女は竜の獣人としての強さがなにより自慢で、ルーファスにやけに執着するのも竜の獣人としての強さをかぎつけてのことだろう。


が、その気持ち、俺には全く理解できん。


俺も竜の獣人だが、好きになるのに獣人の血が濃いとか、獣人の力が強いとか、どうでもいい。

というより、むしろ、ラジュ王女のような女は願い下げだ。


王女のように全面に強さをだされたら、いくら美人だろうがそそられない。


そもそも、金色に光るこの目……。

獣人というより、獣だろう。


それにひきかえ、マイリ侯爵令嬢の可憐さよ。


王宮で間近で見た時、ミナリアに似ていると思った。

波打つような見事な金色の髪も、澄んだ青い瞳も、その愛らしい顔立ちも。


もう夢でしか会うことはできないと思っていたミナリアがマイリ侯爵令嬢のなかにいる。

そう思うと胸が高鳴った。


ミナリア……。


俺は後悔している。あの日、ミナリアを手放したことを……。


11年前、ミナリアとの結婚式当日に《《不運にも》》番のアンヌと出会ってしまった。


メイドとして働いていたアンヌを見た瞬間、衝撃がはしった。

今思えば、ひいでたところのない容姿だが、あの時の俺にはアンヌしか目に入らないほど輝いて見えた。


更には強く惹かれる良い匂いがして、これが番だ、と瞬間的に本能でさとった。


平民だったアンヌも血は薄いが、俺と同じ竜の獣人だ。

そのためだろう。俺が気づくのと、ほぼ同時に、アンヌ自身も俺が番だと気づいたようだった。


メイド姿のアンヌは手に持っていたトレイを放り出して俺の胸にとびこんできた。


そうなると、どれだけ、まわりが騒いでも、傍にいた従者が必死にとめても、心より体のほうが先に支配されたように腕の中にいる番を離すことができなかった。

婚約者のミナリアを愛し、ミナリアと結婚することを楽しみにしてきた、純粋なガイガーはその瞬間消え去った。


こうして、番という呪いに捕らえられた俺。


ただ、心も体も盲目的に番のアンヌにひかれていたのは、最初の1年くらいだけだったか……。


そのころは、番のアンヌが俺のすべてに思えていた。


番のアンヌさえいれば、なにもいらない。

番のアンヌといられれば俺は幸せだ、と……。


アンヌに王子妃の教育が始まると、アンヌは、「先生たちが厳しすぎる」「王宮の人たちは平民だった私を馬鹿にしてるんだ」「ミナリアと比べてひどい」と悔しがって泣くようになった。


俺は番が泣かされたことに怒り狂い、すぐに、国王である父上にアンヌを泣かせた者たちを全員やめさせるよう言いに行った。


父上は心底あきれたような目で俺を見たあと、俺に厳しい口調で言った。


アンヌの教育がどういう風に行われているかちゃんと見ろ。

泣きたいのは指導している者たちであろう、と。


父上の指示で、俺は、無理やり隠し部屋から、アンヌが王子妃教育を受けている場面を見せられた。


礼儀作法の授業だった。


内容としては、貴族であったなら、子どもの時に習うような、ごくごく基本的なことだ。

教師は丁寧に説明しているが、アンヌは突然泣き出した。


「わからない」「できない」と。


教師は困ったように、必要なことですから覚えてくださいとアンヌをなだめると、アンヌはわめきだした。


「私は王子の番なのよ! そんなこと覚える必要なんてない! あの人のそばにいるだけで私には価値があるんだから! 私にえらそうにしないでよ!」


理屈の通らないことを叫びながら泣くアンヌに驚いたものの、すぐに、番が泣いていることに正気ではいられなくなった。


俺は隠し部屋からとびだして、アンヌを連れて帰った。


アンヌに王子妃教育はもう受けなくていいと告げると、アンヌは大喜びした。


父上がアンヌを連れて、すぐに王宮にくるよう指示してきたが無視した。


アンヌ以外はどうでもいい。

そう思って、ふたりで屋敷にこもりがちになった。


だが、1年を過ぎたころから、急に、そんなふたりだけの暮らしが前ほど楽しいと思えなくなった。


だから、父上の呼び出しにこたえ、最低限の王子としての仕事をするため、たまに王宮に行くことにした。


すると、あの結婚式以来、思い出すこともなかったミナリアのことを、王宮にいくたび思い出すようになった。


王宮の庭を見れば、小さい頃、一緒に遊んだな、とか、テラスをみれば、あそこでミナリアとお茶をしたな、とか懐かしく思った。


子どもの頃、厳しい授業の合間に、王子妃教育で通っていたミナリアと休憩時間をあわせて、お茶をするのがなにより楽しみだったことも思い出した。


でも、屋敷に帰って、番のアンヌの顔を見たとたん、ミナリアのことは頭から消えた。


そんな日々が何年も何年も続いていたが、数年前から、アンヌを前にしても、ミナリアが頭から消えないようになった。


そうなって思うことは、あの日、アンヌに出会わなければよかった……ということだ。


今になって、何度も何度も考えてしまう。


ミナリアと結婚していた未来を。

俺を完璧に理解し、俺を完璧に支えてくれていた美しいミナリアが今も俺のそばにいてくれたなら、と……。


俺は、この11年の間に嫌でも気づいたことがある。

番の呪いは絶対的だが、呪いの強さは薄まってくるということを。



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