皇太后様
今すぐに飲みたいというわけじゃない……なんて誰もが嘘だとわかるくらいの勢いで、王女様にそう頼んだ第二王子。
「ガイガー王子の頼みなら、渡してあげたいところなのだけれど、ロイスに飲ませた物は本当にとても貴重で数がないの。ガイガー王子といえど簡単に渡せる物ではないのよ」
「そこをなんとかしてくれないか!? そうだ! 俺にわけてくれれば、ラジュ王女の望むだけの報酬を払う! いくら払えばいい!?」
必死の形相で王女様につめよる第二王子を見ていると、こういう人が、詐欺師に、まがい物を高額で買わされるのかなあと思ってしまう。
「人型の邪気は呆れるほど品がないよね? ねえ、ララ。耳障りだろうから、僕がララの耳をふさいでおこうか?」
と、ささやいてきたルーファス。
「え? それって、ルーファスが私の耳を手でおさえるってこと……?」
「もちろん、そうだよ」
今の私たちは、ふたりだけ、距離感おかしく座っているのに、そんなことまでしたら、ますます変でしょ!?
うん、それだけは阻止しよう!
私はあわてて首を横にふった。
「あのね、ルーファス、そんなことしなくていいから。私は大丈夫だからね」
「そう? なら、そうして欲しくなったら、すぐに僕に言って。いつでもララの耳をふさぐし、見たくなかったら、ララの目も僕の手でふさぐからね」
え、目までふさぐの……!?
そうして欲しくは絶対にならないと思うけれど、私を心配して言ってくれているルーファスの気遣いは嬉しい。
「あ、……うん、わかった。もし、万が一、そう思ったらお願いするね。ありがとう、ルーファス」
私の言葉に、ルーファスがふわりと微笑んだ。
その瞬間、光の粒がとびちった。
今、とてつもなく至近距離なので、目がつぶれそうなほど笑顔がまぶしい……。
なんて考えていたら、また、耳障りな叫ぶ声が聞こえてきた。
「ラジュ王女! 黙ってないで好きな額を言ってくれ! いくらでも払うぞ!」
王女様がフフッと笑った。
「まあ、落ち着いて、ガイガー王子。私は別にお金は欲しくないの」
「金がいらないのなら、宝石でどうだ!? とても価値があるものだぞ! 祖母から俺が譲り受けた貴重な宝石だからな。ラジュ王女が望むなら、それを譲る。ラジュ王女にとっても悪い交渉じゃないだろう!?」
ちょっと何を言い出すの、このバカ王子は!?
だって、第二王子の祖母と言えば、私が子どもの頃に亡くなられた皇太后様のことだよね!?
当然、ルーファスのおばあさまでもある。
私も一度だけ、この公爵邸で皇太后様とお会いしたことがある。
私とルーファスが遊んでいるのを、とても優しい目で見ていらした。
そして、帰り際に私に声をかけてくださったんだよね。
「ララちゃん。ルーファスのそばにいてくれてありがとう。ララちゃんがルーファスのおともだちで安心したわ。ルーファスをこれからもよろしくお願いね、ララちゃん」
そう言って、私の手を両手で優しくにぎってくださった皇太后様。
皇太后さまにお願いされたのが嬉しくて、幼かった私は、「はい! ルーファスのこと、よろしくおねがいされます!」って、わけのわからない返事をしたんだっけ……。
それからすぐに皇太后様が亡くなられて、ルーファスが泣いているんじゃないかと心配になって、私はすぐにルーファスに会いに行った。
そうしたら、寂しそうな顔をしたルーファスが、「ララがきてくれたから大丈夫」そう言って、ぎゅうぎゅう私をだきしめてきた。
その時、ルーファスは泣かなかった。
それなのに私が大泣きしてしまって、反対に、ルーファスになぐさめられたという情けなさ……。
その時、ルーファスが、ルーファスの瞳の色に似た、とっても美しい宝石を見せてくれたんだよね。
「おばあさまにいただいた宝石だよ。僕を守ってくれるんだって」
そう教えてくれたルーファス。
すると、その宝石がルーファスにむかって、優しくひかっているように私には見えた。
あの日、ルーファスを見守っていた皇太后様の優しい目みたいに。
だから、私はほっとして、ルーファスに伝えた。
「このきれいな宝石は皇太后様の目なんだね。ルーファスをずっと見てくれてるんだよ。良かったー!」
って。
そうしたら、ルーファスは嬉しそうに微笑んで、私に言ってくれたんだよね。
「ララへのお守りの宝石は、大きくなったら僕がプレゼントするから。それまで待っててね」
「じゃあ、私、ルーファスの宝石とおそろいがほしい! ルーファスの瞳の色、私、大好きだから!」
確か、そう答えた記憶がある。
つまり、そんな大事なお守りの宝石を第二王子は王女様に引き渡そうとしてるってことだよね。
自分勝手な欲のために……。
本当に信じられないバカ王子だ!
怒りがむかむかとこみあげてくる。
「ガイガー様。失礼を承知で申し上げます。その宝石は、皇太后ルビナ様が孫である王太子様、ガイガー様、そしてルーファス、それぞれの行く末を案じて、祈りをこめてくださった、いわばお守りの宝石です。どのような物とひきかえであったとしても、手放すようなことはなさらないでください」
レーナおばさまの口調はとても穏やかだけれど、怒りがにじんでいるように思えた。




