不気味すぎる
第二王子が人型の邪気……。
なるほど、確かに。
ルーファス、うまく例えるね……と思わず納得してしまう。
でも、いつものルーファスだったら絶対に口にしないような毒のある言葉にちょっとびっくりした。
まあ、根も葉もないことを言われて侮辱されたら、天使のルーファスだって、怒って当然なんだけど。
そんなことより、なぜ、ルーファスはそこにいるの……?
だって、私は今、レーナおばさまのすぐ隣に席を用意してもらって坐っている。
レーナおばさまとルーファスの間ではあるけれど、レーナおばさまに寄った位置に椅子が用意されていた……はず。
でも、今は、ルーファスの席が寄ってきて、いつのまにか、椅子どおしがくっついているような感じだ。
その状態でルーファスは私の手をにぎっている。
「ええと、ルーファスは、いつの間に移動してきたの……?」
とまどいながら、聞いてみた。
「僕がララと離れていられると思う? 母上より遠い席だなんて、許せないからね」
当然と言った感じで答えるルーファス。
「いや、ルーファス。遠い席って……そもそも全く遠くはないよ? 隣の席だから。それより、こんなに、くっついて坐っていたら変じゃないかな……?」
「ちっとも変じゃないよ。気にしないで、ララ」
「ルーファス、あなた、うっとうしいくらい心が狭いわね。しかも、年々ひどくなってくるわ……」
レーナおばさまがあきれたようにつぶやいた。
「おい、ルーファス! 声が小さくて内容は聞こえなかったが、その腹の立つ顔を見ていたらわかる。マイリ侯爵令嬢に俺の悪口をふきこんでいただろう?」
ちょっと、ルーファスのどこをどう見たら、腹が立つ顔なの!?
それに、それを言うなら自分の顔でしょう!?
性格だけじゃなく、視力まで悪いとは!
カーッとなる私の隣で、ルーファスがさらりと答えた。
「悪口? いや、本当のことを言っていただけだ。そもそも僕はララに嘘はつかない」
「ふん、何が嘘はつかないだ。存在自体が嘘っぽいだろう。まあいい。今回は見逃してやる。俺がマイリ侯爵令嬢と話をすると、俺に取られそうで不安なんだろうからな。嫉妬して、余裕がないルーファスを見るのも悪くない。まあ、その気持ちが報われて、ふたりが一緒になる未来など永遠にこないだろうが……せいぜい足掻いてみろ!」
上機嫌でそう言い放った第二王子。
あのね、ルーファスが不安になるとしたら、私がその顔めがけて、靴を投げつけないかどうかだよ?
今こうしていても、投げつけたくて、足がうずうずしているんだからね!
底をみせない最低発言を繰り返す第二バカ王子に、靴を投げつけたい気持ちがあふれだす間隔がどんどん狭まってくる。
すると、ルーファスが私の手を更にぎゅーっとにぎってきた。
「ララ、もう一度言っておくけど、ララの履いている靴はあれに投げないでね? どうしても我慢できなくなったら、この部屋にある物を投げて。なんでも投げたらいいけど、ララの身に着けている私物だけは投げないでね? ララの物があれに触れると思ったら許せないからね。そうなったら、僕はあれに靴を投げるなんてかわいいことではなくて、きっと、とどめを刺してしまうと思うんだ」
と、ささやいてきたルーファス。
「え……、とどめ……? ルーファス、今、とどめを刺すって言った……?」
「そうだよ、ララ。だから、ララの物だけは投げないでね」
自分の耳が信じられない。
ルーファスの甘い声が紡いだ言葉とは思えないんだけど……。
でも、そこまで、ルーファスが私の物が第二王子に触れるのが嫌って……なんでだろう?
それに、触れるなんてやさしいものじゃなくて、たたきつけようとしているのに、それでもダメなのかな?
あ、そうか、わかった……。
ルーファスにとったら、第二王子は人型をした邪気。
私の物に邪気がつくのを心配してくれているんだ。
それなら、なおさら、ルーファスの家の物を投げるわけにはいかない。
この部屋にある、素敵な物を邪気で汚すわけにはいかないもんね。
壊れるかもしれないし。
ルーファスに止められても、やっぱり投げる時は、私の靴しかない!
長年の恨みをこめて軽やかに靴が命中するところを思い描きつつ、その憎々しい的を見ると、その的は、今度は、ロイスさんの方を向いていた。
「ラジュ王女の従者よ。確認するが、本当に番のことを完全に忘れられたのか?」
「……はい」
「番を思う気持ちは全く残っていないのか?」
「……はい」
ロイスさんが淡々と答えた。
その途端、はじかれたように大きな笑い声をあげた第二王子。
なになになに、どうしたの!?
不気味すぎて怖いんだけど……!?
「そうか……! 番は本当に忘れられるのか! 番という呪いはとけるんだな……!」
そう叫ぶと、ひとしきり狂ったように笑ったあと、第二王子は王女様に顔を向けた。
「なあ、ラジュ王女。従者が飲んだという、その番をわすれられる物を俺にもわけてもらえないだろうか? ああ、別に俺が今すぐに飲みたいというわけじゃないぞ。何かあったら、すぐに飲めるよう、念のために、持っていたら便利だと思っただけだ。だから、わけてくれ!」
第二王子はぎらついた視線を王女様に向けた。
誤字報告、ありがとうございました!
読みづらいところも多々あるかと思いますが、読んでくださったかた、本当にありがとうございます!
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