敏感ですが!?
レーナおばさまの言葉には有無をいわせない迫力があって、直接、釘をさされた形のロイスさんは押し黙った。
ついでに、王女様も、第二王子までもが圧倒されたようにレーナおばさまを見るだけで、何も言えないでいる。
それにしても、ロイスさんのことを「目で語るでおさめるには、少しばかり度をこしていた」って言っていたから、レーナおばさまもルーファス同様に、ロイスさんの視線から力がでていると感じていたんだね……。
確かに、ロイスさんの目からは悲しみの感情があふれだしていて、ロイスさんの気持ちがわかったような気になった。
でも、その視線から何か特別な力が発せられていたかどうかは、私にはわからない。
私がその力に影響をうけていたかどうかも……。
それよりも、今の私はレーナおばさまが言ってくれた言葉に感動していた。
私をとても大切におもってくださっているってこと。
幼い頃から、レーナおばさまはいつだって優しくて、私をかわいがってくれていたけれど、改めて、はっきりと言葉で聞くと、心があたたかくなって、ものすごく嬉しい!
「私のことをそんな風に思ってくださってありがとうございます、レーナおばさま!」
私の言葉に、陽だまりのように微笑みながら、うなずいたレーナおばさま。
「なんかずるいよね、母上は。いつも、ララの前で、いいところを持って行くんだから……。ねえ、ララ。母上は僕に負けないくらいって言ったけど、ララを大切に思う気持ちは、僕は誰にも負けないよ。僕の一番大事なのはララだ。ララじゃなければ他はどうだっていい。もちろん、僕自身もね」
「いやいや、どうだってよくないよ、ルーファス!? ルーファスはもっと自分のことを大切に思って、自分のことを最優先にしなきゃ。小さい頃から、ルーファスは優しくて、私のことばかり心配してくれているけれど、どう考えてもルーファスのほうがずっとずっと危ないからね!?」
今だって、おそらく、王女様はルーファスを気に入って、ジャナ国に連れて行こうと狙っている。
第二王子も、王女様のその邪な思いを知って結託している。
自分とはくらべものにならないくらい、どこをとっても優秀なルーファスが目障りだから、ジャナ国に追い出そうという魂胆なんだと思う。
そうはさせない!
ルーファスは私が守るんだから!
という強い決意で、第二王子と王女様をきりっとにらんだあと、ルーファスに向きなおった。
「ルーファスは、どこにいたって、輝きまくっているんだから用心しなきゃ!」
「いや、待って、ララ。僕が言いたいのは、僕にとってララが全てで、ララが誰より大切で……」
「うんうん、ありがとう。天使のように優しいルーファスは、いつだって私を優先して心配してくれるもんね。でも、私は大丈夫。ちびっこではあるけど、心身ともに頑丈だよ?」
と、胸をたたいてみせる。
レーナおばさまがフフッと笑った。
「自業自得ね、ルーファス。ララちゃんを独占したいばっかりに、ララちゃんの素直さにつけこんで、そういう風に思わせてきたのだから」
ん? そういう風とは、どういう風……?
ルーファスは、不満げな顔でレーナおばさまをにらんだ。
その顔が、小さい頃のルーファスと重なって、思わず、顔がゆるんでしまう。
小さい頃、ルーファスのお屋敷に遊びに行くと、お茶の時間に色々なお菓子を用意してくれていた。
毎回どれもおいしくて、もりもりといただいていたんだけれど、お茶が終わったあと、決まって、ルーファスが聞くことがあった。
「ララは、どのお菓子が一番おいしかった?」って。
というのも、その中には、毎回、ルーファス自らが選んだお菓子が必ずまじっていたから。
そのお菓子がどれかをルーファスは私には秘密にしていた。
私が「全部おいしかった!」って答えるとダメで、必ず一番がどれかを答えるよう、ルーファスはたずねてきた。
正直、どのお菓子も美味しいから、うんうんと迷いながら、なんとか一番を決めて答えていた私。
それがルーファスが選んだお菓子だったら、ルーファスは、きらきらした笑顔で大喜びするし、レーナおばさまの選んだお菓子だったら、悔しそうに、レーナおばさまを見ていたんだよね。
今の顔みたいに……。
そういうところ、負けず嫌いだったよね、ルーファスは。
はあー、思い出しただけで癒される……。
小さい頃のルーファスは、背中に羽根が見えるくらい、見た目も天使そのものだったもんね。
つい、思い出しながら、にまにましていると、一気に気持ちの下がる笑い声が聞こえてきた。
「これはおもしろいな! いつだって要領良く、誰をも取り込むルーファスも、マイリ侯爵令嬢のずば抜けた鈍さには、えらく手こずっているようだな? いいぞ、マイリ侯爵令嬢! そのままつきすすめ! ルーファスには絶対になびくなよ!」
思わず、鳥肌がたった。
むやみに私の名前を呼ばないで欲しい!
しかも、私がずば抜けて鈍いって言った……?
ルーファスに害をなす対象には、私はとてつもなく敏感なんですが!?
ということで、鳥肌がたった腕をさすりながら、相手が王子であっても、不敬であっても、許せないものは許せないのできっちりと反論した。
「ルーファスは誰のことも取り込んだりなんてしませんから!」
私の言葉に、嫌なものが漏れだしまくったような笑顔をむけてきた第二王子。
「ああ、そうか。それもそうだな……。では、正確に言いなおそう。ルーファスは、自分の得になる相手を取り込むのが上手い。例えば、俺の父である国王とかな……。そのうわべに皆がだまされるが、ルーファスの本性は狡猾だ」
はあああ!? 狡猾!?
ちょっと、この第二バカ王子は、よりにもよって何を言っているの!?
そんな黒々した要素、天使のようなルーファスには、体中さがしても、ひとかけらだってありません!
「ルーファスは狡猾なんかじゃないです! ルーファスは光の塊で……」
言い返そうと身をのりだした途端、ルーファスが私の手をぎゅっとにぎった。
「ララ。僕のことは、何を言われようが、本当にどうでもいいから。それよりも、それ以上、あれを直視したらダメだよ。あれの声も聞きとろうとしなくていいからね。もちろん、ララの声も聞かせないで。ララに相手をしてもらえるような価値、あれには皆無だからね。うるさい虫……いや、それだと虫に失礼か……。あれはただの人型をした邪気だと思って? だから、ララは、あれと目をあわせたら絶対にダメだよ。危険だからね。ララの澄んだきれいな目にうつしたら、あれの邪気でララの目が傷ついてしまうよ」
と、優しい声で、棘だらけの言葉をささやいてきた。




