視線
あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いいたします。
「ダメだよ、ララ。簡単に他の男にひきよせられたら」
頭上からふってきた、ルーファスの声。
ええと、身動きがとれないんだけど……。
しかも、あたたかいところに顔がうずもれていて、何も見えない。
ちょっと、今の私ってどういう状況……!?
「なにやってるの、ルーファス。ララちゃんが苦しいでしょ? すぐにララちゃんを解放しなさい」
レーナおばさまの言葉に、やっと頭がまわりだす。
「ねえ、ルーファス……。ちなみに確認なんだけど、今、私はルーファスにおさえこまれているの……?」
「違うよ、ララ。ララは僕に抱きしめられてるの」
と、甘い声で答えたルーファス。
「そうか、抱きしめられてるんだ、なるほどね……じゃなくて、どう考えても、そんなふわっとしたやわらかいものじゃないよね!? しめられているかのような力の強さで、全く身動きできないんだけど!?」
「あ、ごめんね、ララ。苦しかった?」
「ううん。不思議なことに全く苦しくはない。ただ、一ミリも動けないだけ」
「それなら、良かった。じゃあ、しばらく、このままでいて?」
「いやいや、良くはないよ、ルーファス!? いくらなんでも、おかしいからね、この状態!」
「でも、ララが心配だから。ほら、ララは誰にでも優しいから、すぐに質の悪い虫をひきよせるし。だから、僕の腕の中で隠しておこうかと思って。こうやって、僕が抱きしめてたら、ララは他の男に目でひきよせられることもないし、安全だよね。……ああ、それと……」
ルーファスの声ががらっとかわった。
「また、ララに何かしたよな? さっき警告したはずだけど、どういうつもりだ……?」
「いえ、べつに、なにもしてませんが……」
と、ロイスさんの答える声。
「ちょっと、ルーファス!? だから、私はロイスさんに何もされてないよ!? 私が勝手に力になりたいと思っただけ……」
「ほら、やっぱり。もう、つけこまれてる。ララがそんなことをする必要はないから。というか、絶対にさせない」
ルーファスはそう言い放つと、腕の力を更に強めてきた。
「ルーファス、いい加減になさい。早く、ララちゃんから手をはなしなさい」
すぐそばでレーナおばさまの声がしたと思ったら、私をおさえこんでいたルーファスの腕がはなれた。
その瞬間、「馬鹿力……」と、ルーファスがつぶやいたような……。
というか、今、レーナおばさま、ルーファスの腕を素早く叩き落とさなかった……?
いや、でも、まさかね……。
靴を投げたがる私とはちがって、レーナおばさまは女神様だから、そんなことは絶対にしないだろうし。
まあ、私は顔がルーファスの胸にうずもれている状態だったから、ちらっと見えただけ。
きっと見間違えたんだね……。
ルーファスからひきはがされた私は自分の席に戻ろうとすると、レーナおばさまに腕をとられた。
「ララちゃんの席をここに用意して」
と、キリアンさんに小声で指示したレーナおばさま。
キリアンさんが手早く、レーナおばさまとルーファスの間に椅子を運んできた。
「ララちゃん、ここに座って」
と言われ、促されるまま席に着いた私。
「あら、ロイド公爵夫人。なぜ、ララベルさんの席を移動させるのかしら? もしかして、ルーファスが言った、ロイスがララベルさんに目から力を発して引き寄せようとしている、なんて絶対にありえないことを信じて、ロイスの前から移動させたのではないでしょうね?」
王女様がレーナおばさまに不満げな顔で問いかけた。
「いえ、ルーファスの言うことを信じたのではなく、ただ、私自身が気づいたのですわ」
「気づいた……?」
「ええ、そうです。王女様はロイスさんのお隣に座られているから、ロイスさんがララちゃんに向けた視線を見ていないですものね。ですが、こちら側から見ると、ロイスさんは視線をとおして、ララちゃんの心に直接語りかけていましたわ。もちろん、目で語ることが悪いなんてことはありませんし、場合によっては、ロマンチックでもありますわね。ですが、私から見たら、ロイスさんは目で語るでおさめるには、少しばかり度をこしておりました。それに、ララちゃんは素直すぎて、そういう力に影響を受けやすいようです。ララちゃんの席は、ロイスさんの正面でしょう? さすがに心配ですから少し離させていただきました。つまり、今後、ロイスさんがララちゃんを見るときは、私とルーファスふたりのチェックが入ると思ってくださって結構ですわ。視線にはお気をつけくださいね。私もルーファスに負けないくらい、ララちゃんのことはとても大事に思っているんですの。つまり、私たちは親子は、ララちゃんに限って心配症なんですわ。そういうことですので、ロイスさん。失礼なことを言いましたが、お許しくださいね」
そう言って、レーナおばさまは優美に微笑んだ。




