止めなきゃ!
自分が、いつの間にか泣いていたことにびっくりした……。
しかも、結構な涙の量なんだけど……。
泣けないロイスさんの代わりに私は泣いてしまったのかもしれない、ふと、そう思った。
ルーファスが甲斐甲斐しく、私の涙をふいてくれている。
つまり、今の私は大泣きして、人に涙をふいてもらっている状態ってこと。
おっと、はずかしい……!
私はあわてて、ルーファスに言った。
「ありがとう、ルーファス。もう、大丈夫だから!」
私の言葉に、ルーファスが確認するように私の顔をのぞきこんできた。
「ララが誰にでも優しいのはよくわかってるんだけど……。でも、僕以外の男のために泣いてほしくないな」
とろけるような甘い声でそう言ったあと、今度は、ハンカチじゃなくて、指で残っていた涙をぬぐうルーファス。
一気に顔が熱くなった。
「ルーファス、おやめなさい。ララちゃんが真っ赤じゃないの」
レーナおばさまがあきれたように注意した。
が、何故か、ルーファスはやめるどころか、今度は手のひらで私の頬を優しくなではじめた。
「ちょっと、ルーファス! ……もう、私の声が全然聞こえていないわね。嫉妬して、変なスイッチが入ったのかしら……?」
レーナおばさまの声がするけれど、私はルーファスから目をそらせない。
というのも、いつもは無邪気な天使ルーファスから、なにか妖しいものがあふれだしているようで、心臓がドキドキと大きな音をたてはじめた。
顔は更に熱くなってきて、涙がどんどん蒸発していく……。
このままルーファスに見つめられると、涙どころか、体中の水分が蒸発して、私、ひからびてしまうんじゃない!?
と、心配になったとき、テーブル越しにいらいらした声が聞こえた。
「ララベルさん、あなた、なんて、あざといの? 弱弱しかった、あの娘にそっくり。すぐに泣いて、強い獣人の男の同情をひくだなんて。ただの人って、本当、浅ましいわね」
もちろん、王女様だ。
熱かった顔が一気に冷えてくるなあ、と思った次の瞬間、
ガチャン!
大きな音がした。
何事!?
あわててまわりを見回すと、王女様の背後に飾ってあった大きな花瓶が床に落ちて、割れている。
え、なんで突然!?
まさか、ポルターガイストとか……!?
驚く私をよそに、全く動揺も見せず、メイドさんたちが素早く片付け始めた。
さすが公爵家の有能なメイドさんたちだな……。
じゃなくて、なんで、無風のこの部屋で急に花瓶が落ちたんだろう?
「もう、この子ったら、物にあたってどうするの……」
レーナおばさまがルーファスに厳しい顔を向ける。
そのルーファスは王女様をにらみつけている。
えっと……、つまり、今のはルーファスがなにかしたってこと……?
でも、ルーファスは手はだしてないし、花瓶からも離れている。
もちろん、私みたいに靴を投げるんなんてこともしないから、あの位置の花瓶を落とすなんて、どうやって……?
混乱していると、レーナおばさまがルーファスを見て固まっている王女様に言った。
「申し訳ありません、王女様。息子はまだまだ未熟で力が暴走したようです。お怪我はありませんか?」
「……ええ」
茫然としたまま、しぼりだすように答えた王女様。
が、突然、熱にうかされたようにルーファスを見つめながら、話し始めた。
「……ルーファス、あなた、すごいわ! 今の暴走じゃなくて、狙ったんでしょう!? だって、私の顔のすぐ横を、球のように凝縮された何かが通っていったもの! まさか、ルーファスの威圧の力だったなんて……! こんな風に威圧を使う竜の獣人に私は会ったことがないわ! 今は花瓶だったけど、敵に直接当てたら、効果的に倒せるってことよね。それって、すごい武器じゃない!? 先祖返りと言われる私と武器を持つルーファス。私たちが組んだら最強になるわ!」
顔を輝かせて、興奮した様子の王女様。
は? 武器……!?
王女様はあの大きな花瓶が落ちるような力を人にあてることを想像しているの!?
私は思わず、ルーファスの手を取り、言った。
「王女様! 心優しいルーファスは他人にそんな恐ろしいことをしませんから! 武器だなんて言うのはやめてください!」
「まあ、ララベルさん。なんの力もないただの人にはわからないでしょうけど、力が武器になるなんて理想じゃない? 私は誉めてるのよ!」
そんなの、誉め言葉でもなんでもない!
ルーファスを汚されたようで怒りが沸騰する。
言い返そうとした時、
「……そこまで言うのなら、特別にあてましょうか? 王女に……」
ぞっとするような冷たい声がした。
え……? ルーファス……?
見ると、凍りつきそうな視線を王女様に向けているルーファス。
というか、ルーファス。
今、あてるって言った……?
あんな大きな花瓶が落ちるような力をあてたら、首がもげるよ!
ダメだ、なんとしてでも止めなきゃ!




