違うよね?
ルーファスの声に、一瞬、おびえたようにびくっとした王女様。
確かに、ルーファスの地をはうような声は、まるで天使から魔王に豹変したかのような大迫力だったもんね。
でも、私にとったら、どんな声であっても、「僕がララと離れることは絶対にない」とルーファスがはっきり言ってくれたことが嬉しくて、心が、あたたかいものでいっぱいになっていく。
だって、私もルーファスとずっと一緒にいたいと思っているから。
以前、アイリスに、もし、ルーファスに番が現れたらどうする? と聞かれた時があった。
私は、その時、もしも、ルーファスが番と出会って、その番もいい人だったら、私はルーファス離れをするし、沢山泣いてしまうだろうけれど、ちゃんと祝福する。覚悟を決める! ……なーんてえらそうに宣言したけれど、正直、そんな覚悟ができるのか全く自信がないんだよね。
多分、私はルーファスに番があらわれて、ルーファスと今までみたいに一緒にいられなくなる日のことを、ずっとずっと不安に思っていたんだと思う。
だから、今のルーファスの言葉は本当に嬉しい!
嬉しすぎて、何度も何度も脳内で再生していると、王女様が言った。
「今はそう言っていても、ルーファスも私の言ったことを認めざるを得なくなるわ。ルーファスは獣人のなかでも、数少ない、選ばれた獣人なのよ。そんなに竜の力が強いのに、何の力もないただの人と一緒にいられるわけがないし、いていいわけはないもの。だから、ルーファス。幼馴染に気をつかうのはやめて、そろそろ、竜の獣人としての生き方を考えたほうがいいわ。……あら、戻ってきてたのね。いつからそこにいたの、ロイス?」
と、ルーファスと話していた王女様が、その視線を部屋の入口のほうに向けた。
思わず、視線を追って振り返ると、王女様の従者であるロイスさんが部屋のドア付近に立っていた。
「ロイスさん、モリナさんを運んでくださって、ありがとうございます。モリナさんはもう大丈夫かしら?」
レーナおばさまがロイスさんに問いかけた。
あ、モリナさんのことをすっかり忘れてた……。
そういえば、モリナさんがルーファスの竜の威圧とやらで動けなくなったから、マリーさんだけじゃ連れていけなくて、ロイスさんが荷物のように運んで行ったんだよね。
ロイスさんは無表情のまま、レーナおばさまに向かって答えた。
「令嬢は顔色も元に戻り、全く異常はないようです。ですが、強い威圧を受けて疲労がでたのか、そのまま眠ってしまったため、侍女長がその場に残られ、付き添われています」
「そう。よかったわ……。ロイスさん、ルーファスのせいで、ご迷惑をおかけしてすみません。すぐに席を用意しますから、ロイスさんもおかけになって、お茶をどうぞ」
レーナおばさまが申し訳なさそうに言ったけれど、モリナさんに威圧を放った当のルーファスは、王女様を監視するように鋭い視線で見据えたままだ。
「いえ、私は結構です。今日は引き続き王女の護衛として……」
淡々と語るロイスさんを、王女様の声が遮った。
「ロイス。ちょうどいいわ。モリナさんの席があいたから、そこに座って、お茶会に参加しなさい」
「ですが、私は護衛を……」
「ロイス、護衛なんていいわ。いますぐ、ここに座りなさい!」
声を荒げて命じる王女様。
「……はい」
感情のない声で返事をしたロイスさん。
顔は無表情のままだけれど、ロイスさんはお茶会に参加したくないんじゃないか、と思う。
でも、王女様にはさからえないみたい。
ロイスさんは足早にこっちに近づいてきた。
テーブルの横をとおりすぎた時、ロイスさんの黒いしっぽが先まで力が入ったように見えた。
この国では、しっぽがある獣人は見かけないので、しっぽがどういう意味を持つかはわからない。
でも、ロイスさんのしっぽは、怒りを我慢しているように思える。
なんて考えていたら、
「失礼します」
そう言って、ロイスさんが王女様の隣、モリナさんがすわっていた席についた。
椅子の横からちらりと見えるロイスさんのしっぽ。
無表情のロイスさんの感情がしっぽだけに現れているようで気になってしまって、つい目で追ってしまう。
王女様が、そんな私に気がついたように意味ありげに微笑んだ。
「ただの人であるララベルさんはロイスのしっぽが気になるみたいね? ロイスの黒くて長いしっぽは、クロヒョウの獣人の特徴なのよ」
クロヒョウ……? なんか、どこかで聞いたような……。
あ! さっきの王女様の話にでてきた公爵子息もクロヒョウの獣人って言ってた!
え、まさか、違うよね……?
あの公爵子息はロイスさんのことじゃないよね……!?
そうあってほしいと願うように、私はロイスさんを見た。




