私の親友ララ 2(アイリス視点)
※ 今回もアイリス視点です。
ララと出会ってから11年。私たちは16歳になった。
いつのまにか、私の婚約者であるグレンと、ララの幼馴染ルーファスもまじえて、4人でいることが多くなった私たち。
が、最近、私は、ララについて、ひそかに心配していることがある。
それはルーファスのことだ。
ルーファスは私たちよりひとつ年上だから、当たり前だけど、学年が違う。
なのに、休み時間になると、ララのそばに普通にいるルーファス。
前に、ララが、「なんで、ルーファスは休み時間になると、ここへくるの?」と聞いたことがある。
「休み時間だから、一番休めるところにいるだけ」
ルーファスはララだけを見て、甘ったるい笑顔で答えた。
ある意味、凶器のようなその笑顔。
毎日教室に来るため、ルーファスの存在に慣れてきたはずの女子生徒たちからも小さな悲鳴があがった。
が、その笑顔を真正面から受け止めたララ本人は、満面の笑みでうなずき返して、こう答えた。
「確かに、この教室、居心地がいいもんね! 休み時間だから、好きな所で休んだらいいよ、ルーファス」
いや、そうじゃない! と、近くにいたみんながそう思ったはず。
こんな感じで自分のことには、とことん鈍いララが、「私ってクラスの男子に怖がられてるみたい」と言ったことがあった。
11年たった今も、ララは見た目だけなら妖精らしさは健在。
しかも、成長するにつれ、可憐な愛らしさに加え、美しさもまざってきたララ。勢いのある中身もそのままで、外見とのギャップはひろがるばかり。
そんなララを怖がる?
おもしろいならわかるけど、怖がる要素はみじんもない。ありえないよね。
そう思って、よくよく観察していたら、ララが話しかけると、あからさまに怯えた目をする男子生徒が確かにいる。
しかも、全員が獣人の男子生徒。
ああ、なるほど……。
それ、ルーファスのせいだから。
ルーファスといえば王弟のご子息であり、貴族社会に君臨する公爵家の嫡男で、そのうえ、この美貌。
そんなルーファスが背後霊のようにはりついているララに、話しかけようとする勇者はこのクラスにはいない。
しかも、ルーファスは竜の獣人。
獣人の男子生徒にとったら、例えルーファスがそばにいない時でも、ララをとおして、ルーファスの気配を感じて怯えてしまうんだと思う。
自分の背後に、こんな強大で面倒な存在をひっつけていることに、まるで気づいていないのは、ララ本人だけ。
しかも、信じられないことに、ララのルーファスに対する認識がおおいに間違っている。
ララにはクラスメイトを威圧するようなルーファスが、守るべき天使のような存在に思えるらしい。
私が初めてルーファスに会ったのは、学園に入ったばかりの6歳の時。ララに紹介されたから。
その時は、確かに、見た目だけなら、天使のような美少年だったルーファス。
今も、見た目だけなら、中性的な美しさをもつルーファスだけど、ララの背後にたち、あの切れ長の目をさらに鋭くさせて、まわりの男子を威圧する様子は、もはや天使とは対照的な存在に見える。
だけど、鈍感すぎるララは、そんなルーファスのもろもろに気づくことはない。
この前も、休み時間に、いつものように、うちのクラスにきて、ララと話をしていたルーファス。
廊下を歩いていた違うクラスの女子生徒たちが、ルーファスを見つけて色めきだった。
すぐに教室にはいってきて、ルーファスに近づいて来ようとしたことに気がついたララ。
ルーファスをその子たちの視線からかばうように、華奢な両手をのばしてルーファスの前に立ったララ。
澄み切った青い瞳がいつになく、きりっとしてる。
思わず本音がもれた。
「あのね、ララ……。ルーファスはララがそんなふうにかばわなくても全然大丈夫だから」
「アイリス。確かに、ルーファスは体は大きくはなったけど、優しすぎるからね。心配なの」
真顔で言うララ。
「は……? どこのだれが優しすぎるって?」
思わず、ララに問い返した。
その時だった。
ララの後ろにいたルーファスが、背後から囲い込むように、両手をララの肩にのせた。
ララは、ルーファスに頼られてると思ったらしく、「ルーファス、私の背中に隠れてて!」と、小声で言って、近寄ってくる女子生徒たちと対峙する。
いやいや、ララ……。
それ、なにもかにもがおかしいから……。
まずもって、ララの小さな背中に全く隠れきれていないルーファスは、ララの背中越しに、女子生徒たちを威圧してるから。
切れ長の紫色の瞳は凍りそうなほど冷たく、一切の笑みが消え去った美貌はひたすら怖い。
そう、ララには絶対に見せない顔。
かわいそうにルーファスに威圧された女子生徒たちは「ひっ……!」と声をあげただけで、逃げるように教室からでていった。
その様子に、ララは、「あれ? まだ、なんにも言ってないのに。私の顔、そんなに怖かったのかな……?」と、首をかしげている。
いや、それ全然違うから! と、これまた、近くにいたみんなはそう思ったはず。
なんともいえない空気が流れるなか、ルーファスがララの前にまわって、とろけるような笑顔をみせた。
「いつもありがとう、ララ。ララがそばにいてくれるから、僕、安心だよ」
「うん! ルーファスは私が守るから」
と、笑顔で宣言するララ。
さすがに見かねた私が、「ちょっと、ララ。ルーファスにだまされ……」と言いかけたときだった。
「アイリス、余計なことを言うのやめてくれる?」
鋭い視線で私を見据えたルーファス。
血が薄いといえど、猫の獣人である私。
竜の獣人の威圧に、悔しいけれど、黙るしかなかった。
そんなルーファスのララに対する日々の行動を見ていると、どうしても、考えてしまうことがある。
もしかして、ルーファスの番って、ララじゃないかってこと。
獣人の血のうすい私には番のことはピンとこないけど、考えれば考えるほど、そう思えてならないのよね……。
でも、あの第二王子の一件で、「番」にあれほど拒否反応を示すララだから、それを知ったらどう思うのか、傷ついたりしないだろうかと心配になる。
ちなみに、婚約者のグレンに私の考えを言ってみた。
「ルーファスの番がララ? うーん、僕、獣人じゃないから全然わからないや。まあ、ふたりはすごく仲がいいから大丈夫。どっちでもいいんじゃない?」
にっこり笑って、のんきに答えたグレン。
そう、グレンは獣人うんぬん以前の問題で、ララ同様に鈍すぎる男だった。
相談する相手を間違えたわ。
とにかく、大切な親友を傷つけるようなことがあれば、例え、ルーファスであろうと容赦はしない。
相手が竜の獣人で、こっちが、ひ弱な猫の獣人であっても、ララのためなら、死に物狂いで奇襲でもすれば、ひっかき傷のひとつくらいはつけられると思うから。
私のたったひとりの大事な親友ララ。
傷つけたら絶対に許さないからね、ルーファス。




