私にまかせて
ルーファスを狙う王女様と、ルーファスを邪魔に思い、王女様と結託しているだろう第二王子。
そんな魔の手から、ルーファスを守るのが私の使命!
敵はふたり! 左足と右足。そう、靴はちょうどふたつある。
が、ふたつしかないともいえる。
投げるときは確実にあてないとね。失敗は許されない。
めらめらと闘志に燃える私の耳に、隣から、ささやく声が聞こえてきた。
「仕掛けられるのをまってたけど、もう耐えられないな。ララを馬鹿にする口は一刻も早く閉じてしまいたいんだけど……」
不穏な言葉に、思わず、ルーファスを見る。
美しいサファイア色の瞳が冷気を放ちながら、王女様をロックオンしていた。
今のルーファスに何か言わせたらダメだと、とっさに思った。
私の為に怒ってくれているけれど、心は天使のルーファスだから。
争いとは無縁のところにいる存在なのに、普段は使わない不穏な言葉を発したりして無理をさせると、ルーファスの清らかな魂が削られていくもんね。
ということで、ここは私にまかせて!
何か言いだしそうなルーファスを遮るように、私は椅子から立ち上がった。
テーブルをはさんで斜め前に座る王女様を見下ろすように立つ。
体中の力を目に集中させても、王女様の圧に押し負ける。
だから、物理的に高さをだしてみたんだけど、どうだ!
不快そうに眉をひそめる王女様にむかって、おなかのそこに力をこめて、口を開いた。
「今のお話を聞いても、私は王女様の考えに同意できません! 私の思いはまるで違うから。私は獣人だとか、人だとか関係なく、一緒にいて心地いい人たちのそばにいたいです!」
私の言葉を聞いて、王女様が鼻で笑った。
「まあ、ララベルさん。獣人とただの人がうまくいかなかったことを、あんなに詳しく話したのに、まだ理解できないの?」
「ええ、理解できません! とういうか、これから先も理解したくもありません! 王女様のように、獣人とか人だとか線引きして、更に、力が強いとか下だとか順位をつけて、付き合うべき相手を決めるだなんて、全く理解できません!」
力が入りすぎて、思った以上に大きな声がでてしまった。
私がここまで言い返すと思っていなかったのか、驚いたように大きく目を見開いた王女様。
が、すぐに、怒りで顔がゆがませ、私をにらんできた。
鋭い目が怖くて、思わず、ひるんでしまう。
その時、私を見上げているルーファスと目があった。
その瞬間、とろけるような笑顔で、
「ララ、かっこいい」
と、つぶやいたルーファス。
サファイア色の瞳をきらきらさせて私を見るルーファスは、王女様をロックオンしていた時の不穏な表情が嘘のように、リアル天使だ。
やっぱり、ルーファスの本質はこっちよね。
天使ルーファスの光で、王女様への怖さが消え去っていく。
私の役目は、この癒しの天使を守ること!
王女様に睨まれたくらいで、ひるんでいる場合じゃない。
私は気合いを入れなおして、王女様を見据える。
そんな私をにらみつける王女様。
「ララベルさんの言うことはただの理想論でしょ? 偽善ぶったことばかり言って、結局は何もできない。そういうところ、アジュお姉さまに似てて、いらいらするわ……。とにかく、現実は、私が話したとおりよ。番であったとしても、獣人とただの人では一緒にいられなかった。それが事実。証明されてるの。獣人とただの人では違いすぎて理解しあえないの。いい加減、わかりなさい!」
王女様がいらだったように声を荒げた。
が、私も負けずに言い返す。
「わかりませんし、わかりたくもありません! 違いというのなら、みんなひとりひとり、違っています! それに、さっきのお話ですが、私は王女様とは違うように感じています。おふたりは、結果的には離れてしまったけれど、公爵のご子息は番という感覚をなくしても、娘さんのことを大事に思ってたんじゃないかって……」
「は? あなた、何を言っているの、ララベルさん? 私の話、ちゃんと聞いていた? 番を忘れたのよ、公爵子息は。で、番であった娘を捨てたの。番というだけで好きでもなんでもなかったんだから、大事に思うわけないでしょう?」
「いえ、私はそうは思いません。公爵のご子息は、娘さんの幸せを願う言葉をかけた。私には、相手を思って、身を引いたように思うんです」
「マイリ侯爵令嬢は、公爵の息子が、その代わりの物を飲んだだけでは、番を忘れきれなかったと考えているのか……? 中途半端に番への気持ちが残るようなら、それはそれで面倒だな。やっぱり、代用ではダメなのか……」
それまで黙っていた第二王子が、いきなり、前のめりになって話に割り込んできた。
が、私はそんなことを言っているんじゃないし。
第二王子にとったら完全に番を忘れられるかどうかが一番気がかりで、ふたりのことなんかどうでもいいことがありありとわかるよね。
誤解されるのも嫌なので訂正する。
「私は、公爵のご子息が番を忘れきれなかったとは考えていません。私が言いたいのは、公爵のご子息は番を忘れても、娘さんを大事に思っていたんじゃないかってことです。つまり、番だからというだけでなく、娘さん自身を好きになっていたということを言いたかったんです」
「意味がわからん。番でなければ、そんな平民の女、好きにならんだろう? 情が残っていたというのなら、番という感覚が消えきれなかったということだ」
そう言って、隣に座る王子妃をちらりと見た第二王子。
その様子に、更に嫌悪感が増した。
ほんと最低だ……。




