嫌悪感
ふたりの苦しい状況をおもしろがる第二バカ王子をみていると、私の中では底をついていると思っていた第二バカ王子への嫌悪感が底なしだったことに改めて気づく。
「番と結ばれたガイガー王子だから、番のこととなると他人事じゃいられないくらい、関心があるのね」
と、王女様が意味ありげに微笑んだ。
番に関心があるというより、番のふたりがうまくいかないことを望んでいるみたいだけどね、この第二バカ王子は!
……と、うっかり飛び出しそうになった言葉を、なんとかのみこんだ。
「ああ、気になってしかたがないな。それで、その公爵家の子息はどっちを選んだんだ。番か、母親か!?」
「公爵子息は母親よりも、ただの人である娘を選んだわ」
「なんだ……。やっぱり、番を選んだのか。番には抗えないんだな……。つまらん」
目に見えて、がっかりしたような顔をする第二バカ王子。
王女様がくすりと笑った。
「結婚式当日に婚約者の目の前で、出会ったばかりの番に夢中になって、平民だったアンヌさんを選ぶなんて、とんでもなく派手なことをした人とは思えないセリフね?」
「いや、まあ、それはそうなんだが……。しかし、今なら、そんなことはしない……」
と言いかけて、だまった。
はああ!?
今なら……なんて言われても聞きたくもないし、遠い目をする第二バカ王子が心底気持ち悪い。
ミナリア姉さまにあんなひどいことをしておいて、都合よく思い出して、感傷にひたるなんてやめてほしい!
「ひどいわね、ガイガー王子。番のアンヌさんの前でそんなこと言ったらダメよ? ねえ、アンヌさん?」
王子妃に向かって、おもしろそうに問いかける王女様。
「はい……」
王子妃は、またもや、感情のない声で答えた。
まだ、操られてるんだ……と思った次の瞬間だった。
王子妃の目から、つーっと涙がこぼれた。
顔は無表情のままだけれど、泣いているの……?
もしかして、王子妃自身の心が戻ってきたのかな……。
気になって王子妃の顔をじっと観察してみる。
感情のない表情はそのままだけれど、空っぽだった目に意思が戻ってきたような気がする。
その目の中にともるものは悲しそうというより、悔しそうに見える。
今、流した涙は、薄情で最低な番への悔し涙だったのかも。
そんな王子妃の変化に気づいていない王女様は、第二バカ王子にむかって楽しそうに言った。
「ガイガー王子。公爵子息は、母親ではなく番の娘を選んだけれど、それで、この話は終わったわけじゃないのよ」
「それは、どういうことだ……? ラジュ王女、もったいぶらずに教えてくれ」
「フフ……。ガイガー王子に期待にそえるかわからないけど、続きを話すわね。公爵子息が番の娘を選んだということは、つまり、公爵夫人は死ぬ。そこで焦ったのが公爵よ。何人も愛人がいる公爵だけれど、公爵夫人に死なれるのは困るようで、ふたりの間にはいって必死に説得したみたい。まあ、公爵子息だって、番の娘とは離れられないけれど、母親である公爵夫人には死んでほしくない。公爵夫人だって、自慢の息子が、番というだけで、ただの人である娘に従い、他国に行き平民になるなんて許せないけれど、むざむざと死にたくはない。公爵は、そんなふたりの気持ちに訴えるように説得したようよ。でも、なにがなんでも娘についていくという公爵子息と、それなら死ぬといいはる公爵夫人は、どちらも折れない。だから、最後の手段として、公爵は王宮にやってきたの」
「何故、そこで王宮がでてくるんだ……?」
第二王子が不思議そうに王女様に聞いた。
「公爵が王宮にやってきたのは、国王であるお父様にお願いにきたのよ。王家だけに伝わる特別な薬を分けてほしいってね」
「王家だけに伝わる特別な薬……? そんなもの、うちの王家にはないな。で、一体、その薬とはなんなんだ?」
第二王子の問いかけに王女様は艶やかに微笑んだ。
美しいけれど、暗くよどんだ笑みにぞわっとする。
「それはね、……番を忘れてしまう薬よ」
え……? 番を忘れてしまう薬?
そんな薬があるなんて、聞いたことがない。
というか、番が大嫌いな私は、番の話には耳を閉ざしてきたから、私だけが知らないだけなのかな、と思った時、第二王子がすごい勢いで立ち上がった。
「そんな薬があるのか!? それを飲めば番を忘れられるのかっ!?」
第二王子がぎらついた目で叫んだ。




