心がない
「一体、私は何を見せられているのかしら? ララベルさんが関わると、とても優秀なルーファスが急におかしくなるわね。ルーファスが優しいのはわかるわ。だから、ただの人であるララベルさんに合わせて、そんな低レベルの会話をしてるんでしょうけれど、いくら幼馴染で心配だからとはいえ、ララベルさんに振り回されすぎではないの? せっかく強い竜の特性を持つルーファスに、悪影響がでたら困るわ……」
と、顔をしかめて、苦々しく吐き捨てた王女様。
ん?
つまり、私が低レベルで、ルーファスに悪影響を及ぼしているということ……?
いくらなんでも、失礼ではない?
むっとした私の耳に、
「なんだと?」
地の底から響いてくるような声が聞こえてきた。
え……? もしかして、今のってルーファスの声?
天界じゃなくて、地獄から聞こえたような声だけど!?
びっくりして隣を見ると、ルーファスが鋭い目で、王女様を射貫いている。
全てのあたたかみが抜け落ちた美貌は、氷の世界を牛耳る魔王のよう……。
天使のルーファスはどこへ……!?
が、更に、ルーファスは王女様に何か言おうとして、怒りのオーラをまとったまま、王女様の方に身をのりだした。
あ、ルーファスを止めなきゃ……!
と思った瞬間、
「おやめなさい、ルーファス。これくらいで煽られてどうするの?」
と、レーナおばさまが小さいけれど、厳しい声でルーファスを叱った。
そして、すぐに、王女様に向かって、ひときわ優雅に微笑んだ。
「申し訳ありません、王女様。息子が失礼な態度を……。ルーファスはララちゃんのことになると、小さい頃から我慢がきかないんですの。なにをおいても、ララちゃんが一番ですから……。王女様に優秀だなんて、褒めていただいたのは、王女様をルーファスがご案内していた時の言動をご覧になってのことでしょう?」
王女様は一瞬、レーナおばさまの問いかけに不思議そうな顔をした。
が、すぐに、圧の強い笑みを浮かべて私を見てから、答えた。
「ええ、もちろん、そうよ。一週間、ルーファスは、つきっきりで私を案内してくれたから、ルーファスの優秀さはよくわかっているもの。それに、私のためを思って、いつだって気をきかせてくれていたわ。そう、私のそばにいるのに、ふさわしく、ルーファスは完璧だった」
王女様の言葉に、レーナおばさまがふふっと笑った。
「ルーファスが完璧? まさか、とんでもないですわ。王女様をご案内することは、王命での国の仕事でしたから、いつも以上に取り繕ったのだと思いますが、それは見せかけだけですわ。そこにルーファスの心はないんですの」
「心がない……?」
王女様がいぶかし気に聞き返した。
「ええ。表面的にそつなく、ただ、仕事をこなしただけですわ。冗談ではなく、ララちゃんのいないところに、ルーファスの心はないんですのよ。さきほど、王女様は言われたでしょう? ララちゃんと関わると、ルーファスが急におかしくなると。そう思われるのでしたら、それが、本当のルーファスです。ララちゃんのいないところでは、取り澄まして、おもしろみのない顔をしていますが、ララちゃんがいると、存外、感情豊かで、おもしろい子でしょう?」
と、楽しそうに語ったレーナおばさま。
毒気をぬかれたように、唖然とする王女様。
魔王化していたルーファスの空気も若干、ゆるんだみたい。
さすがは、レーナおばさま! あの危機をおさえるなんてすごい!
でも、ルーファスが私がいないところでは心がない?
心がない状態のルーファスなんて、想像がつかないけど……。
なんて考えていると、
「ルーファスは要領がいいだけだろ。特に国王の前ではな。ルーファスの心があろうがなかろうが、そんなことはどうでもいい。それより王女。番の話に早く戻ってくれ!」
と、第二王子が声をあげた。
「ええ……そうね……」
王女様は第二王子にひっぱられるように返事をしたあと、ふと、何かを思いついたように、私に視線を向けて微笑んだ。
「あなたたちが、幼馴染として、とても仲がいいのは、よくわかったわ。そういうところも、あのふたりに重なるわね。もともと冷静で感情をあまりださない公爵子息だったけれど、番の娘には、嬉しそうにべったりしていて、まるで別人のようだったわ。みんな、びっくりしたものよ。そして、そんな公爵子息に、嬉しそうに寄り添う娘も、バカみたいに幸せそうだった。それだけ仲のよかった番のふたりが、その後、どうなっていくのか……フフ。じゃあ、続きを話すわね」
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