話題をかえて
顔をあげた私を見て、王女様はおおげさに言った。
「本当に真っ赤な顔をしてるわよ、ララベルさん! 熱でもあるのではない? 獣人の血が全くはいっていない、《《ただの》》人だと、体も丈夫ではないのでしょう? 」
あからさまに、獣人ではない私をみくびっている口調だ。
王女様の隣の席に座るモリナさんがクスクスと嬉しそうに笑っている。
「いえ、熱もないし、大丈夫です。確かに、私は獣人の血は全くはいっていませんが、ものすごく丈夫です。小さいころから、風邪ひとつひかないのが、私の自慢ですから」
怖がっていると思われないよう、胸をはり、できるだけ、低くて強そうな声をだしてみた。
が、慣れていないので、変な声になってしまった。
かえって、弱そうな雰囲気がただよってしまったんじゃない?
こんなことなら、強そうに聞こえる声のだしかたでも練習しておけばよかった……。
隣で、ふっと、やわらかい笑い声がもれた。
もちろん、ルーファスだ。
ルーファスは王女様に向かって、口を開いた。
「ララの言うとおり、ララは体が丈夫ですよ。それに、竜の獣人であっても、こどものころ、僕はしょっちゅう風邪をひいていました。いつも、ララがお見舞いにきてくれて、つきそってくれたけれど、ララには一度もうつりませんでしたから。ねえ、ララ」
そう言って、私のほうを見て、優しく微笑んだルーファス。
確かに、ルーファスはよく風邪をひいていた。
あの誘拐未遂事件のあと、時々、体調を崩していたルーファス。
私は心配でよく様子をみにいっていた。
それがおさまってきたなあと思って少し安心していたら、今度はよく風邪をひくようになった。
で、そのたびに、「ララ、すぐに、お見舞いにきて!」って連絡が届いてたんだよね。
しかも、公爵家からの直接の連絡じゃなくて、ルーファスの手書きのメモを、ルーファスの家庭教師の先生とか、ルーファスの近所に住んでいる、ルーファスの幼馴染の男の子だったり、いろんな人がうちに届けてきた。
後で知ったんだけど、私に風邪がうつったらいけないから私を呼んではいけないと、レーナおばさまがとめたから、ルーファスは、いろんな手段を使ってうちに連絡してきたみたい。
そのころの私は、ルーファスのお見舞いにはすっかり慣れていたから、すばやく、絵本やぬいぐるみや遊び道具を大きなバスケットにぎゅんぎゅんにつめこんで、お母様かジョナスお兄様をひっぱって(一度ひとりで出かけようとして、こっぴどく怒られたので)、うちの馬車をだしてもらって、かけつけていたんだよね。
結局、私に風邪がうつらないのと、ルーファスが私をよぶのを絶対にあきらめないので、レーナおばさまも折れたよう。
「また、ルーファスが風邪をひいて、ララちゃんに会いたがってるの。遊びにきてくれる?」
と、レーナおばさまから連絡がくるようになった。
お母様やジョナスお兄様が私につきそえない時は、レーナおばさまが馬車で送り迎えをしてくださって、「いつも、ルーファスが甘えてしまってごめんなさいね、ララちゃん」と、しきりに謝られた。
ベッドで寝ていても、私が行くと、ルーファスの顔がぱあっと輝いて、うれしかったなあ。
小さい頃のルーファスを思い出すと、その愛らしさに、自然と顔がゆるみまくってしまう。
あ、いけない! 王女様の前だった。
のんきに思い出にひたっている場合じゃないよね。
私は、あわてて、ゆるみきっていた顔をひきしめた。
そこで、レーナおばさまが王女様にむかって、やわらかい口調で話し始めた。
「王女様。ルーファスの言ったとおりですわ。ルーファスは体調をくずすと、ララちゃんに甘えて、すぐに呼ぼうとするから、私がララちゃんに知らせないようにしていたものです。風邪の場合は、うつりますから。でも、困ったことに、あらゆる手段を使って、ルーファスはララちゃんに連絡をいれるんです。しかも、ララちゃんがきたら、ルーファスがわがままを言って、離れないものですから、ララちゃんににうつったらと心配しておりました。が、一度も、ララちゃんにはうつらなかったんです。獣人ばかりが住まわれているジャナ国のことはわかりませんが、我が国では、獣人と人で健康面で違いがあるというよりは、あくまで、個人の体質の違いですわね」
おお、さすがレーナおばさま!
私が丈夫かどうかなんて、どうでもいい話題をうちけすような、ジャナ国と我が国の違いという、お茶会にふさわしい感じのきれいなまとめかた。
これで、私の話題はきれいさっぱり終わるよね!
モリナさんが悔しそうな顔をして、私をにらみつけてきた。
王女様はレーナおばさまに言った。
「ルーファスのほほえましいお話をありがとう。ロイド公爵夫人」
そして、私の方に向いて、意味ありげな笑みをうかべた。
「ララベルさんは丈夫というか、風邪をひかない体質のようね」
え、この感じ、まだ続けるの……?
「ねえ、ララベルさん。ジャナ国では、おもしろいことわざがあるの。風邪をひかない獣人たちは能天気だっていうものよ。もちろん、ララベルさんがそうだと言っているわけではないわ。でも、風邪をよくひいていたというルーファスは、とても頭のいい子どもだったのね」
うん……? つまり、私が馬鹿だったっていいたいわけ?
さっきまで私をにらんでいたモリナさんが、プッとふきだした。
「まさか、王女ともあろうかたが、そんなこと、本気で信じているわけではないですよね? 風邪をひくと頭がいいなんて、わけがわからない。その逆もしかりだ。そのことわざに似たものを、他国のことわざで読んだことがあります。確か、風邪をひいても全く気にしないくらい、おおらかだという、いい意味のことわざでした。ちなみに、ララは海のように広い心をもっていて、とてもおおらかで優しいんです」
ルーファスが王女様にむかって、言い放った。
ルーファス……。
私は海のように広い心はもってないよ……。
靴をなげたくなるくらい、限りある、狭い心しかもってないんだけど……。
笑っていたモリナさんの顔が、またもや、憎々し気にゆがめられた。
「もちろん、冗談よ、ルーファス。そんなこと信じていないわ。ララベルさんも、ただのことわざを言ったまでだから、気を悪くしないでね」
「はい、大丈夫です」
と、きっぱり返事をする。
今度こそ、私へ絡んでくるのはやめて欲しいという願いをこめて……。
すると、王女様が私にむかって、何故か不敵な笑みをうかべたあと、また、しゃべりはじめた。
「この国は、普段、獣人と人を意識せず暮らしているみたいね。興味深いわ。でも、いくらこの国で、分け隔てなく暮らしていても、絶対的に獣人と人では違うことがあるわよね。血が濃い獣人だと、避けられないのではなくて? もちろん、《《ただの》》人であるララベルさんも、わかっているわよね?」
と、挑むように聞いてきた王女様。
もしかして、もしかしなくても、私の大嫌いなあのことを言ってるんだよね……?
読みづらいところも多々あるかと思いますが、読んでくださっている方々、ありがとうございます!




