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サファイア色の瞳

あの夢を見た日は、黒々したものがおなかにたまって、すっきりしない。

11年間かけて、どろどろに煮詰まったものは、かなり重いんだよね。


そんな時は、甘いものを食べて、とかしてしまうに限る!


ということで、放課後、お気に入りのカフェに行き、大好物のイチゴのケーキを食べる、食べる、食べる。


ふたつめを注文しようとした時、

「ねえ、ララ。もしかして、また、あの夢をみたの?」

と、聞いてきたのは、目の前に座る幼馴染のルーファス。


ロイド公爵家の嫡男で、私よりひとつ年上の17歳。

月の光を集めたみたいな銀色の髪に、深い紫色をしたサファイアみたいな瞳は、今日も今日とて輝いている。


神秘的で本当にきれいよね……。

ふと、食べるのをやめて、見入ってしまった。


「あ、僕の目の色、もしかして、嫌……? あの夢を見たあとだから……」


長いまつ毛に縁どられたサファイア色の瞳が、不安そうにゆらゆらと揺れる。


一瞬、ルーファスが何を言ってるのかわからなくて、ぽかんとした私。

が、意味がわかったとたん、私は首をぶんぶんと横にふった。


「全然違うよ! ルーファスの目が宝石みたいにきらきらしてたから、つい見とれてしまっただけ。紫色の瞳が、竜の獣人である王族の特徴でも、あの第二王子とルーファスは全く、全然、まるっきり違うから! ルーファスの瞳はサファイアみたいに輝いてるし!」


「良かった……。第二王子のガイガーと同じ色だから、ララを嫌な気持ちにさせたかと思って……」


ほっとしたように、切れ長の目をゆるめて微笑んだルーファス。


そう、ルーファスは竜の獣人。

お父様のロイド公爵様は王弟で、つまり、第二王子は年の離れたルーファスの従兄になる。

竜の獣人である王族は紫色の瞳が特徴として現れることが多く、あの第二王子も紫色の瞳らしい。


「あのね、ルーファス。11年前のあの日以来、私は王族の方々が出席する催しでも、あの第二王子と王子妃は視界にいれないようにしてきた。だから、第二王子の瞳の色なんて見たこともないし、想像したくもないけれど、きっと、内面がにじみでて、にごって見えるに違いないわ! ミナリア姉さまにあんな仕打ちをした人だもん。だから、サファイアみたいに輝くルーファスの瞳とは全然違うの。ルーファス自身であっても、あれと一緒にするようなことを言ったら、私怒るわよ!」


私が力強く宣言すると、ルーファスがふわりと笑った。


驚くほど美しく整った顔が、一気に天使になる瞬間。

小さいころと同じ笑顔に、条件反射のごとく、私の顔もにへらとゆるんだ。


「ありがとう、ララ。誰に褒められるより嬉しいよ」

 

「ほめてるんじゃなくて、事実だからね、ルーファス」


そこはしっかり訂正してから、次のケーキを注文するためにメニューをとろうとしたら、ルーファスの手が目の前にすっとのばされてきた。


「ねえ、ララ。僕のも食べて」


ルーファスの指が、ひとくちサイズのイチゴのマカロンをつまんでいる。


「また? イチゴのほうも美味しいよ。一回だけでも食べてみれば?」


このカフェにきたら、ルーファスはマカロンをいつも頼む。

ピスタチオとイチゴのプチマカロンがふたつセットになっているんだけど、イチゴのほうをいつも私にくれるんだよね。


「僕はピスタチオのマカロンだけで十分。だから、イチゴのマカロンはララが食べて。お願い、ララ」


懇願するようにそう言うと、小さなマカロンを私の口元に近づけてきた。

甘い匂いが香ってくる。


食べたい! 抗えない!


ということで、秒で誘惑に負けた私。


「では遠慮なく、いただきます」


「はい、どうぞ。じゃあ、口をあけて。ララ」

と、ルーファス。


「いや、今日は自分で」


「ほら、ついでだから」


ついで? なんの? 

よくわからないけれど、確かにマカロンはもう私の口の前にさしだされて、私が食べるのを待っている。


結局、いつものように促されるまま口をあけると、ルーファスがイチゴのマカロンを口の中にそっといれてきた。

イチゴの香りが口いっぱいにひろがる。


はあー、やっぱり、イチゴのお菓子はどれも最高!


目の前では、いつもどおり、ルーファスがとても嬉しそうな顔で私を見ている。

イチゴのマカロンを私が食べるとき、いつもこうなんだよね。


ルーファスはとても優しいから、よほど、お菓子を残すのが心苦しいんだろうね。

だから、食べたくないイチゴのマカロンを私が食べると、安心するんだと思う。


私にとったら、イチゴのマカロンなら、いくつでもまかせてって感じだけど……。


あ、そうだわ! 

今度、カフェの人に言って、ピスタチオのマカロンがふたつに変えてもらえないか聞いてみよう。

そうしたら、ルーファスが2個とも食べられるもんね。


私はマカロンを食べたあと、今度はイチゴのタルトを食べながら、いまだくすぶっている、夢の中の悔しさをルーファスに向かって愚痴り始めた。


「今朝も、また、靴をなげる寸前に目がさめたんだよ! あー、もう……! 11年前、ジョナスお兄様が私の腕をおさえなかったら、絶対、私はあのピンク色の靴を第二バカ王子にあてられていたはずなのに!」


「うん、そうだね。ララなら、できたと思うよ。でもね、あれでも、ガイガーは王子だからね。ジョナスが止めてなかったら、ララが怒られてた。それに、ミナリアさん、今、幸せだから、良かったよね」


「ほんとそれね。今となっては、ミナリア姉様があんな第二バカ王子と結婚せずにすんで、本当に良かったと思うわ。とはいえ、それはそれよ。あの第二王子の11年前の仕打ちを私は絶対に許さないし、今も『番』は一番嫌いな言葉だけどね!」


固い決意を述べると、私と違って人を恨んだり、怒ったりしない、心優しいルーファスは、困ったような顔で微笑んだ。


そうよね、第二王子はルーファスにとったら従兄だもんね。

でも、やっぱり、あの王子だけは一生許せない。私の天敵だと断言できる。

心がせまくてごめんね。


まあ、でも、ルーファスがいうように、ミナリア姉様は、今、とっても幸せだから私も嬉しいの!


11年前、ミナリア姉様は、あれからすぐに、獣人のいないライナ国に留学した。

もちろん、大騒ぎになって、この国に居づらくなったから。


ミナリア姉様はなにひとつ悪くないのに、本当に理不尽!


でもね、神様はちゃーんと見ていた。

ミナリア姉様は、その学園で、とっても素敵で、とっても優しい方に出会ったから。


卒業後、ふたりは結婚した。今では、天使のようなユーラちゃんも生まれて、幸せいっぱいのミナリア姉様。

時々、送ってきてくれる手紙には、ユーラちゃんのかわいらしい写真も入っている。


ライナ国は遠いから、まだ行ったことはない。

でも、私も16歳になったし、今度の夏休みに、ミナリア姉様のところに遊びに行きたいと考えている。

ユーラちゃんに会ってみたいし!


どうせなら、もうひとつ、やってみたいことがあるんだよね。

それは、憧れのひとり旅! 


ミナリア姉様の手紙によると、ライナ国はとても安全で、女の子でも一人旅ができるんだって。 


ということで、ひそかに計画をねっている私……フフフ。


「ねえ、ララ。僕に内緒で、なにか企んでる?」


探るように私の顔をのぞきこんできた、ルーファス。

おっといけない。ゆるんでいた顔を、あわてて、しめなおす。


ルーファスは両親やジョナスお兄様以上に私に過保護だから、ひとり旅どころか、ライナ国行きも絶対に反対すると思う。

しかも、うちのお母様なんて、私よりもルーファスを信用しているくらいだからね。

ルーファスの意見に左右されそう。だから、ルーファスには絶対に秘密。


「ううん、まさか……。このケーキ、やっぱりおいしいなと思ってね」

と、上手くごまかした私。


「ふーん、そうなんだ……。それなら良かった」


ルーファスはそう言って、やたらと美しい笑みを浮かべた。


なんか、ちょっと空気がひんやりした気がしたけど、気のせいよね?


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