招待状
王子妃からの招待状は、王家の紋章が入った、シンプルな白の封筒。
内容は、ごくごく短い文に場所と時間がのっているだけ。
「この招待状からは、王子妃がどんな人とか、まるで伝わってこないんですよね。文字もきれいだけれど、お手本のようで代筆っぽいし……」
そう言って、私は届いた招待状をレーナおばさまに見せた。
そう、私は今、ルーファスのお家、ロイド公爵家におじゃましている。
ルーファスのお母様であるレーナおばさまに、お茶会のことで話がしたいと呼ばれたから、放課後、ルーファスに連れてきてもらった。
レーナおばさまは招待状をさっと見ると、うなずいた。
「確かに、ララちゃんの言う通り、これは代筆ね。しかも、代筆を頼む時の見本に使われる型どおりの文だから、なにも考えていないのでしょう」
「まるで、やる気が感じられないですね。……お茶会の打ち合わせでは、王子妃はどんな感じだったんですか?」
「実は、あれから、一度も王子妃のアンヌ様と直接話せていないのよ。あのパーティーのあと、すぐにあちらから連絡があったのだけれど、ガイガー様のお屋敷の執事でドルネドさんという方だったの。アンヌ様は交流に慣れていないから、ドルネドさんをとおしての打ち合わせという形をとらせてほしいって。だから、ドルネドさんとしか話していなくて、アンヌ様が何を考えているのか、どういう方なのか、全くわからないのよね」
と、レーナおばさまが顔をくもらせた。
「え……? そんな状態なのに、王子妃はお茶会を開けるんでしょうか?」
「私もそう思ったわ。いくら小さなお茶会でも、他国の王女様を招いてのお茶会を主催するなんて無理だと思ったの。しかも、相手は、あの王女様でしょう? だから、ドルネドさんに今回のお茶会はあきらめたほうがいいんじゃないかって、やんわりと提案してみたの。でも、ドルネドさんは、大丈夫ですの一点張りで、聞く耳を持たないのよね」
「つまり、ガイガーが言っていた、王子妃が王女に謝るために茶会を開きたいというのは嘘だと思う。……そんなことより、ララ。はい、お茶」
そう言いながら、ルーファスが私の前にカップをおいた。
あれ……?
いつもは、メイドさんがお茶をだしてくれるのに、どうしたんだろう?
と思って、ルーファスを見る。
「ララのために僕が淹れたんだ。ララの好きなイチゴのお茶だから、飲んでみて」
「え? ルーファスが!?」
「ほら、飲んでみて、ララ」
ルーファスに促されて、カップを手にとった。
「イチゴのいい香り! じゃあ、ルーファス、いただきます」
私は口にカップを運んだ。
「うわあ! ほんのり甘くて、おいしい! すごいね、ルーファス! こんなに美味しく淹れられるなんて」
思わず、声をあげた私。
「良かった。ララに喜んでもらえて」
ルーファスが、光がとびちるような弾ける笑顔を見せた。
おっと、天使すぎて、まぶしい……。
「この前から、メイド長のマリアにルーファスがお茶の淹れ方を習っていたのは、このためだったのね」
レーナおばさまがクスクス笑っている。
「ララの好きそうな美味しい茶葉が手に入ったから、どうせなら、僕が淹れたいなって思って練習したんだ」
「えええ!? 私のために練習までしてくれたの!? どうしよう! 感動のあまり、今、胸が撃ち抜かれた……」
思わず胸をおさえる私に、レーナおばさまが声をあげて笑った。
「ララちゃんにこんなに喜んでもらえて良かったわね、ルーファス。じゃあ、私にも淹れてくれるかしら?」
「いや、ララのために全力を注いで淹れたから、母上の分はメイドに頼むよ」
「まあ、私には淹れてくれないの? ひどいわね、ルーファスは」
レーナおばさまが笑いながら、ルーファスを見る。
とそこへ、メイドさんがお菓子を持ってきた。
テーブルには、ケーキや焼き菓子など、色々な種類のお菓子がずらりと並んだ。
一瞬にして、お菓子に心を奪われた私。
目が釘付けになる……。
「ララちゃん。今度のお茶会にだすお菓子を考えているのだけれど、ララちゃんに手伝ってほしいの。いいと思ったお菓子を教えてくれる?」
「はい、喜んで! でも、選べるかな? どれも美味しそう……」
わくわくしながらそう言ったあと、ふと、気になることがうかんだ。
「今度のお茶会、一応、主催は王子妃なんですよね。なのに、お茶菓子はレーナおばさまが用意されるんですか……?」
「そうなのよね……。アンヌ様の代理のドルネドさんとは、何度かお茶会の打ち合わせをしたのだけれど、おかしなことになってしまって……」
「おかしなこと?」
レーナおばさまは、こまったような表情でうなずくと、その打ち合わせの内容を話し始めた。