私は動く (ジャナ国王女視点)
今回はラジュ王女の視点になります。
私は、ジャナ国の第二王女のラジュ。
純血の竜の獣人族であるジャナ国王家の中でも、先祖返りと囁かれているほど、竜の血が濃くでている。
だって、私の首には美しく輝く竜の鱗があるんだから!
竜の鱗があるのは、今の王族では私だけ。
そう、私は選ばれた特別な存在なの!
国王であるお父様の子どもは、20歳のアジュお姉様と17歳の私。
10年前に、正妃であり、番であったお母様が亡くなり、お父様は正妃の座はあけたまま、側妃をひとり娶った。
が、結局、子どもはできなかった。
だから、アジュお姉様か私のどちらかが、お父様のあとをついで、この国の女王になる。
私がこの国の成人である17歳になるのを待って、どちらを王太女として指名するかを公にするとお父様は前々から宣言していた。
凡庸なアジュお姉様か竜の獣人として秀でた私では、どちらが王太女に選ばれるかなんて、だれの目にもあきらかなこと。
そして、先日、私は17歳の誕生日を迎え、成人になった。
お祝いのパーティーがひらかれることになり、そこで、お父様が王太女がだれかを発表するという。
私はついにきたこの日のため、ひと際、華やかなドレスを着て、私の晴れがましい時を心待ちにしていた。
なのに、
「王太女は第一王女のアジュとする!」
は? なんですって……!?
呆然とする私の前で、「アジュ、皆に挨拶を」と、お父様が声をかけた。
そのあとのことは、怒りのあまり、覚えていない。
私が王太女になれないなんて、信じられないもの!
アジュお姉さまなんて、私のように鱗があるわけでもなく、私のように強いわけでもなく、ただ少し癒しの力があるだけで、竜の獣人らしさはまるでない。
しかも、王太女に指名されたあとに、アジュお姉さまが伴侶に選んだのはミル侯爵家のジャイ。
信じられないことに、ジャイは竜の獣人でなく、フクロウの獣人。
学園の同級生だったらしく、そのころから付き合っていて、最近、番ということがわかったらしい。
それを聞いた時、驚きをとおりこして、あきれてしまったわ。
フクロウの獣人なんて、頭だけが取り柄で、特別な力なんてない。
だいたい、そんなフクロウの獣人が番だなんて、信じられない。
今迄、わが王家の竜の獣人に番があらわれたときは、相手は竜の獣人だった。
なのに、アジュお姉さまの番がフクロウの獣人だなんて、竜の力が弱いからにきまってる。
私だったら、仮に、フクロウの獣人が番だとわかっても、恥ずかしくて、口にだすことすらしない。
どんな方法を使っても、番を解くのに、アジュお姉さまは本当にバカだわ。
まあ、でも、これで、お父様も考えを変えて私を王太女にするだろうと思った。
フクロウの獣人ごときが、将来の王配として認められるわけがないもの。
そうなったら、私はアジュお姉さまと違って、将来の王配にふさわしい伴侶を選ぶわ!
番にこだわることなく、自分に似合う、特別、強くて美しい竜の獣人をね。
そう思っていたのに、お父様は決定を変えることなく、しかも、フクロウの獣人であるミル侯爵家のジャイをその伴侶と認めた。
当然、私はお父様に猛抗議をした。
竜の獣人としての強さがある私のほうが王太女になるべきだと。
実際、私のとりまきの貴族たちは、先祖返りの私が王太女になるべきだと口をそろえて言っている。
「お父様は、そんなに生まれた順番が大事なのですか!?」
私がお父様に言い募ると、お父様が冷静に答えた。
「生まれた順番など関係ない。私がおまえを王太女にしないのは、その資質がないからだ。アジュには備わっているが、ラジュにはまるでない。たとえ、竜の血が濃く、竜の獣人らしい能力だけが強くても、それだけで国が治められるものではない。それに、おまえの強さは表面的な薄っぺらいものだ。そんなものに頼っていることがどれだけ無意味なことなのか、己に何がかけているのか、よく考えてみろ。ラジュ」
お父様の言葉に、怒りのあまり、首の鱗が熱くなってくる。
私の力が薄っぺらいですって……?
私が本気をだせば、お父様より強いのに……?
しかも、お姉さまにあって、私にないって何!?
そんなものあるはずがない!
アジュお姉さまにあって、私にないものなんて、なにひとつないわ!
私がアジュお姉さまに劣っていることなんて、あるはずないもの!
その時、はたと気づいた。
お父様は、私の力が怖いんだわ。
そうよ……。
だって、お父様にだって竜の鱗はないし、竜の獣人らしい力も使っているのを見たことがないもの。
先祖返りと言われるこの私の存在が怖いんだわ!
だから、アジュお姉さまを王太女に選んだってことなのね……。
わかったわ、お父様。
お父様がそういうつもりなら、私が従う必要はないわよね。
先祖返りである私に味方する貴族は沢山いるもの。
なにがなんでも王太女になれるように、私は動くわ!