王宮へ
夕食の時、お父様が渋い口調で言った。
「急なんだが、今週末に王宮でパーティーがある。今回はララにも行ってもらうことになった」
「え、私も?」
びっくりして聞き返した。
お父様とお母様がパーティーに行くことはよくあるけれど、私は滅多にない。
というのも、両親が、私にはまだ早いから行かなくていいと招待状がきても断ることが多いから。
私も特に行きたいとも思わないし。
「実は今、ジャナ国の王女様が来られてる。そのことは知ってるか?」
「うん。ルーファスから聞いたけど」
「ああ、そうか。今、ルーファス君が案内をさせられているからな。ジャナ国の王女様は純血の竜の獣人。もし、何かあったら対応できるのは、竜の獣人しかいない。当初は王女様と面識がある第二王子が案内をする予定だったが、王子妃が、未婚の王女様を案内するのは絶対にやめてほしいと嫌がってな」
「あ! アイリスが、第二王子からルーファスに案内がかわったのは、王子妃が関係してるかってルーファスに聞いたのは、このことだったんだ! さすがは、アイリス! どんぴしゃであててる!」
「ほお……。あの王子妃は近頃は公にはでてこないし、王家も情報を隠しているようだが、アイリス嬢はよくわかったな。さすがは、リンド子爵の自慢の娘さんだ」
「そうでしょ! そうでしょ! アイリスはね、頭もいいし、優しいし、かっこいいし、いろんなこと知ってるし。とにかく、色々すごいんだから!」
褒めたい気持ちがあふれでて、言葉で言い表せない! もどかしい!
そんな私を見て、笑いながらお母様もうなずいた。
「アイリスちゃんは多才よね。センスもいいから、アイリスちゃんの意見で採用されたっていうリンド商会の商品はどれも人気だものね。アイリスちゃんなら、リンド商会は安泰ね」
お母様がアイリスをほめると自分事のように誇らしくて、にまにましてしまう。
が、さっきお父様が言った王子妃のことを思い出したとたん、もやもやした気持ちに変わった。
「王子妃が嫌だって言ったからルーファスに変わったって、お父様は言ったけど、そんなことが通るのは番だからってこと……?」
「ああ、そうだ。獣人でない私からしてみれば、全く納得いかん理由だが、番だからしょうがないと王も認められた。他国の王女を案内するのは公務だ。王子妃がいちいち嫉妬してどうする。それなら、王子妃と一緒に案内すればいいだろうと提案しても、王子妃はそれも拒否したそうだ。第二王子は普段からたいして役に立たな……いや、仕事が少なめなのに、こんな時くらい役立って欲しかったが……」
「あなた、第二王子の話はそのくらいに。ララをあおらないで」
お母様がとめたけれど、もう遅い。
「つ・ま・り、第二王子だけじゃなくて、あの王子妃も一緒にルーファスに迷惑をかけてるのね! やっぱり、番って最悪だわ!」
「確かに、今回のことはルーファス君に一番迷惑がかかったな。急な変更で色々大変だったろうと思う。結果的には、ルーファス君の案内で王女様は大変喜んでおられるらしい。それで、今週末は、その王女様のためにパーティーを急遽開くことになった。王女様の訪問は公にしていなかったから、王族との晩餐会だけで歓迎のパーティーとかはする予定はなかったんだ。だが、王女様がルーファス君に親しみをもったせいかもしれんが、ルーファス君と同じ学園に通う貴族の子女に会ってみたいと言い出したんだ。だから、ララにも声がかかった。ララを行かせるのは本当は気が進まないんだがな……」
「なんで? 同じ学園だったら、アイリスもくるだろうし、知ってる人も多いよ」
「ああ、そうだろうな。だが、ララは私たちからあまり離れないように」
「お父様……。私、小さい子どもじゃないんだから、大丈夫だよ」
私があきれて言うと、お父様は首を横にふった。
「いや、ダメだ。ジャナ国は獣人だけの国。我が国の獣人とはちがって、みな、純血だ。どんな能力があるかわからない。特に私たちは獣人じゃないから、用心するにこしたことはない。……ララ。王女様の近くにルーファス君がいても、近づいたらダメだぞ」
その後も、過保護なお父様から、事細かい注意事項が沢山あり、聞くだけで疲れてしまった。
◇ ◇ ◇
そして、パーティー当日。
「お嬢様を飾りたてられるのは、腕がなりますわ!」
と、はりきるのは、私を小さいころから面倒みてくれているメイドのルビー。
お母様を中心に、ルビーと他のメイドたちも一緒になって、わいわいと私を磨き上げていく。
「くれぐれも地味に。ララはただでさえ可愛いんだ。変なのに目をつけられないよう地味にな」
とは、お父様。
ほんと恥ずかしすぎる!
お父様は大好きだけれど、こういう親バカ全開で発言するのだけはやめてほしい。
まあ、でも、そんなお父様もお母様には適わない。
「わざわざ、ララの魅力を消すような装いを、この私がさせるわけないでしょう? ちゃんとその場にあった、ララに似合う装いをさせますから、あなたは黙ってて」
と、お母様に一瞬で黙らされていた。
結局、私の瞳の色にあわせて、淡いブルーのドレスを着せられた私。
金色の長い髪はおろしたままがいいというみんなの意見で、水色の小さな宝石アクアマリンがうめこまれた花の形をした髪留めをつけることになった。
この髪留めは、ライナ国に住む、おばあ様からいただいた私の宝物。
とても大事にしているから、滅多に使わないけれど、使う時はいつも幸せな気持ちになるのよね。
こうして、お父様とお母様と私は馬車にのり、王宮に向かって出発した。