噂
ルーファスが休み始めて、三日目。
あいかわらず、休み時間になったらやってくるグレン。
私を見ながら、メモをするグレンの姿にもすっかり慣れた。
最初の日記は、ルーファスから「もっと細かく」と注文が入ったらしく、何をそんなに書くことがあるのかというくらい、生真面目にメモをとっているグレン。
一度見せてもらったけど、まるで報告書みたいで、自分のことであっても読む気が失せる。
その隣で、アイリスがルーファスから届いたノートを真剣な顔で読んでいる。
読み終わったあと、目をきらきらさせて、考えをめぐらせている様子のアイリス。
「ねえ、アイリス。何かおもしろいことが書いてあった?」
と、聞いてみた。
アイリスが大きくうなずいた。
「うん。さすがはルーファスね。私の興味をひきそうな情報を書いてくれてるわ」
「例えば、どんなこと?」
「ジャナ国って獣人だけが住む国でしょ? しかも、この国と違って、純血の獣人だけ。だから、獣人向けのお店ばかりで、この国にはないような品物が多いみたい。つまり、逆を言えば、ここモリオン国にあって、ジャナ国にないものも多い。王女様と一緒に来ている獣人の方たちは、こっちの食事がえらく気に入っているそうよ。食品なら、うちの商会が入り込めるんじゃない?」
「アイリス、目がぎらついてるよ」
にこにこしながら指摘するグレン。
「だって、商売の匂いがプンプンしてきたから」
と、楽しそうにグレンに話すアイリス。
そんなアイリスを嬉しそうに見つめるグレン。
私はこんなふたりの様子を見るのが大好き。
顔がにやけてしまって、とまらなくなる。
そう、アイリスとグレンは私の理想。
ふと、思い出したくもない、11年まえのことが頭にうかぶ。
番というだけで、会ったその日に、強制的に惹かれて、まわりを混乱に陥れたあのふたりの姿が。
やっぱり、番なんて最悪。
害しかない!
幸い、うちのお父様は番嫌いの私を政略結婚させようとは思ってはいないようで、16歳になった時、聞かれた。
「ララはどんな相手と結婚したいんだい?」と。
だから、私はお父様に絶対にゆずれないことだけを伝えた。
もし、結婚するなら、番にあう可能性がゼロの相手じゃないと嫌だって。
「そうなると、人か、あるいは、番を認識できない、血の薄い獣人になるな……」
お父様が何故か困ったように、つぶやいていたっけ。
そんなことを思い出していた時だ。
「……さっき、隣のクラスの友達に聞いたんだけど、昨日、町で、ルーファス様ときれいな女の人が歩いていたんだって……」
「ルーファス様、休んでるけど、その女の人といるの!? 誰なのかしら」
「高貴な方なんじゃない。ま、ルーファス様の隣に立つくらいだもんね」
クラスメイトの女子生徒たちが話す声が聞こえてきた。
ルーファスの名前に思わず耳が反応してしまう。
アイリスもグレンも聞こえていたよう。
「え、でも、ルーファス様って……」
と言ってから、はっとしたように黙ったクラスメイト達。
なんか、びしばしと視線を感じるんだけど、気のせいかな……?
◇ ◇ ◇
やっと、お昼休みだ!
ルーファスがいないのは寂しいけれど、私の食欲はいつもどおり。
ということで、アイリスとグレンと一緒に、もりもりとランチを食べる私。
すると、また、ルーファスの名前が別のテーブルから聞こえてきた。
自然と耳をすますと、さっき教室で聞いたようなことだ。
どうやら、ルーファスが美しい女性といたというのが噂になっているみたい。
ジャナ国の王女様が来ていることは公にされていないので、相手の女性がだれなのかということも、みんな興味津々のよう。まあ、ルーファスは人気があるからね。
あちこちから聞こえてきた噂では、王女様はとてもきれいな方らしい。
どんな方なんだろう……。ちょっと気になるな。
「ルーファスの情報にジャナ国の王女様のことは何か書いていた?」
と、アイリスに聞いてみた。
「全く書いてないわね。ジャナ国で商売するとなると、王族の情報も欲しいのに、王女様の名前すら書いていないのよね。まあ、ルーファスは、かけらも興味がないんでしょうね。……ということで、私自身が調べて、知っていることをまとめると、今回こられているジャナ国の王女様は第二王女で、年は私たちよりひとつ上。ルーファスとグレンと同じね。これは、ララも知っているだろうけれど、ジャナ国の王族はうちの国と同じ竜の獣人。黒い髪に金色の瞳をもつ、華やかな美女らしいわ。まあ、竜の獣人は総じて美形だけどね」
「ほんと、アイリスの情報はいつもすごいよねー。どうやって集めるのか、想像もつかないわ」
感嘆する私に、メモを片手にもったグレンもうなずいた。
「うん、僕も全然わからないよ」
「ちょっと、グレン。僕も……なんて、のんきに言ってる場合じゃないわよ! 婿入りしたら、私がびしばし鍛えるからね」
アイリスの言葉に満面の笑みを見せたグレン。
「うん、楽しみにしてる」
そんなふたりを見て、またまたほっこりしていたら、露骨なほどの視線を感じた。
見ると、近くのテーブルで、私を見てクスクスと笑っている女子生徒がふたり。
やっぱりね……。
小さいころからよーく知っているふたりだ。
面倒なので見なかったことにしよう。
うん、それが一番よね。




