ジャナ国の王女とは
「ジャナ国の王女とは、明日、初めて会うんだ。第二王子のガイガーはジャナ国を訪問したことがあるから、王女に会ったことがあるみたいなんだけどね。まあ、ジャナ国とは国同士の交流もあまりなかったしね。今後はもっと交流していくことを見据えての王女の視察らしいよ」
「なるほど、表向きの理由がそうなのね。裏はわかんないけど……。で、会ったことがないのに、なんで、ルーファスが王女の案内をすることになったの?」
アイリスの質問に、バサッと音がしそうなほど長いまつげをふせて、ルーファスが物憂げに言った。
「本当は面識のある第二王子のガイガーが案内する予定だったんだけど……、まあ、いろいろあって、急遽、王命で僕に変わった。ジャナ国の王女は純血の竜の獣人だから、正直、どんな能力があるのか、つかみきれてない。案内するにしても、竜の獣人の血が濃いほうが安全だ。とっさに対応できるからね。といっても、1週間も案内できるほど自由がきくのは、王族のなかでも、暇な第二王子のガイガーか学生の僕しかいないからね」
そこでアイリスが少し声を落として、ルーファスに聞いた。
「その第二王子が案内できなくなった理由って、もしかして、あの王子妃が関係してる?」
ルーファスは驚いたように目を見開いた。
「あたり。本当にすごいね、アイリスは。それって勘? それとも情報? まあ、どっちでもすごいけど」
「今回は、ほんの少しの情報しかなかったから、勘ね」
よくあることだけど、ふたりの会話が全く見えない。
ということで、グレンを見た。
グレンが私を見て、首を横にふった。
そして、こっちもよくあることだけど、グレンもわかってない。
良かった、仲間だ!
が、とりあえず、私にもわかったことがある!
「つまり、第二王子は、また、ルーファスに迷惑をかけてるってことね!」
私の怒りのこもった発言に、ルーファスが反応した。
「ねえ、ララ。またってどういうこと? やっぱり、僕になんか隠してる? この週末、もしかして、なんかあった……? 確か、ジョナスが帰ってきてたんだよね?」
ドキッ!
なんて鋭いの、ルーファス!
私は顔でばれないよう、表情筋を動かさないようにして言った。
「う……ううん、なにも隠してないよ! あの第二王子だから、きっと、いっぱいルーファスに迷惑かけてるだろうなと思っただけ! そう、私の勘! うん、それだけ!」
「声が裏返ってるわ、ララ。まあ、隠しても、ルーファスにはすぐにばれるのにね……」
残念そうに言うアイリス。
しまった、声は盲点だったわ……。
今度は裏返らないよう、声を低くして、言ってみた。
「だから、なにも隠してないよ、私……」
「今度は低すぎるわ、ララ」
またまた残念そうに言うアイリス。
すると、なぜか、私の頭をなではじめたルーファス。
とろけるような笑みを浮かべて言った。
「わかったよ、ララ。一生懸命、隠してるララもかわいいしね。でも、それをしゃべらせるのも、また、楽しいから、それは面倒な仕事が終わったあとのご褒美にとっておこうかな」
「ちょっと、ルーファス。そのセリフ、ものすごく気持ち悪いんですけど……。ぞわっとしたわ」
アイリスが顔をしかめてそう言ったあと、「あ、そうだ」とつぶやいた。
「ちなみに、王女様って年齢はいくつなの?」
「17歳」
「ルーファスと同じ年か……。婚約者はいるの?」
と、重ねて聞いたアイリス。
なんだか、声が鋭くて、尋問してるみたい。
「僕は聞いてないけど、どうだろう。王女だからいるんじゃない? ただ、王女の同行者にはいなかったけど」
興味なさそうに答えたルーファスに、アイリスの目が急に鋭くなった。
「同行していないということは、いない可能性が大ね。……まあ、ルーファスだから大丈夫だとは思うけど、一応、忠告しておく。ルーファスはムダに顔面がいいから、ややこしいことにならないよう気をつけて。そういうのがまわりまわって、ララに敵意をむけたら厄介だし」
ん? なんで、そこで私?
しかも、アイリスの言い方に棘がある。
「わかってるよ、アイリス。ララにそんなことするような王女なら、国ごとなくなったほうがいいからね」
「え……?」
ルーファスが言いそうにない不穏なセリフに、驚いて、ルーファスを見る。
「冗談だよ、ララ」
そういって、ふわりと微笑んだルーファス。
そうだよね、冗談だよね。
あー、びっくりした。
うん、いつもの天使の微笑みだ。
そして、翌日。
宣言どおり、ルーファスは学園を休んだ。