常森クルリというVTuber。
「あたし、チーターとか、違反行為するずるいことする連中とか、物理的に殴りたいほど嫌いなのよね。一生懸命努力している人を笑うみたいに、汚い手を使ってさ」
モカ姉からあたしが引き継いだ二枠目の配信。
あたしの配信はゲーム配信だ。
FPSゲームを計三つ、すべてでトップを取るまでやること。
すでに二つのゲームでは勝利を収めており、三つ目のゲームがV勇のゲームでもあったシンギュラリティシールズ、SSだ。
あたしの配信は午後四時からで、ロスが少なく配信を進められており、もうじき五時になる。SSも二十部隊中五部隊まで来ており、装備も位置取りも完璧だ。
十分に警戒をしながら、あたしは今のうちに話しておきたいことを話す。
「あたしは中学生で、ソーダやココア姉より年下で。でもあたしはデビューがなんやかんや特殊な事情があって。けど今は、あんまり中学に通ってなくて、不登校気味。まあずっと昔から見てくれている人は知っていると思うけど、一応ね」
実際は、たぶん知っている人の方が少ない。
現在視聴者数は八万人にもなり、見たこともない数字になっているのだ。知らない人の方がたぶん多い。
コメントを拾いたいが、さすがに戦闘中にコメントをしっかり見ることはできない。だから一方的に話す。
「ここから先は、言うのは初めてか。学校に馴染めなくなったのは、周りと違うっていうことを理解してくれない学校と、クラスの連中とうまくいかなくて、もういいかなってなったから。だから必要なところだけ行って、あとはもう適当。とりあえず今は生活できてるし、高校も行かずに、配信者として活動を続けるつもりだった。親に心配かけすぎるのも嫌だから、最低限は学校行ってるけど」
でも、とあたしは続ける。
「ココア姉やソーダと話しているうちに、あたしも、頑張って高校行ってみようかなって、思うようになった。高校と両立して、VTuberを頑張ってて。モカ姉も、高校で新しい生活を試してみればって。配信で楽しそうに高校のことを話している三人のことを見てると、あたしも、高校に行ってみたいって思うようになった」
あたしは現在十五歳。今年受験生で、来年は本来なら高校生になる立場だ。
「春先まで、絶対に高校なんて行ってやるかって、思っていた。けど今は、ちょっと行ってみたいって思ってる。この、雨宿家のおかげで」
再び戦闘が始まる。
V勇の最終戦で使用したウォーカーで相手に突撃。味方の援護を受けながら瞬く間に相手のチームを壊滅させる。これで残りはあたしたちを含め三チーム。
「あたしはチーターとかいじめっ子とか、荒らしにくる連中には暴言も吐くし、汚いことも言う。だからあたしが同じように暴言を言われるのは仕方のないこと」
FPSゲームの配信画面は総じて強い言葉や暴言が飛び交う。対人戦ゲームでは仕方のないことなのだ。
「でもココア姉は違うんだよね。チーターでも悪く言わない。なにか嫌なことがあったのかなとか、きっとストレスたまってるんだよとか。たぶん、今回の発端になった、ココア姉の手帳を盗んだバカにも、きっと文句なんて言わない。自分がうまくいかなかった。間違った。失敗した。そう自分を責めているだけだと思う」
そんな優しくて温かいココア姉が、正直あたしはうらやましい。
「だからあたしは、そんなココア姉を傷つけて、好き勝手言っている連中を、絶対に許さない」
ネットを超えて、リアルでも攻撃を始めるなんてどうかしている。あたしがその場にいたら盗人はただでは済ませなかった。
さらに一チームが別チームの衝突で敗れ、ついには自チームと相手の二チームのみ。
相手は戦闘直後で体力が少ないはず。
ここぞとばかりにあたしたちのチームは攻勢に転じる。
不意に、一つのコメントが視界に入る。
『クルリちゃん、ココアちゃんを傷つけたやつを直接懲らしめそうで怖い』
「ん? あたしが今回のバカを懲らしめるって? いーや、あたしはなにもする気はないよ。そいつは必ず痛め見るもん」
味方がすでに相手を追い詰めており、残りは最後の一人だけ。
あたしはスコープの真ん中に敵を入れ、マウスをクリック。
わずかだった体力は消え去り、画面にWINNERの文字が表示される。
あたしの配信が始まってぴったり一時間。頃合いよく、次の配信につなげることができる。
「うん、あたしの役割はここまで、あとはソーダに任せるよ。今回のバカも、ソーダがどうにかするでしょ」
おかしくなって、あたしは笑ってしまう。
「だって、あのソーダを本気で怒らせたんだもん。どうなったって、あたしはしーらない」




