蒼山モカというVTuber。
私は、VTuberが大好きだ。
自分の本当の姿を隠し、自分とリスナーさんたちの間にバーチャルの体を挟み、配信をする。
ネットで検索すれば私の素顔は少しだけ出てくる。活動以前にSNSにアップした写真を残している人がおり、一部の人が私の写真を公開している。
でも、私はアバターを使ったVTuberをやめるつもりはない。
VTuberにはVTuberでしか表現できないものがあると、私は思っている。
これから弟くんが始めることもそう。
私は、私が大好きな居場所を守るために、みんなで作るために、VTuberを続けていく。
「はーい、みんな、こんモカでーす。リアライブル所属兼雨宿家お姉ちゃん担当、蒼山モカです」
三時になり、ついに配信が始まる。
「今回は雨宿家リレー配信に来ていただき、ありがとうございますっ」
『待ってたよ!』『本当にやってくれると思わなかった』『こんな配信大丈夫か?』
いつもの配信よりもずっと、とてつもない量のコメントが流れている。
通常、私の視聴者は平均数千から多いときで三万人くらいと幅がある。
しかし今日はすでに視聴者数が五万を超えている。
普段の私の配信を見に来てくれている人だけではない。
世間で炎上している今回の出来事が世に出て少し日がたっている。本来なら下火になってもおかしくはないが、弟くんが薪をくべたことでこれまで以上に燃え上がっている。
私たちのリレー配信を知る人は、中止は間違いないと思っていただろう。
しかしココアちゃんのことがあってもお構いなしにリレー配信が始まるとあって、世間の注目度は増している。
でも、私は私の役割を全うするだけ。バトンを、次のクルリちゃんに引き継ぐだけだ。
「雨宿家リレー配信一枠目は、歌枠だよ。ただ、配信が始まる前に少しだけ話をさせてね」
一呼吸置いて、また話し始める。
「いろいろと、私たちの問題で騒がせてしまってごめんね。本当はこの配信に参加することも、リアライブルの運営からは止められてるんだけど。でもここで私が配信をしなければ、今後自信を持って配信活動を続けいけないと思った。だから私も配信をすることにしたの。それから絶対に、他のリアライブルメンバーには迷惑をかけないようにお願いね。なにか問題があった場合は、私がすべて責任を取るから」
『なんでそこまでするの?』『リアライブルの看板背負ってまでやることか?』『馴れ合い嫌い。配信辞めろ』
もちろん一部。それでも批判的なコメントは、あふれんばかりのコメントの中でもよく通る。
「私がなんでこの配信をするか。その理由は簡単だよ。私が、雨宿家が大好きだから」
でもそれ以上に、雨宿家のことを好きな人もたしかにいて。
『私も大好き!』『どこまでも応援する』『ココアちゃんがそんなことをするなんてわけない。俺も信じる』『雨宿家が、好き』
「え? みんなも好き? いや負けんが? 雨宿家好き負けんが?」
リアライブルのみんなのことももちろん大好きだ。それでもそれと同じくらい、私は雨宿家のことを大切に思っている。
「クルリちゃんはおすすめのゲームを教えてくれるし、苦手なホラーゲームもいやいや言いながらも付き合ってくれる。弟くんは私のメンタルが落ち込んだときとかも、次の日学校があっても夜遅くまでお話ししてくれる。ココアちゃんは本当にVTuberが好きで、リスナーのみんなのことも大好きで。そんなココアちゃんを見ていると、私も初心を思い出して頑張ろうって思える。こんなにあったかい雨宿家といちゃいちゃするのも、みんなはできないんだぞー。いいだろー!」
これだけは、誰も渡せない。
私が守りたい、私の場所なんだ。
「ってね、マウントをとっていくー」
恥ずかしくなって、少し笑って誤魔化した。
言いたいことはとりあえず言えた。
「それからこの配信はいつも見に来てくれるみんなに。そして、私の家族にも届いてほしいって思ってる」
マイクのエコーを入れ、音源を流す準備に入っていく。
前振りは終わり、私の歌枠配信が始まる。
「それでは歌います。今日は聞けば元気ができる曲を、いつものテンション十割増しで歌っていきます。次のクルリちゃんにつなぐまでノンストップ。ぜひ楽しんでいってね!」




