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結局私は。

 僕と紗倉さんが昇降口まできたころには、雨は勢いを増し、大粒の雨が窓を打ち始めていた。


「紗倉さん、傘は?」

「そ、それが忘れちゃって……」


 僕は徒歩通学、紗倉さんは電車通学だ。しかし駅までは少し距離があり、駅から降りても少し歩かなければいけない。

 僕は昇降口の傘立てに指していた自分の長傘を紗倉さんに手渡す。


「じゃあこの傘使って」

「え? でも雨宮君は」

「僕は折りたたみ傘があるから。こういうとき、準備は念入りにするものなのですよ」


 今朝の時点で怪しい天気になることは予想していたので、長傘を持っていたが、折りたたみ傘はだいたい鞄に入れている。


「じゃあ、お言葉に甘えて借りとくね。また返すから」

「いつでもいいよ。それじゃあ紗倉さん、今日は予定ないけど、今後の話はまた」

「雨宮君のリレー配信の内容、準備しないとだもんね」

「うぐっ、そうっすね」


 この子、ときどき刺してくるんだよな。

 そして、僕たちは分かれ、僕は自宅に向け、紗倉さんは駅に向かって帰っていった。

 別々の方向に向けて帰っていくのだが、僕は雨が顔に当たって顔をそむけた。


「うう、風強いな……ん?」


 そのときふと、校門の方に視線がいった。

 すると、見知った顔、でもあまり好きではない顔が駅の方に歩いていくところが目に入った。

 疑問に、思う。


 あいつの家、あっちだったけ? 電車でどこかに用事でもあるのかな?


    Θ    Θ    Θ


 マンションの最寄り駅に電車が着いて、駅から降りる。


 雨は次第に強くなっていた。電車で予報を見たところ、これからまだ強くなるようだった。路面は濡れ、ところどころにもう水たまりができている。

 雨宮君から借りた藍色の長傘を広げ、マンションまでの道を歩いて行く。

 一人になると時々、この時間が夢なんじゃないかと思うときがある。

 ぞぞっと意識が暗闇に沈んでしまうような、肌が冷たくなる感覚。


 私は、本当はVTuberをやっていていい人間ではない。

 自分から熱望してなったものでも、なにか対価を払ったわけではない。

 ただ、チャンスをもらえて。

 ただ、これ以上お母さんたちに心配をかけたくなくて。

 ただ、私はもう大丈夫だよって伝えたくて。

 ただ、VTuberをしていた彼に、あこがれた。


 後ろから、濡れた歩道を踏みしめる足音が聞こえてきた。


 だから、結局こうなったときも。


 ああ、やっぱり私はダメなやつだったんだなと思った。

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