さながら気分は犯罪者。
「第十回VTuber勇者決定戦、優勝チームは、定石破壊のクソガキムーブ! 平均年齢最年少の『クソガキヒーローズ』だあああああああ!」
「優勝おめでとうございます!」
実況の篠原アキさんと解説の海藤ランマさんに呼ばれ、僕たち三人は優勝インタビューのボイスチャットに入り込む。
「ありがとうございまーす」
「あ、ありがとうごじゃいます」
「……」
一人沈黙しているなか、僕とココアが挨拶をする。ココアはかみかみだったが。
「初参加からのまさかの大逆転優勝ということですが、いや最終戦本当にしびれました。あの局面で最後ひっくり返すとは」
「いや私も驚きました。実況してても二転三転する動きに、実況が追いつかなかったほどです。では、今のお気持ちを伺っていきましょう。まずはリーダーの常森クルリさん」
「ば、ばい……」
がびがびに枯れた声のクーが、ぼろぼろに泣きながらボイスチャットに入ってきた。
「だ、大丈夫ですか? なんか感情があふれてそうですが」
「いや、もう、信じられなくて……。二人とも着いてきてぐれてありがどうぅ……!」
優勝がわかったときからずっとクーはこんな調子である。
二位はマナさんのところの『フルーツジュエリー』。僕たちは最終戦で『フルーツジュエリー』を下し、二ポイント差で優勝を決めた。
「優勝できるなんておぼってなくて、大会に出られただけでもよがったのに……ああ、もう言葉出ないどうしよ……っ」
そしてまたクーはぐずぐずタイムに入ってしまう。
「大丈夫ですよクルリさん。言いたいことは伝わりましたから」
「いやもう、終盤驚くべきプレイの連続で、大会を盛り上げていただき本当にありがとうございます」
ランマさんが笑顔で言葉を受け止め、アキさんと一緒に賞賛してくれる。
「では次に、大会までに驚異的な成長を見せたと噂されていたルーキーに話を聞いていきましょう。雨宿ソーダさん、聞こえていますか」
「はーい。雨宿家のお兄ちゃん担当、『クソガキヒーローズ』ではクソガキ担当の雨宿ソーダです」
クーに続いて、僕もインタビューに呼ばれる。
「ク、クソガキ担当はソーダさんだったんですね」
「はい。悪いことは全部僕がやりました」
「『クソガキヒーローズ』はずいぶん特殊な戦いで終始相手の意表を突いて印象でしたが、そのあたりは……」
「はい。僕がやりました。やりたくてやりました」
さながら気分が犯罪者である。
「僕はクーや他の皆さんには逆立ちしても勝てないので、あの手この手で勝ってやろうと、そればかり考えた準備期間でした」
「まだ高校生ということですが、そこまで大会にかけてくださり、主催としても嬉しい限りです」
「まあ、クーから誘われたわけですけど、クーとはクーがデビューしたときからの付き合いで。そいつが勝ちたいって言ったんで。ココアも僕よりずっと頑張ってまして。これは、命を削るしかないなと」
「命を削ってV勇に挑んでいた高校生。いやしっかり仕上げてきている上に、あれほど思考の隙を突かれるような戦い方。私が参加しても、もっとも戦いたくないチームだったでしょう」
いまいち喜んでいいのかだめなのかわからない褒め方である。
「それでは最後に、優勝を決定づけたチームのスナイパー、桜木ココアさん」
「はいっ、雨宿家の妹担当、桜木ココアですっ」
優勝インタビューとはいえ物怖じせずに話せるその姿は、相変わらず高校の陰キャムーブからはまったく想像できない芸当である。若干声はうわずっているが。
「元気なお返事ありがとうございます。いや最後のバーストライフルでの優勝決定打、素晴らしいプレイでした」
「はい、ありがとうございます」
「最後にクルリさんが倒されてしまったときは、ココアさんと『フルーツジュエリー』のマナさんの一騎打ち。さすがに不利な戦いになったと思ったのですが、その瞬間ココアさんのバーストライフルが一閃。優勝決定弾になりました。あの場面で本大会最強の一角、小春マナさんを倒した瞬間、我々も思わず歓声を上げてしまいました」
実況のランマさんの声にも熱がこもっている。それほど誰もが魅せられる展開だった。
「あ、あれはソーダくんの指示で、もしクーちゃん、クルリちゃんが倒れた場合は、そのクリスタルを狙うようにと指示だったんです。クルリちゃんが生きていたときから、ほとんどずっとクルリちゃんを狙ってまして。クルリちゃんがクリスタルになったときは、さすがに小春マナさんを狙おうとしたんですけど、我慢して、我慢して。そしたら小春マナさんが本当にクルリちゃんのクリスタルに物資を取りに来て、ここしかないと思って撃ちました」
その説明を受けて、解説のアキさんが納得してうなずく。
「なるほど。マナさんの動きは予想できないほど複雑で、狙うだけでも大変。でも味方の位置は建物も透けてよく見える。確実に来る場所が、物資を取るために倒した敵のクリスタルに触れる。その瞬間だけを狙っていたわけですね」
クーならたとえ負けても、マナさんに少なからずダメージを与えられる。そしてマナさんは必ずクーの物資を取るだろうと予想していた。
そしてそれがうまくはまり、ココアが持っていたSSで最も攻撃力の高いバーストライフルで優勝を決定づけることになったのだ。
「それにしてもあの扱いが難しいバーストライフルを始め、大会では終始遠距離攻撃が光っていました。初心者ということでしたが、上位勢でも扱いが困難なライフル類を扱いが、『クソガキヒーローズ』の近接戦闘を支えていたと思います」
「あ、ありがとうございます! 褒められた! ソーダくん褒められたよ!」
「わかったわかった。おめでとうおめでとう」
「ソーダくんのおかげだよ! ありがとう!」
「わ、わかったからそういう話は裏で……」
「てぇてぇな! これが雨宿家! 甘酸っぱいぜ!」
なぜか急にテンションが上がるアキさん。
「いや、てぇてぇくないですから」
「うわああああ私もながまに入れてよおおお!」
未だに絶賛号泣中だったクーが泣きながら会話に入ってくる。
「いやもう三人とも大変仲がよく、優勝にふさわしいチームだったと思います」
冷静なランマさんがまとめに入る。
「それでは第十回VTuber勇者決定戦、優勝チームは『クソガキヒーローズ』です。優勝の賞品として、記念トロフィー、そして志野アキのコラボPCの最上位モデルが送られます」
「……え? パソコンもらえるんですか?」
「聞いてなかったんかい。大会前から言ってるし、大会のオープニングでも言ってたよ」
「き、緊張して聞いてなかったかも……。あ、パソコンの設定ができない!」
「……また設定に行ってあげるから」
「てぇてぇなぁおい!」
そんなこんなでVTuber勇者決定戦は、大波乱の結果のもと、幕を閉じた。




