心地よいスタートダッシュを決めたかった。
FPSゲームとは、一人称視点でプレイするシューティングゲームのことである。
シンギュラリティシールズもFPSであり、キャラクターを後ろから見るのではなく、実際の人と同じ視点でプレイ画面が構成されている。操作するキャラクターの背中が見えているゲームは、TPSという別種類のゲームになる。
SSには様々なプレイモードがあるが、V勇で行われるゲームはバトルロワイアルモードである。
世界観は、複数の世界から自分たちの世界を救うためにやってきたヒーローたちが、最後の一チームになるまで戦い続けるというもの。
広大なマップの上空に転送されたヒーローは、マップに配置された武器やアイテムを使用し戦う。
また、ヒーローそれぞれも、特殊なスキルを持っている。
HPを回復できるヒーラー。スキャンで敵の位置を知ることができる索敵。敵から攻撃を防ぐディフェンダー。直接相手を攻撃できるアタッカー。などなど。個人の適性や役回りでキャラクターを使うことで、戦い方も千差万別である。
それも配信をやりながらクーからの提案メインで続けていくことになるだろう。
「はーい、みんなこんにちはー。FPS界のクソガキこと常森クルリだぞー」
パンチの聞いた挨拶で始まるクーの配信。
常森クルリとの登録者数は僕よりは少ないが、ちょっと前に十万人を超えて現在十一万人。
ただ、クーのすごいところは、そのチャンネル登録者数をほとんどFPS関連のゲームのみで、十万超えのチャンネル登録者数を得ているところだ。
『うあああああクルリがV勇欠席するかと思って焦ったぞ!』『SS配信待ってました!』『今日も狂人ムーブ頼むぜクーさん』『がんばれー!』『頼むぜークー!』『うおおおおお!』
すさまじい熱狂のコメントが、クーの配信に流れている。
配信者によって、需要のある配信は違う。
僕は相談枠や、最近では雨宿家コラボの視聴者が多い。
ココアでは歌枠や雑談配信が人気である。
そして常森クルリは、FPSしかやっていないにも関わらず、それが圧倒的に人気である。
正直僕の方がチャンネル登録者数は三倍あるが、SSの視聴者は僕の配信の三倍はいる。
これで雑談配信をやると十分の一くらいしか来てくれないのが悩みだとか、いつか言っていた。人気者の悩みである。
「あー、VTuber勇者決定戦の件はホントごめん。でも、組んでくれてた二人はホントに悪くないから、絶対そっちの配信を荒らさないように。見かけたら私の収益で訴えた上で盛大に晒すからよろしく」
しっかり元チームメイトのフォローを入れるクー。
FPS関連の視聴者には血の気の多い人も多い。僕たち配信者のようなインフルエンサーなどにとって、炎上は死活問題である。今回は事故のようなもので、二人の配信者にも非はない。問題が起きないようにしっかりと押さえ込む気が回るのは、幼いながらにさすがだと思う。
「はーい、それではもう告知してある通り、助っ人でチームメンバ―に入ってくれる、雨宿家の二人とコラボすっぞー」
「えー、雨宿家の長男、雨宿ソーダです。これからV勇まで、よろしくでーす」
「はいはーい! 雨宿家の妹! 桜木ココアです。みんなよろしくお願いします!」
僕が適当にしていた挨拶にもしっかり合わせてくるココア。
配信を始める前までは混乱しておどおどしていた様子だったが、驚くべき変わり身の早さ。いつものまるで陽キャのような振る舞いに、未だに僕は毎度感嘆してしまう。
僕たちはそれぞれで配信を開いており、それぞれのプレイ画面をミラーしている。
VTuber勇者決定戦まで一ヶ月近く、シンギュラリティシールズをひたすら練習して、大会に備えることになるのだ。
そしてこれは、クーとクーのリスナーとの戦いにもなる。
配信を始め、クーの提案の元、僕たちの基本的な編成が決まっていく。
「私は前線でごりごり戦うのが得意だし、一番ファイト力もあるから、ヤイバを使うから」
ヤイバはバリバリの戦闘キャラである。現在の環境では使用率もかなり高く、多くのチームが採用してくるであろう人気キャラになる。使用できるスキルも近い間合いの敵をビームサーベルで切りつけるもの。ただ逆に被弾回避などの行動がほとんどプレイヤースキルに依存するため、上級者向けの性能でもある。
「で、僕はリコンキャラのクロウと。索敵しながら近接から遠距離も全部担う感じね」
リコンキャラとは、敵の位置を探知したり、戦闘以外の情報を収集したりする役割のキャラだ。他のキャラより圧倒的に仕入れられる情報が多い分、仲間に情報共有をする際に不要な情報まで伝えると混乱してしまう。必要な情報を取捨選択して伝えなければいけない、ある程度経験が必要なポジションだ。
「それで三番手の私が、ヒーラーであるカナデと……」
カナデは補助キャラの筆頭である。リリース初期から存在するキャラクターなのだが、スキル関連をすべて回復補助に振り切っている。便利なキャラではあるが、敵を倒すことができないため不人気で、プロの試合ではまず使われない。ただその反面、意識することは自分や味方の補助のみであるため、初心者向きのキャラクターである。
「これで最善であり最低限の構成だよね」
僕も基本的情報はあるが、この構成がどこにでも刺さるオールラウンダーな組み合わせと言える。クーをのぞいて尖った能力を持っていない僕たちは、今大会最強クラスの戦闘力を誇るクーの補助をする構成が一番勝率が高い。
「私は他のチームの構成に合わせてキャラ変更する可能性はあるけど、ソーダとココアさんは基本固定かな。ココアさんも同じキャラクター練習する方が、経験も積みやすいでしょ?」
「それはそうですけど、私、一応高校生なので、そんなに練習時間を取れないと思うので、あまり期待は……」
「安心して。私がみっちりがっつり鍛えて、ソーダみたいな器用貧乏なんてバチボコにできるくらい強くするからっ」
「助っ人で招集したメンバーを散々な言い方だね」
『相変わらずソーダにはあたり強くて笑える』『ココアちゃんには結構あまあまだね』『優勝できなくても楽しんでいこう』
コメントの荒れようを気にしていたが、一応大丈夫なようだ。
今回はリスナーの暴走が原因で当初のチームが解散した。
そしてそれに対する嫌味のように大会に全振りができない僕とココアという高校生を連れてくる当てつけ。
コメントが別の意味で火が付き、――僕は毛ほども気にしないが――ココアが変なコメントをされることを危惧していた。ただ今のところそのようなコメントは目に付いていない。
問題のあと滅茶苦茶クーが怒る配信をしていたらしいが、それのおかげだろう。
『今から本番が楽しみです!』
本番というコメントが目に入り、僕は椅子に深々と腰を預ける。
大会は六月下旬。ぎりぎり期末のテスト期間にもかからない日程だ。大会本番前にはカスタムという練習期間があり、限りなく本番に近い環境で練習することができる。
これから本当に、大会までみっちりSS漬けの日々が始まるのだ。
VTuber勇者決定戦は本当に大きく、人目に触れることが多いイベントだ。
このイベントの結果如何では、ココアのチャンネル登録者数は目標の十万人に大きく近づくことも十分可能だろう。
SSコラボも悪くないスタートダッシュだ。
あとはただひたすらに、練習するだけ、だったはずなのだが。
しかし。
「……ソーダ、行ってきて」
「へいへい」
「ご、ごめんなさい……」
僕たちのシンギュラリティシールズは、思わぬ理由で躓くことになった。
いいスタートダッシュを、決めたかったなぁ。




