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不思議で面白くもない関係。

「はーい、タイピングテストの集計が終わったから結果を発表するぞー」


 情報科目の授業を担当する先生が、緩い調子で話しながら手元のタブレットに指を滑らせる。


 今日はタイピングのテストがある日で、専用アプリを使い、制限時間内にどれだけ正確に文字をタイピングできるかのテストだった。

 データを集計するまでの時間、自由にパソコンを使っていいことになっており、教室はざわざわとしていた、先生に呼びかけられて静かになる。


 若い男の先生は、銀縁眼鏡をくいっとあげてタブレットをのぞき込む。


「えー、今回のタイピングの小テストだが、先生としても意外な結果だった。まず今回のテスト、ダントツの一位は、雨宮だ」


 おおーとざわめきが起き、クラスメイトたちの視線が一斉に向けられる。


「打ち間違いも少なく、タイミング文字数もダントツトップだ。素晴らしい」

「どうもでーす」


 端っこの席に陣取っていた僕は返事をしながら手をひらひらとさせる。


 近年、パソコンよりもスマートフォンが身近になっており、僕たちよりも一世代前に比べてパソコンが使えない子どもが増えているとかなんとか。実際、周囲にもスマホがあるからあまりパソコンは使わないという人は多い。

 かたや僕は、現在パソコンを使ってバーチャルで活動しているVTuberだ。

 日常的にキーボードも使用しており、さすがに同い年のクラスメイトには負けられない。などというプライドはないのだが、適当な気持ちでキーボードを叩いていたらこの結果だった。


「タイピングが早いとは意外だったな。俺よりもよっぽど早いぞ。どうやってそこまでのタイピングを?」

「これでも一応パソコン部なので。活動実績を作るためにもよくパソコンは触っています。あとはネトゲでコミュニケーションを取っていたら、いつの間にか」

「ああ、オタクくん特有の」


 他のクラスメイトも特にそれに異議を唱えることなく、まあそんなものかと納得している。


 失礼だなまったく。

 しかしまあ、そのあたりで納得してもらわなければ説明のしようもないけれど。

 僕自信が配信者をしていることはばれてはいない。ただ公然Vオタクの桐也に絡まれていることもあって、僕もVオタクであると認識されてしまっている。怖い綱渡りだよ本当に。


「次に少し差があって、紗倉だ」

「は、はい、ありがとうございます」


 恥ずかしそうに縮こまりながら、紗倉さんはおっかなびっくり手を挙げている。


「マジで紗倉さん? パソコン強いのか、意外だな」

「横で見てたけど画面見ずにカタカタして格好良かった」

「これはいいギャップ。普段目立たないけど、結構ハイスペックだよね紗倉さん」


 僕と紗倉さんの扱いの差ひどない?


 紗倉さんはクラスでも誰もが認める陰キャ女子ではある。しかしこのクラスには誰かをいじめるようなタイプはおらず、攻撃性の強い者もいない。

 よって教室の隅でひっそりしているタイプの陰キャなだけで、クラスメイトはみんな紗倉さんに優しいのだ。

 周囲から賞賛の目を向けられる当の紗倉さんは、モニターの陰に隠れるほど小さくなってしまっているが。


 しかし紗倉さん。

 パソコンの扱いは苦手だという割に、配信に最低限必要な技術は十分すぎるほど持っている。これがV愛のなせる技か。実際はブラウザがなにか、クラウドってなに、変な画面が出たウイルスかも、みたいなことを時々言っているレベルなのだが。


 とはいえ、僕も紗倉さんも、VTuberで培っている技術を高校で生かせる部分なんて、情報科目の授業くらいしかないのだけれど。

 先生はタイピングテストの上位者を読み上げていき、やがてその結果を眺めて、むむっとうなった。


「この学年はタイピングが優秀だな。雨宮に紗倉、それから根岸の速度も抜けているな。ここ最近はパソコン離れが進んでいたから、先生は嬉しいぞ」


 あまり聞きたくない名前が出て、僕はため息をつきながらモニターの青い画面を眺める。

 そういえば、根岸もYouTubeをやっているとかなんとか。といっても僕らはVTuberの中でもかなり陰キャよりの人種で、根岸は陽キャに属する方なので、接点もなにもないのだけれど。


 そしてなにより、僕は根岸のことが好きではない。


 ただ、いじめられていた僕と、いじめていた根岸と、そんな対極な二人が同じ高校でVTuberとYouTuberをやっているなんて、なんとも不思議なものだと思うだけ。面白くもない関係だ。

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