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YouTuberでいること。

「くそっ……チャンネル登録者が伸びねぇ……」


 机に拳をたたきつけながら一人うめく。

 高校に入学し、小学生から続けてきた野球を止めた。厳しい監督にいばる上級生。中学生まで自分はうまい部類にいると感じて野球だが、所詮は井の中のかわず。一時は入部したのだが、別に強豪というわけではないのに上級生は全員俺よりずっとうまかった。同学年にもレベルが違うやつもあり、三年間青春を捧げてもレギュラーになれるかさえ怪しかった。


 結局二週間で野球部を止めた俺は、話題だったYouTubeを始めることにした。

 運がよかったのは、かなり序盤に投稿した動画がバズったことだ。


 『授業中に弁当を食べ切ります』


 一番後ろの席で授業をまじめに受ける振りをして、弁当を食べきるだけの動画。

 今思ってもクソしょうもない動画だったが、その馬鹿さ加減で受けて初投稿で十万再生まで行った。


 何人もの人間が、俺を見ている。

 そのときの快感は忘れられない。

 まじめに授業を受けろという否定的なコメントも多かったが、野球部で罵倒されてきた俺にとっては蚊に刺されるより気にならないことだった。


 そして俺は、自分とノリが近い友人を巻き込んで、本格的にYouTuberを始めた。

 高校生活の一場面を撮影し、それを面白おかしく編集して適当に投稿。身内周りで見てもらい、SNSで拡散。


 川に飛び込みコイを捕まえ、焼いて食べる。

 カラオケで95点以上取れるまで帰れまテン。

 深夜に警察官をストーキングするチキンレース。

 俺たちが楽しむものから反感も買うグレーなものまで、思いついたものはなんでもやった。

 それでも最初の動画のバズりを超えることはできず、次第に再生数も先細り。

 昨日投稿した動画も再生数は三百程度。


 チャンネル登録者数も一万は超えたが、それでもこれ以上は増えも減りもしない横ばいを続けている。

 もっと過激なものをしなければいけないかもしれない。

 YouTubeのホーム画面を開くと、一つの気に入らないチャンネルが目にとまった。


 VTuber。

 作り物のアバターを身にまとい、自らの素性を隠してゲームやら雑談や歌をメインに活動している連中だ。

 VTuberが登場した当時は、正直自分の容姿に自信がない連中がやっているものだと思っている。そんな中途半端で覚悟もない奴ら、どうせ成功なんてしないと。だいたいアニメみたいな絵が動いているのを見て、なにが楽しいのかわからない。

 しかし、俺の想像とは裏腹に、VTuberは伸びた。瞬く間に大きな業界になり、会社まで次々に生まれてきた。YouTubeを見ていてVTuberを見ない日などない。


 中でも気に入らないのが、学生VTuberの連中だ。

 それほどの数ではないが、自らが中学生や高校生、大学生であることを公言しているVTuberがいる。

中でも気に入らないやつは、女子高校生VTuberだ。しかも登録者数急上昇で話題にまでなっている。


 その登録者が増えている要因は、なんとコラボ。

 同じく高校生VTuberをやっている、美少女の体を使っている気持ち悪い男にコラボをしたのだ。そいつは登録者が三十万を超えるやつで、正直高校生だとは思えない。それくらい頻繁に活動しており、配信頻度も企業勢と変わらないほどなのだ。


 ともかくそいつとコラボしたことをきっかけに、最大手企業のVTuberともコラボし、大人気切り抜き師からもお気に入りで、この数ヶ月で驚くほど登録者数が伸びているのだ。


 大して能力もないくせにだ。

 VTuberはやるだけでも相応の金がかかる。機材も普通のYouTuberより多いし、アバターを作るにもお金がかかる。

 経緯は知らないが、そんなものを高校生がやすやすと手に入れている環境が気に入らない。

 親が金持ちか、女だから体でも売っているのかしれない。


 そんな奴らが流行っているのに、俺が流行らない方がおかしいのだ。

 俺は違う。

 自分の力で、もっともっと上に行ってやる。

 ベッドに寝転がり、次になにをするかを考える。


 そうこうしていているうちに、俺の意識はまどろみに沈んでいった。

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