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高校生Vtuberをしています。

「今日高校でさ、彼氏が他の女に取られたとかって隣のクラスの女の子がキャットファイト始めてさ。ひっかくかみつく髪を引っ張るの泥仕合で大変なことになったんだよ」


『生々しくて草』『女怖いな』『浮気男死すべし』


 高校生活の中で実際にあったことを話す、僕のリスナーたちはそれぞれに思ったこと、感じたことをコメントで書き込んでくれる。

 パソコンデスクに置かれた二つのモニター。足下には黒いタワー型のパソコンがあり、静かな駆動音を響かせている。デスク上にはキーボードやマウスなどの基本装備の他に、アームスタンドで支えられたコンデンサマイク。正面にはモーションキャプチャ用のウェブカメラ、オーディオインターフェースも設置されている。

 一般的な男子高校生の部屋には似つかわしくない機材の数々だが、配信者の環境としては平凡だ。 


 僕はネット上で配信活動をしている。

 配信用ソフトの横に表示されているものは、僕自身が使っているアバターだ。

 腰あたりまである長い黒髪に、青い傘をモチーフにした大きな髪飾り。きらきらと光る水晶のような翡翠色の瞳が印象的で、誰がどうみても美少女だと言うであろう容姿をしている。服装は大きき目の藍色のパーカーで、基本的に配信画面には映らないが下は膝丈のスカートになっている。

 僕が体を動かすと連動してモニターの美少女も動き、表情を変えると美少女も笑顔や怒り顔にころころと変化する。

 この美少女アバターを用いて、僕はインターネット上で配信活動を行っている。


 僕、雨宮颯太はVTuberである。


 VTuberとは、某大手配信サイトを中心に活動しているバーチャルの体を持つ配信者の総称である。主に、リアルの体を配信画面に映す代わりに、アニメのキャラクターのような、2Dや3Dのモデルを映して配信する人たちのことを言う。

 生身の姿をさらすことは現実世界での身元がわかるリスクにもつながるが、自身の代わりとなるアバターを立てて声を当てていれば、本人が特定されることはまずない。

 僕は高校二年生の現在、VTuberとして配信活動を行っている。

 名義は雨宿ソーダ。自分の名前をもじって使っている、ネットリテラシーもあってないようなギリギリな名前である。基本的に名前でばれたことはないので、そこまで問題とも思っていないけど。

 今日は月曜日の夜で、月曜日が始まったことを憂いているリスナーたちへ行っている雑談配信、『こんばんは月曜日』である。


「それで喧嘩してる女の子の片方を羽交い締めにして止めることになったんだけど、セクハラするなってあとで先生から怒られた」


『理不尽すぎる草』『ソーダ君、意外に男前だよね』『で、感触は?』


「……女の子って結構柔らないんだなと思った」


『ちゃんと男子高校生して草』『ソーダに勃つところなんてないくせにな』


「誰が棒なしだ! ちゃんとそそり立つものがあるよ!」


 下ネタと下ネタの応酬にコメントが笑いに染まる。

 僕自身は、本当にれっきとした男である。

 ただ、いろいろ複雑な事情が絡み合った結果、いや事実はたいしたことない理由だけど、僕が使用するアバターは黒髪ロングの美少女になってしまっただけだ。そんなことある? あったんだなこれが。

 声は、特にボイスチェンジャーなどは使ってはいない。

 そして自分ではわからなかったのだが、僕の声は男子とも女子とも思える、やや中性的な声質をしているらしい。配信を通して自分の声を聞くと、なるほど、たしかに女の子とも思えるかも、そんな声をしていた。


 ただVTuberとしての分類は少し微妙な立ち位置。一般的には、バーチャルの美少女の肉体をまとっているVTuberをバ美肉VTuberと呼ぶ。僕も分類されるときはそこにはいる。

 そしてわかりやすく乗りやすいネタとして、僕のバ美肉問題は定番となっている。


 配信者である僕とリスナーとのやりとりでさらにリスナーが沸き立つ。配信者として、この瞬間が一番楽しい。


「というわけで月曜日を憂いている諸君、家の外に出ればラッキースケベに遭遇できるかもしれないので、今週も頑張っていきましょう」


『オチがひどすぎる』『性欲まみれの男子高校生の鑑』


 配信を一時間少し続けたところで、キリもよかったので配信を終えることにする。あまり月曜日から長い配信をするのは、僕もリスナーもよろしくない。


「それから、これはちょっとした告知なんだけど、近日中に僕、雨宿ソーダからビッグニュースをお伝えできると思う」


 ぽんと、配信画面に一枚のサムネイル画像を表示する。笑顔で写っているソーダの顔の横に、黒塗りになってぼかされている人影が映っている。

『ビッグニュース!』『これはソーダが女の子になるって意味でいいんだな?』『フィリピンにいい医師を知っている。紹介するぞ』


「イカれてるのか。誰が女性になる手術をすると言った。僕は今のところ男を止めるつもりはないんだ」


『今のところかよ笑』とつっこみが入るがスルーする。

 はやるリスナーを押さえつつ、配信をまとめに入る。


「まあ僕の配信人生で一番衝撃を受けた出来事ではあるけどね。それでは、エンディング行きまーす」


 夕暮れの教室で、ソーダが手を振って教室から出て行くアニメーションを流す。先日送られてきたばかりのムービーだが、どこから見ても女子高生であるアバターの中身が自分であることに、今さら驚きもない、配信活動三年目の今日この頃だった。

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