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 んで騎士団の詰め所ってとこで事情聴取されたわけ。

 柿渋のせいで前が見えない俺を哀れに思ったのか、一人の騎士さんが手ぬぐいで俺の顔を拭ってくれてさ。

 俺はそこでようやくまともな視界を取り戻したよ。

 世界ってこんなに綺麗なんだなーって感慨深く思っちゃったりして。

 空が青かった。

 で、当然俺は初めてまともに異世界を認知したわけで。

 まさか俺を連行していたのがガッツ鎧を着た騎士様だとは思ってなかったから、まあ驚いたのなんの。

 しかも典型的なくっころ騎士なの。

 金髪碧眼の真面目そうな女。

 女騎士って実在するのな。

 初めて知ったわ。

 最初はコスプレかと思って、あるいはたちの悪いドッキリかなんかだと思って「それウィッグですか? めっちゃリアルっすね」って言ったらその女騎士にも殴られた。

 鎧着たまま殴ってきたから、金属製の籠手が頬にめり込んで痛いの何の。

 首もげて死ぬかと思ったわ。

 何すんだよ、って視線を向ければ女騎士の方は泣いててさ。

 殴ったほうが泣いてんの。

 俺は混乱した。

 で、しかも殴られた衝撃で腰蓑が飛んじゃってさ。

 全裸再び。

 相変わらず両手は縛られてるから腰蓑を戻す余裕もなくて。

 他の騎士共も泣いちゃった女騎士を慰めるのに必死で、誰も俺の股間を隠してくれなくて。

 しかも最悪なことに椅子に縛られたまま後ろ向きに倒れちゃってさ。

 やってみたら分かると思うんだけど、あれ、股間の隠しようが無いの。

 せめて横向きとかだったら脚で隠すとかやりようはあったんだけど。

 両手が封じられてるからもう本当にどうしようもなくて。

 詰め所の一室に響く女騎士の泣き声と鎧の擦れる音、そしてぽつんと俺のムスコ。

 中空にそびえる一棟の柱。

 まさにポツンと一軒家。

 はは、笑えねぇ。

 訳わかんない状況過ぎて俺のほうが泣きたかったわ。

 こんなん俺のムスコが泣いちゃうぞ。


 後で分かったことなんだけど。

 あの女騎士は本当にウィッグを被ってたみたいでさ。

 この国では赤黒い髪色は古代の魔王を彷彿とさせるから、人間はその色の髪を持つ奴らを不吉だってことで差別されてるらしい。

 女騎士も生まれたときから髪色のせいで何かと苦労してたから、ウィッグを被って誤魔化してたらしい。

 ちなみに目の色は碧眼に見えたけど実は魔道具を使って変化させているだけで、元々の色は髪の毛と同じ黒っぽい赤なんだとか。

 で、俺にそれを指摘されたのを赤黒い髪色の侮辱だと取ったらしい。

 違うんだよ。

 俺はただ、日本人のコスプレイヤーなのかなーって思っただけで。

 まさかそんな地雷を踏み抜くとは思ってなかった。


 誠心誠意フルチンのまま謝罪して、女騎士の方もようやく落ち着いたから、事情聴取を再開した。

 全裸で謝罪したことある?

 俺はある。

 意外と爽快感があっていいよ。

 お前もやってみろよ。

 やれよほら。

 見といてやるから。

 ……うん、ごめん。

 冗談も限度があるよな。

 でも俺は冗談でも許せないことを実際にやらされたわけでさ、そこんとこちょっと同情してほしいな。

 幸いだったのは詰め所の一室という密閉的な空間で、公衆の視線は気にしなくて良かったことかな。

 公衆の目線はなかったけど騎士の目線は四人分あったからな。

 うち二名は女性で俺のことを若干の恐怖心とともに汚らわしいものを見る目で見てくるし、残りの男の騎士二人は軽蔑の色を隠そうともしてないからな。

 話が逸れたな。

 閑話休題。

 俺はようやくここが異世界なのだと認識した。

 目の前に騎士がいるし、仕組みが全く理解できない魔道具使ってるしで確信を得た。

 ちなみに事情聴取の時に使われたのがウソ発見器。

 あれってすげーのな、机の上にちょこんと乗っかってるちっこい装置が言葉の真偽を判定するんだぜ。

 脳波とか読み取ってるわけでもないのにどうやってんだろ。

 で、そのウソ発見器があったおかげで俺はもともと風呂場にいて、気が付いたら急に道のど真ん中にいたんです、っていう嘘みたいなホントの話を信じてもらえたわけ。

 ありがたや。

 ウソ発見器がなかったら俺は噓つきの露出狂として裁かれていたと思う。

 だって、お前、公共の場で裸だったのは異世界転移したからでしたーとか言われて納得できる?

 俺が騎士だったらまず疑ってかかるよ。

 何を下手な言い訳をしているんだって。

 うん。

 だから本当にありがたかったの。

 で、そしたら騎士様方が「な、なんと、異界の勇者様でしたか!」って超びっくりしてんの。

 ベタな展開来たなぁとか思いながら俺は尋ねました。


「勇者っていうのは何ですか」

「魔王を討ち果たすもの、です。異界から来たものは皆、人知の及ばぬ強大な力を持っていると言われています」

「ほぇぇ、じゃあ俺にも強大な力が?」

「そのはずですが……勇者様はご存じないのですか」

「え? いや、俺は本当に気づいたら道のど真ん中で頭洗ってた感じなんで……全く何も知らないっすけど」

「……女神様から直にお力を頂き、説明を受けるのが一般的らしいですが……」

「全く知らんです」

「……どういうことなんでしょう」

「さぁ……」


 騎士の人も不思議そうにしていた。

 俺の話を聞いてくれたのは顔の線とかがシュッとした細めのイケメンで、やはりイケメンは困惑していてもイケメンだった。

 緑色の髪の女騎士と、ゴリラみてーな巨体の男の騎士は、ちょっと離れたところで金髪ウィッグの女騎士を守るように立っていた。

 誰から守るってそりゃ、俺からでしょうね。

 俺は人のコンプレックスにずけずけと踏み入るモラルのない人ですから……

 悪気は無かったんだけどさ……

 イケメンの騎士は「神父様を呼んできましょう」と言って部屋を出ていてしまった。

 部屋に残されたのはいまだに半裸の俺、寡黙そうなゴリラ騎士、俺とは話したくなさそうな緑髪の女騎士、そして泣かせてしまった金髪ウィッグの女騎士。

 気まずいったらありゃしない。

 だって誰も喋らないんだぞ。

 四人も人間がいるのに、しかもうち三人は顔見知りなのに会話が発生しないんだぞ。

 原因は多分、もちろん俺。

 だって半裸の不審者だし……

 金髪騎士泣かせちゃったし……

 異界の勇者とかいう微妙に偉そうな立場だし……

 陽キャっぽいイケメンの騎士は誰かを呼ぶために外に出て行っちゃったし…………

 残りのメンツもそこまでおしゃべりな人たちではなさそうだし……

 というかそもそも女性陣は俺と話すことすら嫌がっているっぽいし……

 そんなわけで、部屋は沈黙に包まれた。

 時折外から聞こえてくる子供の泣き声とか、カラスの泣き声とか、あといまだに鼻を啜っている女騎士の涙をこらえる音とかに耳を傾けていたんです。

 で、誰も喋らない西向きの部屋の中、そろそろ夕日が差してくるなーとか思いながらぼーっとしてたら、そういえばまだ拘束を解かれていないなぁ、って思いいたったわけ。

 ギッチギチに縛られてたから血流とかそういうのに悪そうだし、露出狂の疑いは一応晴れた(……のか?)わけだからどうにかしてもらおうと思って。

 だから


「すんません、縄外してもらえません?」


 ってゴリラ騎士さんにお願いしてみたの。

 たっぷり三秒たってからゴリラ騎士さんはその言葉が自身にかけられたものだと気づいたらしくて、反応がすごく遅かった。

 そのせいかどうか知らんけど、俺がまた金髪ウィッグの人に話しかけてると思われたっぽくて、緑髪の女騎士が


「またエリンに嫌がらせ!?」


 って。

 違うよ。

 俺はそっちのゴリラに話しかけたのよ。

 ってか嫌がらせってなんだよ。

 仮に俺がウィッグ騎士に話しかけたとして、それが嫌がらせになるのかよ。

 そしてここで図らずもウィッグ騎士の名前把握。

 エリンというらしい。

 そしてエリンは緑髪の騎士をなだめ、固い表情で俺の後ろに回り、俺の腕を縛る縄をほどきはじめた。

 気まずい。

 そして緑髪は糞を見る目で俺を見ていた。

 気まずい。

 さっき泣かせた女に縄をほどかせる鬼畜にランクダウンしたようだ。

 俺は助けを求めるようにゴリラ騎士を見た。

 ゴリラ騎士は俺と目が合うと、申し訳なさそうに目をそらした。

 ゴリラ騎士のほうは声をかけられたのが自分だとわかっているらしい。

 そのうえで緑髪の誤解を訂正しようともしない。

 なんて奴だ。

 でも分かるよ、男は女の尻に敷かれる運命だもんな。

 で、そのエリンさんに縄をほどいてもらっている間にもいろいろ考えるわけよ。

 縄は結構固く結ばれてたからエリンさんも苦戦しているらしく、時間がかかっていた。

 縄の結び目は椅子の後ろ側だったからさ、エリンさんも屈んで作業してたんだけど、目線の位置がちょうど俺の尻のあたりになるわけ。

 で、俺はいまだに腰蓑一つしか衣類を着ていなかったから多分、エリンさんの目には俺の尻がちらちらと見えてたと思う。

 俺の青い尻がだよ。

 セクハラだよね。

 だから俺はゴリラ騎士にお願いしたつもりだったんだけど。

 エリンさんも気まずそうだし、緑髪はますます俺を軽蔑しているし、ゴリラ騎士も申し訳なさそうに黙ってる。

 俺のライフはもうゼロよ。

 気まずすぎるだろ。

 いや、美女に世話を焼いてもらうとか字面だけ見たら男児の憧れだけどさぁ、実際にやってることは半裸になって縄をほどいてもらうとかいう訳わからん状況やからな。

 しかも尻を若干見られながら。

 誰得だよ。

 誰にとってもよくない状況だよこんなの。

 いやそういう状況に興奮する猛者も一定数いるのかもしれないけどさぁ。

 俺はただただ気まずかった。

 で、その緊張をほぐそうと思って、俺はちょっと冗談を言ったわけ。


「すんません、俺の青い尻が……」


 って。

 青二才っていうのと、今の腰蓑しかない状況をかけたいいジョークだろ。

 誰も笑わなかった。

 めっちゃスベッた。

 ちょっと死にたくなった。

 しかも緑髪には水をぶっかけられた。

 相当つまらなかったんだろうな。

 っていうかこれこそセクハラか。

 で、緑髪はコップに入ってた水をぶっかけやがったんだけど、それがいい感じに頭髪にヒットしてさぁ。

 乾きそうだったシャンプーが再び水分を得て俺の眼球に降り注ぐの。

 そう柿渋。

 悶え苦しみパートThree。

 二度あることは三度ある。

 個人的にはトイストーリーの3が結構好きなんだけど、分かる?

 あ、見たことない……

 そっか。

 名作だから1から見たほうがいいよ。

 水も滴るいい男、とは言うけどシャンプーしたたるいい男とは言わないよな。

 あれはシャンプーが滴っていたら目が開けないからだぜ。

 イケメンは大体目、開けてるだろ。

 目を閉じたらイケメンだって写真写り悪いよな。

 だってアイドルの写真とか大抵目を開けてるじゃん。

 目を閉じたまま写真を撮られるモデルは存在しないでしょ?

 うん。

 そして俺はムスカになった。

 「目がぁ、目がぁ!」って、はは。

 なにわろてんねんいてこますぞ。

 ゴリラが慌てて手拭いで俺の顔をぬぐってくれたけどもう遅かった。

 眼球洗浄はすでに始まっている。

 柿という果物にこれほどの怒りを覚えたのは多分人生でこれが初めて。

 学習しないバカはシャンプーを使うなってこと。

 お前も気をつけろよ。

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