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 気づいたら異世界に居たんですよ。

 問題は風呂場でシャンプーを使い頭をワシャワシャしていたその瞬間に異世界転移したことね。

 シャンプーしてるときって目、つむるじゃん?

 だから異世界転移してもしばらく気が付かなかったんよ。

 しかも転移した場所が異世界の夜の王都の大通りという人目アリアリのとこだったんですぐに発見されたんよ。

 で、当然シャンプーしてる時ってことは裸ってことで。

 異世界人からしたら大通りの真ん中に裸で謎の泡を頭にまとう不審者が出没したようにしか見えないわけ。

 実際そう。

 あれは我ながら不審者でしか無かった。

 で、なんだかちょっと肌寒いなぁと思ったら誰かの叫び声が聞こえ、何だ何だと思っていたら誰かに殴られたんですよねぇ。

 シャンプーしてる時にですよ。

 急に殴られた俺はもう、びっくりして、間違って目ぇ開けちゃったんですよ。

 シャンプーしてる時にですよ。

 目の中に弱酸性の泡が混入するわけですよ。

 まあ痛いの何の、なぜ人間はまぶたを持つのかがよく分かったよね。

 燃えるように熱い感じはあるんだけど、ああいう風呂場用品特有の爽快感?

 ひんやりした感じ?もあって、熱いんだか冷たいんだか分かんなくなっちゃったよね。

 痛いのだけは確か。

 地獄のように痛い。

 俺がいつも使ってるシャンプーって柿渋のやつだからさ。

 そうそう体に優しそうなやつ。

 刺激は普通のシャンプーよりも強いと思う。

 目ん玉めっちゃ痛かった。

 んでもって、殴られた頭も痛い。

 痛覚の無量空所だよねこんなん。

 領域展開!

 あ、知らない?

 呪◯廻戦っていう漫画の……まあいいや。

 とにかく情報量が多すぎて俺はパニクったの。

 だってお風呂場というプライベートな空間に居たはずなのに、何故か何者かに殴られてんだよ?

 なんで俺の家の中に俺以外の人間がいるんだとか、目が痛いとか、風呂場のドアが開く音はしなかったぞとか、目が痛いとか、俺裸見られたの?童貞なのに?とか、目がいてぇとか。

 んでいつの間にやら地面に組み伏せられて全く動けないし、ある筈のない人のざわめきみたいなものも聞こえるし。

 俺はパニクったの。

 だから叫んだの。

 「助けて! 誰か! 不審者ー!!」って。

 どっちが不審者だよってね、はは。

 なに笑ってんだよ。

 笑えねーよこんなん。

 神様が居たらアッパーカットで前歯2、3本かち割ってるところだわ。

 なんかさぁ、異世界転生にもタイミングってものがあるじゃん?

 教室で本読んでたら魔法陣が床に広がって光りだした!とか。

 トラックに轢かれそうな猫を助けようとして代わりに……とか。

 そういう良さげな理由というか、演出というか、いかにも異世界転生するぞーって感じが、俺の場合は全く無いわけ。

 転生じゃないから死んでないんだけどね。

 でも神秘的な光に包まれて……とかいう演出は無かったと思う。

 目ぇつむってたからちょっと自信ないけど。

 そういう演出があったら、異世界転移してたことに気づいてたら、呑気に頭をワシャワシャとかしてなかった。

 陰部を隠して早急にその場を立ち去っていた。

 公衆の面前でおとなしめのムスコを堂々と丸出しにしている変態にはならなかった。

 でも異世界人の方からしたら、木製の風呂椅子に座った裸の男が急に街なかにスポーンしたように見えるわけ。

 まあ不審者だよね。

 特に、俺がスポーンした瞬間に眼の前に居た冒険者の人は結構驚いたらしくて。

 反射的に殴っちゃったって言ってた。

 その人は悲鳴も上げてた。

 まあしょうがないよね。

 不審者だもん。

 露出狂だもん。

 でその後すぐに騎士団の人が来て連行されたんよ。

 その間ずっと両手は封じられてて。

 頭部から顔面に滴り落ちるシャンプーを手で拭うこともできないから、俺はずっと目をつむってた。

 目ぇ開けたらまた痛みに悶絶すると思って。

 だって目にシャンプーが入っても拭えないんだぜ?

 柿渋だぜ?

 お前プールで目を開けたまま水に入れるタイプ?

 相容れないわー。

 まあだから目を開けられない状況だったの。

 だからなんか拘束されて連れて行かれてるなーってことしか分かんなかった。

 軽く恐怖だよね。

 お前も目隠しして誰とも知らない第三者に連行される経験があったら分かると思うんだけどさ、やっぱり自分の行く先がしれないって結構怖いよね。

 将来的な進路とかそういうのじゃなくて物理的に行く先。

 え?

 そんな経験無い?

 だよね。

 俺も無かった。

 騎士団の人も俺の格好が目に余ったのか、とりあえずと雑に布で腰蓑みたいな服を作って、ムスコは隠してもらえた。

 騎士団の優しさに俺は涙すら流したよ。

 それでようやく俺の尊厳は保護されたんだよ。

 いやそれまでずっと丸出しだからな?

 お前も公衆の面前でムスコを晒したことがあったら分かるだろ、この屈辱。

 うん。

 そんな経験ないよな。

 俺も無かった。

 ムスコを奇異の目から守ってくれた騎士団の人には超感謝してる。

 その頃にはある程度シャンプーも滴り落ち終わってたから、せめてムスコの恩人を一目見ようとうっすら目を開けたんだけど、でもやっぱりまだシャンプーが残っててさ。

 悶え苦しみパート2だよね。

 そう柿渋。

 今度は騎士団の優しさじゃなくて柿渋の刺激で涙が出た。

 学習しない馬鹿がシャンプーを使おうとするとこうなんだよな。

 お前もシャンプーするときは気をつけろよ。

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