第九話 料理下手な女子が頑張っているようです!
み、皆さん!こんにちは!
緑化委員、一年の土屋灯です!
最近、植物について楽しく話せる友達ができました!
でも、その子は私みたいな植物オタクよりも明るい子たちと過ごしているのがとても似合う子なんです。
まだ私とお話してもらえるか分かりません。が、今までの謝罪を込めてプレゼントを贈ることに決めました!
ただ……私、料理面は一切やらないので苦手だったんですよね……どうしましょう……
う~ん……
ここのところ私の心が疲弊しているみたい……
それはなぜかというと第一に尚センセーから受ける生徒イジリが続いていること、かなー……ははっ、つい遠い目をしちゃったよ。
一度は「転校生いじめなんて良くないと思いますよ、尚センセー」と軽く文句を言ってやったりしたものの効果はまったく無し。
逆に「これは生徒への愛だ!裕理~!!!今日も可愛いなぁ~!!」
と背中をバシバシ叩くことにはじまり、頭をぐっしゃぐっしゃに撫でまわされ、最近では「あくまでも生徒への愛だ!」と呼称しながらぎゅうぎゅうと抱きしめてくるようになったのだ!
しかもTPOを全然わきまえていないのが凄い!
いや、こっちも恥ずかしいからやめてほしいんだけど、一応相手は女性教師……私が本気で手を上げれば簡単にKOさせることは容易いだろう。
だけどそんなことしたくないし、転校先では大人しくする!ママとだって「この手は守るために使ってね、約束よ?」と幼き頃に約束だってしている。
おそらく父も多忙のなか前の学校を退学処分という手続きをとり、あっという間にこの学校への転校手続きをとってくれたわけだからまたトラブルを起こして『退学処分』だなんてありえない!!
いや、あっちゃいけないのだ!
大人しく、大人しく……
そして楽しい学生生活を……!
と考えているのだが尚センセーのスキンシップがとまらない。
遠目から伺うようにちらちらと視線を向けてくる生徒諸君、そろそろ突っ込んでいただいて構わないぞ!
むしろ「尚センセーに相談が……」とかって助け舟を出してくれ!!!
頼む!!!
「せ、先生!そ、そろそろ裕理ちゃんを、は、離してあげてくださいっ!!」
キタ救世主!!!
ありがたく声の主の方へと視線を向ければ、なんとも小柄な勇者が立っていた。
同じクラスの土屋灯チャンだ!
「お、どしたー?土屋。お前も一緒に混ざっていくかい?ほれほれ!」
悲しくも小さき勇者の一言はさらりと躱され、尚センセーは灯チャンも巻き添えにさせんばかりに「おいでおいで」と手招きする余裕まである。
なんっっっって教師だ!!!
「!!ち、ちが……そ、そろそろ教室に!!!」
「あー、そうだったそうだった。今朝は職員会議が入っててHRが少し遅くなるんだったかぁ~……残念。また、な?裕理」
って、いちいち囁くように言葉を残していかないでいただきたい!!!
尚センセーのスキンシップのせいで尚耐性のようなものが付くのかと思っていたが、全然ダメ!
毎度毎度のスキンシップに私はあたふたするばかりだ……な、情けない……。
「はぁ~……でも灯チャンの助け舟には救われた気分だよー!」
やれやれと肩をすくめつつも小さき勇者に感謝。
だが、ここでふわりとした良い匂いに気が付いた。
香水?
いや、そんなしつこい匂いではなくて、もっと軽くてふわふわとしているような……
首を傾げながら灯チャンと一緒に教室に向かっているとふとさり気なく視界に入ってきた灯チャンの手元が絆創膏だらけということに気が付いた。
「え、ちょっと!灯チャン、これどうしたの!?」
違う。
正確には絆創膏が貼られているだけじゃなくて細かな傷跡や赤みを帯びている両手。一体どうしたというのだ!?
灯チャンの手を取りまじまじと眺めながら心配そうに顔色を伺う。
すると、なぜか視線をさまよわせている灯チャン。
「え、えっとね……ちょっと、ドジっちゃって……」
「……転んで怪我したふうでもない、よね?細かな、切り傷?が多いみたいだけど……」
「な、なんでもないよ!だ、大丈夫!!」
「え。でも……」
「だ、大丈夫!さ、行こうっ!!」
答えがもらえないままに今度は私の手を握られる形で教室に引っ張って行かれた。
……怪我?
傷……変なことにでも巻き込まれていなければ良いけど……
「あ。おはよーっす!なんだよ、手繋いで登校か?仲良いなぁー!」
できる男、南クンに挨拶をすると爽やかな笑みとともに挨拶に応えてくれた。
あ、そうだった。
手、握られたままだったっけ。
まぁ、特に嫌でもなんでもないけど灯チャンは今やっと気付いたのかさり気なく手を解放。
各々の席についた。
私たちは席も隣と前ということで話もしやすい。
灯チャンも休憩時間になると私の席の方へ向いて授業のことだったりちょっとした小話もしてくれるようになってきている。
話のレパートリーは南クンも灯チャンも豊富で毎日「今日はどんな話かな?」と楽しみにしているぐらいだ。
だが、今朝の灯チャンはどこか様子がおかしい。
席についたままカバンを開け閉めしつつ、ぶつぶつと何事か分からない独り言を言っていた。
たまーに、ちらりと私の方を見ている気がして「どうしたの?」と首を傾げてみせるが、再び顔をカバンのなかに戻してぶつぶつと独り言再開。
そろそろ心配になってきたので声をかけようとしたときーーー
コトン。
私の机の上にリボンまで巻かれた小箱が置かれた。
灯チャンが置いたってことは灯チャンが用意したもの、だよね??
「えっと、これは?」
「……っ、えっと……あの……転校してきた日に……助けてもらったお礼……できてなかった、から……!」
小さき勇者は今度は女神になって恵みをもたらしてくれるらしい。
「今、開けてみても?」
当然、隣にいる南クンも「なんだなんだ?」と様子を伺っていた。
ちょっぴり顔を赤くしながらこくこくと頷き返す灯チャン。……大丈夫か?
丁寧にラッピングされているリボンをほどき、小箱の蓋を開けるとーーー
「……クッキー?」
「お、美味そうだな!」
高級の缶詰に入れられている有名なブランドのクッキーに負けず劣らずの見た目をしているクッキーがあらわれた!
お、美味しそう!!!
あれ、でもこれって……もしかして
「灯チャンの手作り?」
「!そ、そう……だよ……。あの、一応……食べられるもの、だけど……」
うわ、手作りお菓子をクラスメイトから貰えるなんて感動!
ひょいっと一枚手に持って口元に運ぶと朝、ふわりと届いた匂いに気が付く。
このクッキーの匂いだったのか!
さくさく……さくさく!!!
「美味しい!!!手作りなんだよね、凄い!!」
「へぇー、土屋の手作り。一枚、もらっても良いか?」
「う、うん……」
さんきゅー、と南クンの手が一枚のクッキーをさらっていった。
さくさくっと小気味よい音を立てながら咀嚼し飲み込むと感動を味わっているのだろう、目が満足げに細く至極ご満悦のようだ。
「うまい!なんだこれ、え、なんか面白い味?するけど、バターだけじゃないのか?」
そうそう、面白いってわけじゃないけれど不思議な味がする。
「えっと、ハーブ……あと、少しチーズも……」
ハーブクッキー!
オシャレな手作りお菓子を頂戴してしまった!
「ハーブクッキーか、あまり食った記憶がないけどこんなにうまいんだな!」
おおー……!
眩しい!できる男、南クンの素敵スマイルが眩しいよ!!
「あ。お家でハーブ栽培もしてるんだっけ!それでクッキー!ありがとね灯チャン!」
美味しい美味しい、と二人で(一枚だけ、と言っていたが結局は二人で仲良く分け合って食べてしまった)完食!
星……3つ、いや五つ星でっす!!!
美味しい美味しい!と南クンと満足していれば灯チャンは両手をまごまごさせていた。
おや?
もしかして、その傷は……
「灯チャンの手の傷って……もしかして、これだった?」
ラッピングの空間となった空き箱を指さしながら問いかけると「うっ」と躊躇いがちに頷いた。
ようやく納得!
何も分からないときよりも理由が分かった方がいろいろな意味で安心できた。
「そっか……ありがと。ほんとに美味しかった……灯チャンって魔法使いみたいだね」
つい、ぼそっと……だが隣接している席同士の二人にはしっかりと耳に届いていたみたい。
「おお!魔法使い!確かに!植物に詳しいし、美味いものも作るし、納得だぜ!」
魔法使い、少々単語が子供っぽいってからかわれるかと思ったけどそこは、できる男の包容力が勝ったようだ。
灯チャンも魔法使いと言われて恥ずかしそうにはしていたがまんざらでもない様子だったので笑みが浮かんだ。
ハーブクッキーのおかげだったのか……
友達からの手作りお菓子、という素敵なプレゼントのせいか……
美味しいものを一緒に分かち合う楽しさを知ったせいか……
このところ疲れていた心が安らいでいく気がした。
あー、ほんとに灯チャンは魔法使いなのかもしれない。
今日一日は、より良い一日になるような気がした。
ハーブクッキー、好みはあるようですが、体にも心にも良いようですよ!
私は先日とあるハーブティーを飲んだのですが、絶品でした!!
植物女子=ハーブにも詳しそう……と思っていただけたら幸いです。
灯チャンはお礼のつもりのプレゼントでしたが、はたして「お礼」だけの気持ちだったのでしょうか!?女子の心はまだまだ分からないところが多そうですね……。
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