第七話 緑属性たちが思う先には……
りょ、緑化委員……一年の、土屋灯……です!
転校生がやってきました。
その子は可愛くて明るくて人懐っこそうで、でも親しみやすそうで、そしてとっても恰好良い子だったんです!
緑化委員長の柊雅人だ。
世月に聞いたんだが「ワケあり」転校生らしい……が、実際はどうなんだ?普通……というか当たり前なことを堂々と当たり前にできてしまう凄いヤツだなぁ!
ただこういうヤツに限って無茶や無理をするもんだから……気を付けてほしいもんだ。
~土屋灯視点~
私のクラスに転校生がやってきた。
その子は最初は緊張していたらしいけれど、物凄く可愛い子で、スタイルも良い子だった。
活発そうなヘアスタイルに同性でもどきっとしてしまうようなスタイル。
あんまり下品な話は好きじゃないけれど、授業中でもこそこそと話している生徒たちの声はもっぱら転校生のことばかりだった。
「胸でかっっ!見たか!?」
「可愛い顔してたじゃん、一瞬モデルかと思ったし!」
「朝、生徒会長と一緒にいた子だよね?親戚かと思った!」
「尚先生にめっちゃ叩かれてたじゃん、痛そうー」
「どんなもの食べたらあんなスタイルになるのかしら?」
「めちゃくちゃダイエットとかしてたりして?」
授業中なのになんでそんなにお喋りできるんだろう……
幸いなことに転校生の耳には入っていないようだった。
席にくるとき、一瞬目が合いそうになったけど気のせい気のせい……
だって私の前髪は長い方だし……根暗だし……自分で言うのもなんだけど人付き合い苦手だし……植物のお世話ばかりしているから植物オタクと呼ばれるようになってきているし……
きっと転校生には植物とか興味ないんだろうな……
明るそうだし、ほんと私なんかとは真逆の人間っぽい……
せっかく真後ろの席になったからお喋りしてみたいけれど、隣の南くんみたいに上手く話しかけることなんてできない……
南くんは基本的に誰にでも優しい。
私にも話しかけてくれることはたまにあるけれど、それに上手く応えることができなくて会話が続かなくなってしまう……
だから友人らしい友人なんて……
私は花壇のお世話だけしていたい……
学校に来るのも花壇のお世話がしたいから
だから本当は授業も出たくない……
花は大好き。
きちんとお世話をすればするほどに綺麗に可愛く咲いてくれる。
私の、癒しの場所。
今日も今日とて放課後になった途端に花壇に向かった。
植物たちはとても繊細だから、毎日具合をみてお世話をしてあげなくちゃいけない……
緑化委員の仕事、っていうよりも私個人でしたいことの一つになっている。
たまに委員長の柊先輩も花壇のお世話をしてくれるけれど今日は来るのかな……?
と考えていれば転校生に話しかけられてしまった。
え、どうして……
転校生は明るい子たちと一緒に過ごして、一緒に帰るものだと思っていた。
何か私に話があるみたい……
もしかして席が近いのに何も授業のフォローとかしていなかったから怒られたりするの、かな……
私はあわてるばかりで、慣れない人とのやり取りに何を発していけば良いのか分からないままぼけっとしていたら急に転校生が速度を増して近くにやってきた。
え、殴られる……?
体が動かないーーー
そうしていれば何かがぶつかる音と地面にしゃがみ込んでしまった転校生が!
ここは運動部でもないけれど趣味程度にボール遊びをしている男子生徒たちがいる。
時々、花壇が荒らされていることがあるのはそのせい……
サッカーボールが……転校生にぶつかったんだ……!
ぶつかった場所は見ていないけれどさすがに心配で声をかけようとした瞬間だったーーー
「こんのノーコン野郎が!!」
「ここにある花壇は癒しの場所だ!毎日毎日手入れをしている彼女を傷付けるところだったんだぞ!?」
三年生の先輩に向かって大声を出しはじめた転校生ーーー佐久間裕理ちゃん。
ど、どうしよう……
もし先輩たちとの乱闘にでもなったら大変!!!
私は最後まで佐久間裕理ちゃんの言っていることを聞かずにその場から駆けていった。
向かう先は、同じ緑化委員で三年の……
「柊先輩!すぐに来てください!裕理ちゃんがサッカーボールにぶつかっちゃったんです!」
上級生への態度、礼儀なんてものは一切考える暇なんてなかった。
何があった?と困惑気味の先輩の強引に引っ張ってくるとーーー
幸いにも最悪の状況に、だけはならなかったみたい。
怪我……というか、額が赤らんでいるだけでいたって本人は大丈夫大丈夫と笑って応えてくれた。
心配しすぎか、と思ってしまったけれどせっかく可愛い顔をしているんだから傷が残ってしまったらもったいない。
一緒に来た柊先輩も悪い人じゃないからまずは転校生の具合を確認してからお礼を伝えてくれた。
そっか……佐久間裕理ちゃんは、守ってくれたんだよね……私と、花壇を。
嬉しかった。
花壇に興味を持ってくれたことも嬉しかったけれど、癒しの場所だと言ってくれたこと、お世話をしている私のことを守ってくれたことが。
そんなこと?
そんなことを、誰かしてくれただろうか?
今まで、守ったり、一緒に守ろうとしてくれたことが。
そんなこと無かった。
「佐久間、裕理ちゃんか……」
可愛いだけじゃない。
とっても恰好良い子が転校生として来てくれたことが嬉しかった。
彼女から植物のお世話の仕方も今度ゆっくり教えてあげたら喜んでくれるかな……
もっと植物のこと、勉強しなくちゃ……!
~柊雅人視点~
転校生という存在もなかなかこの学校にはやってこないから珍しいと思っていた。
たまたま近くにいた生徒会長の世月亜里沙に話を聞けば一年生らしい。俺だからこそっと話してくれたんだが、退学処分を受けたワケありらしいが……
ひょんなことから実際に会ってみることになったんだが、どこがワケありなんだ?
普通の女子。
ただボールがぶつかったらしい額が赤くなっているのは困ったがなぁ。
大丈夫大丈夫、と言うがこういうときは「大丈夫じゃない」って言うヤツはいないんだぞ?みんな平気な顔をして大丈夫って言うんだ。
世月は仲が良いみたいだから本当に何事もないのか後で連絡してみてくれ、と伝えた。
いや、しかし慌ててやってきた土屋にはびっくりしたなぁ。
土屋は大人しい代表生徒の鏡みたいなもんだ。
そいつが焦り、慌てて、息を切らし……
でも、土屋が普段から大切にしている花壇と土屋本人を身をもって守ったなんてなかなかタフだなぁ!
男子だって逃げたり、避けたりするのが普通だろう?
なかなか誰にでもできることじゃないことを当たり前にやってのけた転校生、か。
下級生だし、あまり構ってやれないかもしれないが、ちょっと面白そうな子だったなぁ……
だが、一年か……
う~ん
なかなか気軽に顔を出すわけにはいかないだろうなぁ……
三年の俺が気軽に顔を出せば一年の連中は必ず気を使わせてしまうだろう。
まぁ、どうやら植物のことは土屋に負けず劣らず好きなようだったし機会があればまた花壇でばったりでくわすこともあるかもしれない。
世月が言っていた「ワケあり」っていう意味も分かるかもしれないしな。
個人的にはあまり悪い方の意味でないことを祈るばかりだが……
残りの学生生活はどうやら早く過ぎていくことになるかもしれないなぁ!
緑化委員お二方のエピソードをお届けしました!!
ビビり土屋灯ちゃんはだいぶ好印象を抱いたのかも!?あれ、GLを狙っているのに、まさかまさかの委員長にも気に入られちゃったかしら!?
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