第六話 緑属性の攻略方法
私の声がばか大きかったせいだろうか。
完全に声をかけ方を間違えてしまったらしい。
さて、植物オタクの土屋サンとどのように交流をはかっていこうかしら……?
「ひぃぃぃ!!ち、近寄らないでくださいぃぃぃ!!!」
チワワか。
この子は、子犬属性なのかな?
ビビっている、その姿にとても申し訳なく思うのだけれど、とてつもなく可愛がりたい衝動が……
こ、こう……頭を撫でてあげたい!!
げふんげふん!
変な妄想している場合じゃなかった!
逃げちゃう!
チワワが……じゃなくて、土屋サンが逃げちゃう!!
なんかさっきよりも、どんどん私から遠ざかってない!?
「ま、待って待って!私!ほら、今日から来た転校生!」
ぴたり、と一瞬足が止まったかと思ったけれどまだがくがくぶるぶる震えてるし!
「そ、そんなこと……わかってますぅぅ!!」
「お願いだから逃げないで、話ができないじゃないの……私、貴女と話してみたくって……!」
ざわざわ……
そういえば放課後だったっけ。
私の声、大丈夫?
大きすぎて迷惑になってないかしら?
……迷惑になってるよね、現在進行形で土屋サンに。
外野はなにやら楽しそうだこと……
あらあらキャッチボールにサッカー?
綺麗な花壇が広がっているこんなところでやってないでグラウンドに行きなさいっての、まったく……って、アレは!?
まっっっっずぅぅぅ!!!
ガッッッッッ!!!!!!
気が付いたら、そう足が出てたってことよ。
しょうがないじゃないだって土屋サンは私に顔を向けているわけだから背後のことなんて分からないし、見えない。
だから、私がなんとかするしか……
急に速度をあげて近づいてきた私にさらにビビったらしい土屋サンはその場から動けなかったらしい。
うん、それ正解だった。
それにしてもーーー
「い、たたた……変なとこ、ぶつかった……サッカーボールって痛いんだなぁ」
コロコロコロ……
思わずしゃがみ込んでしまった私のそばには見事に私のおでこ辺りに命中したことで威力を失ったサッカーボール。
それからビビっているものの何が起きたのは分からず混乱している様子の土屋サン。
土屋サンは大丈夫だったかな?
土屋サンに声をかけたい。
だけど、今は無理。
今はーーー
「こんの、ノーコン野郎が!!どこに向かって蹴ってんだ!ここには花壇があるだろうが!!!」
片手にサッカーボールを乗せて立ち上がった私はブチ切れてしまった。
すぐにサッカーをしていたであろう野郎の集団が小走りに集まってくるがギロリと睨み返した。
「「「ひっっ!!!」」」
「……おい、ノーコン野郎ども。ここには何があるか分かってるのか…?」
自分でもびっくりするぐらいの低い声で野郎たちを睨みつけたまま問いかけた。
「……す、すんませ……」
「違う!ここには何があるか見えてるのかって聞いてんだ!」
「は?え、えーっと……花壇っすかね……?」
「そうだ!花壇だ!」
サッカーボールを持っていない方の手でビシッと綺麗に整われている花壇を指さした。
もちろんそのなかには土屋サンの存在も入ってるわけだけど……
「良いか!ここの花壇は、彼女が毎日毎日手入れをしてくれている癒しの場所だ!お前たちは、今それを壊すどころか……綺麗に手入れをしてくれている女子を傷付けるところだったんだぞ!?」
「「「すすす、すいませんでしたぁぁぁ!!!」」」
「もうここでサッカーなんかするんじゃねぇ!キャッチボールしてる奴らにもそう言っておけよ!」
そういうと一番手近なところにいた野郎にサッカーボールを押し付けて言ってやった。
……いや、まずい……かも?
今の野郎たちって何年生だった?
ネクタイは何色だった?
ワタシ今日からキタ転校生ヨ~。ってふざけてたらまずいんじゃ……。
ちらりと土屋サンのいる方へ顔を向ければ……
「い、いない!?」
やってしまったぁぁぁぁ!!!!
せっかく植物のことで仲良くなろうと思ったのに怯えさせて逃げられてしまったぁぁ!!!
がっくり……
さっきの野郎たちに顔見られた……こっちは必死すぎて顔なんて覚える余裕もなかったけど、あとになって制裁とかあるんじゃ……いやいや、そんな物騒な学校とは思えないし……。
途方に暮れつつ頭を抱えながらぶつぶつ「まずいまずい」と独り言を呟いていると
「こ、こっちです!!」
「おぉ、って……彼女が?」
ビビり植物オタクこと土屋サン再来!
が、もう一人……男子生徒?を連れてきたようだ。
え、何事がはじまっちゃうの!?
小柄な土屋サンとは反対に……背たっか!
ネクタイは亜里沙センパイと同じチェック柄をしているってことは三年!
え、なになにどゆこと!?
「おーい、大丈夫か?って額が赤くなってるな。痛むか?意識はあるか?」
「へ?あ、はい。大丈夫です、意識ありますよ」
そこは先に意識が先で痛みは次に聞くべきなのでは……?
「さ、さっき……飛んできたサッカーボールに当たって……しゃ、しゃがんでた、よね……?」
ぶるぶる震えた声ながらも私のことを気にしてくれているかもしれない様子の土屋サンにほんの少しばかり感動。
「サッカー?あー、そいつらには何となく覚えがある。怖い思いさせて悪かったなぁ……えーっと、転校生」
「さ、佐久間……ゆ、裕理ちゃん、です……」
そそ、佐久間裕理です。
さすがクラスメイト!
名前はばっちり憶えてもらっていた。
しかし、この背たっか男子パイセンはどこのどなたなのだろう?
もしかして土屋サンの……こ、ここ……っ!?
「恋人ですか!?」
「ち、ちちち、ちが……っ!」
「あはは!面白いことを言うなぁ!俺は三年で、一応緑化委員長をしている柊雅人だ。委員長といっても土屋にばかり働かせていて情けないんだが……っと、それより本当に大丈夫か?」
お二方の視線は私の額にまっしぐら。
確かに少々痛いが……別に我慢できないほどでもない。
「大丈夫大丈夫!ほんと大丈夫です!えっと柊センパイ?もそんな心配はいらないですって!」
「『センパイ大変なんです!裕理ちゃんがボールに当たって!!!』……って土屋が大慌てで駆け込んできたから大惨事になってるかと思ったんだが……あ、いや女子の顔を傷付けた時点で大事だよな……ほんとにすまなかった」
おそらく土屋サンの真似をしたのであろうが、まったく似てなくて(ビビり土屋サンの真似はそうとうスキルが必要だと思う)ぷっと小さく噴き出してしまったが改めて顔を横に振った。
「センパイは悪くないでしょう?それに当の本人たちには……一応注意をしておいたので……」
さっきブチぎれながら叫んでいた内容は果たして注意の範疇におさまるものだろうか?
でも、きっとこれでこれからもこの花壇たちの平穏は守られるだろう!
「注意?」
「さ、三年の先輩たち相手に……し、しっかり怒ってくれたんですっ!こ、ここでサッカーするな!って……」
「おぉ!凄いな。なかなかできることじゃないな、うん」
バッチリブチ切れていた様子は見られていたはずだが(土屋サンには)上手いことに柊パイセンという男は良い意味で感心しているらしい。
というか、少しどこか抜け気味?
穏やかというか、なんというか……
そう!我が家のママ!
ゆるふわ系のママのような感じがこの柊パイセンからするのだ。
男版のゆるふわ……お、穏やか、にしておこう。
ちりっとした痛みに袖口で額を触ってみれば血とかは出ていないし、それに花壇も土屋サンも何事もなくて良かった良かった!
「ほ、本当に……だ、大丈夫……?」
心配性なのかな?緑のお二方は。
「うん。ほんとにほんと。それに土屋サンや花壇に当たらなくて良かったよ~!もしも土屋サンや花壇に直撃していたらますますぶちぎれて喧嘩してたかもしれないしね!」
……あ。
「……喧嘩?」
っとと、危ない危ない。なんでもないです!と慌てて言葉を遮った。
「……んー、なら……こいつらを守ってくれてありがとな!佐久間」
ぽんぽん
背たっか柊パイセンの手が頭の上に!
しかも「ぽんぽん」って、は、恥ずかしくないのかな…?
なかなか体験したことがないから私はちょっとばかし恥ずかしいんですが……
「ど、どういたしまして……」
同じ委員会のしかも信頼しているであろう柊パイセンの登場もあり、不必要なまでにびびらなくなった土屋サンと改めてここに来た経緯を説明した。
どうやら『緑の庭園』というのは植物関連のお手入れ方法が記載されている本で愛読書の一つとのこと。そして同じく我が家でも花好きなママがいるから是非植物の育て方のコツを教えてほしいとお願いしてみればあっさりとOKをもらうことができた。
別に私が転校生だったからびびっていたというわけでもなく普段から人付き合いはあまり得意ではないらしく植物の世話をしているときが大好きらしい。
なんとこれまたびっくりな話を聞けたが、それは最初は緑化委員なんてものは存在していなかったという。少々荒れていた花壇の世話を土屋サンが一人でこなしていくうちに見事な花壇となり、たまたま居合わせた柊パイセンが委員長になるということで緑化委員ができたというのだ。
凄い話だ。
落ち着けばきちんと話をしてくれる土屋サンと柊パイセンに挨拶をして帰宅することに。
転校初日ということもあって、今日あったびっくりどっきりな話題でママとの会話は尽きなかった。
喧嘩には発展しなくて良かった良かった!
そして今回もニューフェイス登場!柊雅人パイセンです。あ、ちなみに呼ぶときには「センパイ」主人公ちゃんの心のなかでは「パイセン」決定みたいです。
GL作品を目指して頑張っていますが……今回、緑さんたちからの好感度は……!?
次回はビビり土屋サン視点の物語になります!
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