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第五話 緑の庭園

 転校生ってセンセーの声掛けがあってから入るもの?

 それとももう堂々と入ってて良いんだっけ?


 何が正解か分からないうちに担任の美影尚みかげなおセンセーの方からお声がかかった。

 た、助かったー!!


 よし、挨拶は練習通りに練習通りに……。


 仲良くなれそうなクラスメイトが見つかりますよーに!!!

「おーい、佐久間。いつまでもぼけーっとしていないで入って来なさいよ?」


 はっ!!!


 転校生のはじまり方をうんうんと考えていたら美影尚みかげなおセンセーの方から助け舟を出してくれた。

 ありがと、美影センセー!!

 この恩は、在学中に返せるように努めます!!!


「ははっ!なんだ、お前緊張してるのか?そう緊張しなくても大丈夫だぞ?」


 嬉しい、その言葉は嬉しいのですが、ね!?

 言いながらバシバシとかなりの強い力で背中を叩いてくるのはやめていただけないでしょうか!?

 これ、地味に痛いんですよ!


 美影センセーに背中を叩かれるたびに一歩また一歩と足が教室のなかに近づいていく。

 大丈夫!

 喧嘩していたときだってもっと堂々とした足運びができていたじゃないか!


 つい緊張で足元のバランスが崩れそうになるのを堪えて教室のなかへと無事に侵入成功!

 すると……


 じぃぃぃぃーーー


 一気に集まる生徒たちの視線!!!

 わ、分かってる!

 転校生がきたら見ちゃうよね、知らない顔が来たら見ちゃうものだよね!?

 それにしても集まり過ぎでしょ……誰か居眠りしてる生徒とかいないものなの!?


「おーい、みんな堅苦しい!ほら、佐久間も、挨拶!」


 美影センセーは定位置の教卓へ。

 そして私は教卓の隣に位置した。


 相変わらず静かな教室内に生徒なんて誰もいないんじゃないかと思ったけれど視線を前に向ければどこからともなく合いそうになる視線に表情筋が引きつりそうになる。


「は、初めまして!佐久間裕理さくまゆうりです、よろしくお願いしますっ!!!」


 亜里沙センパイに向けたモノよりも堅苦しく、さらに深々といった姿勢で挨拶をした。


「よぉーし、上出来上出来!佐久間の席は、あそこな?」


 美影センセーの癖なんだろうか、いちいち背中をバシバシ叩かないでください……そろそろ手跡が赤々と残ってしまいそうです。


 自分の席はーーー……


 お。

 窓際の最後尾。

 最高の位置だった。


 もちろん私の席の前、そして隣にも生徒はいたけれど窓際で最後尾の位置ってなんだかテンションあがるよね!


 緊張……は、まだ少ししているけれど挨拶を無事に言い終えたことによって余裕が生まれてきた。

 自分の席に向かうさなかでも途中の席の生徒たちに笑いながら小声で「よろしくね」と挨拶できるほどに。


 そして私の席の一つ手前にある席に座っている少々前髪が長めの女子生徒にも「よろしくね」と笑って声をかけたは良いものの、その子はびくりと肩を震わせてすぐに顔を机の上に向けてしまった。


 え。

 嫌われた?


 なんとなくだがその生徒の机のノートの端からちらりと見えた『緑の庭園』という文字が気になったものの今は大人しく席に着くことにした。

 うんうん、居眠りし放題……って違う違う、真面目に勉強ができる最高の席だね!


 私が席に着くと多少のざわめきが教室内にたちこめた。


 ざわざわ、ざわざわ……


「あの子って生徒会長と一緒にいた子だよね?」

「会長の身内?似てないけどなぁー」

「でも可愛い顔してるよね!」


 んんー……いやいや、ちょーっと私には相応しくない単語が聞こえてきたような気がするが無視だ無視。

 こういうのは決まってお世辞で言っていることがほとんどなのだ。

 うんうん。


 と、一人納得していると横から軽く手を振ってくる仕草が。


「よ。俺、南修吾みなみしゅうごよろしくな!取り敢えずお隣さん同士仲良くしていこうぜ」


 隣は南修吾クン、か。


 なんともフレンドリーに声をかけてくれるからには笑顔で応えなければ!


「よろしく!なにかあったら頼りますんで!!」


 ぶっちゃけクラス事情だとか授業内容は一切分からない。

 だからここはお言葉に甘えてめちゃくちゃ頼ることにしよう。

 幸いにも転校生に優しげな生徒で良かった良かった!


「お。それそれそのノリで!」


 他人受けが良さそうな笑みとともに応えてくれる南クン。

 前の席の女子とももう少し仲良くなってみたいものだけれど、まだ難しそうかな?『緑の庭園』がかなり気になってきたけど、それはもう少し慣れてからでも教えてもらうことにしよう。


 

 案の定、美影センセーの授業がはじまっても教科書は一応手元にはあるが内容に四苦八苦。

 それを自然と横からさりげなく手助けしてくれるのが南クンだった。

 南クンよ、実は……お主、できる男なのでは!?


 できる男こと南クンのフォローもあり、午後からはじまったいくつかの授業を乗り越えた私。

 良くやったぞー!!!


 放課後を迎えたことによる疲弊感にぐぃーーーっと腕を伸ばしていると「わはは!」と横から笑い声が。

 それが嫌味たっぷりの笑い方だったらムカッとしていたかもしれないが、その笑い声をあげている人物は、できる男こと南クンだろう。


「お疲れさん。転校初日の感想は?」

「んー、お隣さんのおかげで特に苦労することは無かったかな」


 お?と一瞬不思議そうな顔をされてしまったがそれが自分のことを示しているのだと理解したらしい南クンはけらけらとおかしそうに笑った。


 出来れば授業と授業の合間の時間、もしくは今のような放課後の時間を使って他の生徒とも交流をはかりたいと考えていたもののなかなか難しそうだ。

 転校生ともなると休憩時間になれば質問攻めになるのでは!?

 ……私の考えすぎだったみたい。


 前の席の女子生徒だって放課後になった途端に席をたち、足早に教室を出ていってしまった。

 急ぎの用事でもあったんだろうか?

 残念……


「えーっと、佐久間……佐久間さんは部活とかどうすんの?」

「佐久間、で良いよ。ラクに呼んで呼んで」


 んじゃ、佐久間な。

 最初から呼び捨てではなく一応は気を使ってくれる言動に、やはりできる男だ!と感動しつつ和やかに応えた。


「部活って強制?」

「いいや、帰宅部もありあり。俺も帰宅部だし。んー、このクラスでも部活やってるヤツ、帰宅部、んで少しだけ委員会の仕事に明け暮れてるヤツがいるかな」

「え、委員会って強制じゃないの?」

「違う違う。生徒会とかは先輩からのご指名がかかるけど他は自主的にそれぞれの活動してるって感じだな。ほら、前の席の土屋つちやも数少ない緑化委員の一人」


 なんだと!?


「緑化委員!それって仕事みたいなものは毎日してるのかな?」

「え、さ、さぁ……ただ土屋は植物オタクみたいなところがあるからほとんど毎日何かしら活動してるんじゃ……って、もう帰るのか?」

「うん、また明日ね!」


 緑化委員の活動!

 それって外の花壇とかのお手入れもあるんだよね、たしか!

 ましてや植物たちのお世話は毎日やらないと!

 だったら急げばまだ会えるかも!!!


 善は急げ、もとい『緑の庭園』の持ち主とお近づきになれるチャンス!


 植物オタク?

 最高じゃないの!!



 私が急いで席とたったことによって南クンは多少残念そうにしていたものの軽く手を振って「ばいばい」をして教室から出ていった。

 もうだいぶ教室にも残っている生徒は少なかった。

 廊下にも。

 みんなそれぞれの予定に忙しそうなのね……。



 足早に向かうは校舎の周りに存在している花壇たち。


 目標接近!

 いや、むしろこちらから接近しているのだけれど……良かった、やっぱりいた!


 えーっと、名前名前……


「つ、土屋サン!!!」


「!?ひぃぃぃ!」



 私としては大きな声になってしまったものの決して相手をビビらせるために発したわけじゃない。

 それでも、いきなり小走りしてきた不審人物に名前を呼ばれては……


「な、なな、なにか……用、ですか!?」


 せっかく穏やかに花壇の手入れをしていたであろう小柄な女子生徒は片手にシャベルを持ちながらじりじりと後ずさりしていった。


 か、完璧にビビらせてしまったらしい!!!

 ニューフェイス登場!!!

 できる男こと南クンと植物オタクの土屋サン!!!

 転校生の席は後ろ側が理想で……と考えたときに窓際の席に憧れがあったのでそこで。でも窓際って大変らしいですね(汗)


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