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第一話 佐久間裕理の憂鬱な日常

 少々、喧嘩っぱやいところがある佐久間裕理さくまゆうり

 ただ、喧嘩をするにも理由があった。だが、ある日学校を退学処分させられてしまうことに!これからは新たな学校生活でより良きJK生活を送っていくぞ!

 ドカッ!!!


「ぐぇ……っ」

「こ、この……っ!!」


 顔はなるべく避けた。

 それでも腹や足元を狙えば簡単に相手の方から倒れてくれる。


「だらしねぇなぁ!お前ら、男のくせに!」


 私は何事もなかったかのように呆れながら腰に両手を置いて見下げた。

 さっきまで相手をしていた二人の男たちはだらしなく上を向いて信じられないと言わんばかりに顔をゆがめている。

 

 おいおい、まさか泣くのか?

 ちょっと腹殴って蹴り入れてやっただけなのに?


「え、わ、悪かった!私が悪かったって!ほ、ほらこの通り!」


 同い年の女の前で泣きそうになる男ってのもどうかと思うが、目の前で泣かれでもしたらそれはそれで居心地が悪い。

 だから、両手を今度は顔の前にもってきて手のひら同士を合わせて「ごめんね」という仕草をした。


「……く、くっそ……お前なんか、お前なんかにぃぃぃぃ!!!」


 げ!!!

 いや、男がしくしく……と泣くなんて思わなかったけれど、まさかの悔しがりながらの大号泣をはじめやがった。

 漫画とかで「うわぁぁぁぁん!!」とかって描かれる感じのヤツだ。


 しかもそれを目の前で×2……。

 付き合ってらんねぇ……。


 私は心底呆れてため息を吐きながらくるりと男たちに背を向けて歩き出した。

 途中、道の端に置いていたカバンを忘れることなく肩にかけて……。





 私は佐久間裕理さくまゆうり高校一年生。

 れっきとした女子高校生だ!


 ただ、小さい頃から少々やんちゃだったせいもあるのか、同い年ぐらいかちょっと年上の男子と喧嘩になったとしても今まで負けたためしがなかった。

 まず男の前で泣いたことがない!

 最近は草食系男子っていうのも増えているから喧嘩ができない男が増えているのか?


 と、頓珍漢なことを考えつついつもよりも遅くなってしまった家に到着。


「……ただいまー」

「あ、お帰りなさい!裕理ちゃん!」


 一応、説明はさせてほしい。

 高校生を未だにチャン付けで呼んでくるのは、正真正銘私の母親だ。


 見た目は……めちゃくちゃ若々しい。

 ゆるふわ系っていうのかな?そうそうまさに私の母親がそれに当てはまる。

 たぶん、ドンピシャ。


 この母親から私のような娘が生まれてきてしまっているなんて……と思われるかもしれない。

 が、私だって理由も無しに喧嘩をしたことはない。

 そこに喧嘩をする理由があったから喧嘩をしてきてしまったのだ。


 小さい頃。

 多少、まわりの子たちと喧嘩をしたって「まぁまぁ、子どもなんだから……」と軽く流してくれる大人だけなら良かった。

 最近の保護者のなかには、蛇のようにネチネチと文句をつけてくる親だっていた。

「お宅の娘さんがウチの子に手をあげたのよ?!どういう教育しているの!!」

「このたびは本当に申し訳ありませんでした……」

「な、なんでママが謝るの!だってアイツ……」

「まぁ!謝罪もできないの?!なんっって子なのかしら!!」

 

 それからしばらくは母親が顔をあげることはなかった。

 私の横でずっと謝罪し続けていたのだ。


 その帰り道のことだった。


 相手方の家にまで出向いて謝罪し続け、頭を下げっぱなしだったというのに、もうなんともないという顔をしながら自宅へと一緒に向かっていた帰路での話し。


「ねぇ、ママ。アイツね?他の子をイジメてたんだよ?だから言ってもやめなかったから……」

「分かってるわよ?裕理ちゃんが何の理由も無しに喧嘩なんてしないでしょ?でも、ね……。これからはなるべくこの手は喧嘩をするためじゃなくて、人を守る手にしてちょうだい?こんなに可愛い手なんだもの。喧嘩で傷つけちゃうなんて勿体ないわよ?すぐにできなくても良いの。少しずつで良いから……ね?ママとの約束よ」


 繋いでいた手を一度離すと、お互いの小指を絡めた。

 ゆるふわ系の母といっても私のことは見抜いている素晴らしき母親だ。

 これからの長い人生、この母親には勝てないだろう……と幼い心に思ったものだった。


 だが、残念なことに私の喧嘩っぱやさが直ることは今のところ見られない。

 もちろん目が合った奴らに片っ端から喧嘩を吹っ掛けるなんて昔のヤンキーみたいなことはしないけれど……。

 しつこい嫌がらせをされている人を見つけたら。

 困っている人に追い打ちをかけるような悪さをしている奴らを見つけたら。


 とにかく、私は見て見ぬふりができないたちらしい。


 もちろん口の方でも負けない。

 それは母親の影響とはまったく異なる人物のせいで……と言っておく。


 そして、今の時間帯だと我が家にいるであろう私に影響を与えた一人……。

 超個性的な人間がいるはずだ。


「……なんだ、また喧嘩してきたのか。サルめ」

「なんだって?!喧嘩してきたかどうかなんてなんで分かるんだよ!」

「そうやってムキになってる時点で分かるだろうが。あと、「ただいま、お兄ちゃん」は?」

「……た、ただいま……お兄ちゃん……」


 二階の自分の部屋からやってきたであろう、この眼鏡をかけた超インテリ系は私の七歳年上の兄貴。

 この数回の会話のやり取りで分かったと思うが口が悪い。

 あと、シスコン……だと思う。

 見た目インテリ系っていうのは間違いない。

 今は、大学で学生をしながらどこぞの教授に目をかけられて助教の手伝いもさせられているとかなんとか……。

 黙っていたらインテリ系の……まぁまぁイけてる側の男だと思う。

 家族とか妹っていう贔屓目無しにみたとしても決して悪くはなさそうだ。


 だが、口の悪さは家族一だ。


 私の口が悪くなってしまったのは確実に兄貴の影響が強いだろう。


 でも、兄妹の仲も悪いというわけではない。

 私が宿題やテスト前で躓いていると勉強の悩みを打ち明けていないにも関わらずふらりと姿をみせては適格な指示と勉強方法を私に教えてくれた。

 私が満足に勉強ができるのも兄貴の存在が大きい。


 だから感謝はしているのだ、感謝は。


「あら、また喧嘩しちゃったの~?今日は何があったの?」

「最初は無視してたんだけど、無理に腕引っ張って行こうとしたから軽く殴って蹴ってやった」

「……まさか、ナンパか?拉致か?」

「裕理ちゃんも女子高生だもの!可愛いんだから気を付けなきゃだめよ~?」

「再起不能にさせてやったか?」


 母と兄の会話のレベル……というか種が違いすぎてどちらに応えるべきか分からなくなってしまった。

 うん、大丈夫。

 しばらく私が口を挟まなくても二人で会話は成り立っていくはずだ。 



 ほとんど毎日のようにどこかで絡まれて、そして喧嘩に発展して……。

 そして最後には私が勝って終わり。


 私、何かに憑かれているんじゃないかと考えた時期もあった。

 だが、どんなに対策を考えたとしても無理だ。


 トラブルに巻き込まれやすい体質の人間がいるように、自らトラブルに飛び込んでいってしまう人間だって世の中にはいるのだ。


 今のところ大きな喧嘩(相手が危なっかしいブツを所持しているなど)をしたことがないから私に怪我は無いし、住んでいるところに怪しげな不良とか力のあるヤのつく職業の人がいるという噂も聞いたことはないから大丈夫だとは思う。

 ただ、もう少し自分でも静かな女子高校生生活をおくってみたいな、とは考えてしまうのだ。


 もっとも普通の女子高校生ってどんなふうに過ごすのか私には分からないんだけれどね。


 楽しい楽しい女子高校生時代というものは三年しかないのだ。


 帰り道、買い食いなんかをしてみたり……食べるなら絶対クレープだな!

 一緒にカラオケ行ってみたり……歌うならロックだろ!

 一緒に服を買って、休日には一緒にコーデを合わせてみたり……してみたいと考えてはいるのだ。


 ただ、そんな私の夢に付き合ってくれる友人が今いないということが大問題。


「あの子、また喧嘩したらしいよ」

「一緒にいたら不良になっちゃう……関わらない方が良いよ」



 学校ではほぼ、孤立状態の私。

 いやいや、私、基本的には無害ですから。

 基本的に人畜無害な女子高校生には手を出したりしません!


 しくしく……なんとも寂しい学生生活なのだ。




 今日は珍しいことに学校でも自宅までの帰り道のなかでもトラブルに見舞われることがなかった。

 こんな日もあるんだなぁ、と自分でも不思議がりながら帰宅した……あとが大変な騒ぎになってしまった。


「ただいま~」

「お帰りなさい、裕理ちゃん!今日は珍しくパパが帰ってるわよ~!」

「……へ?」


「あぁ、お帰り裕理。ちょっと話があるからこっちにおいで」


 超インテリ系の兄がダンディに歳をとったらこんなふうになるのでは……と思うほど顔立ちが良い父親。

 確か親戚関係の付き合いで父方の兄弟やら私からすれば祖父母にあたる人物と顔を合わせたことがあるが血筋は嘘はつかないのだな、と納得した覚えがある。

 その父親の職業というのは……


「裕理ちゃん忙しくなるわね~!急いで支度しないと!ここから通える距離で良かったわねぇ~!」

「え?は?な、なんのこと?」

「あらやだ、パパったら裕理ちゃんに説明したんじゃなかったの~?」

「これから説明をするんだ」


 母のようにふわふわしているわけでもなく、兄のように妹溺愛というわけでも……ない。

 一般的に家庭を守る父親という存在だ。


 ただビックリしてしまうのが、その職業。


「パパ、裕理ちゃんに話って?」

「あぁ、教育委員会のほうに裕理の喧嘩の苦情が絶え間なくてな……親御さんのなかには同じ学校にいさせないでほしい、とまで訴えている人もいるらしい」


 は?

 教育委員会って……そこまで話があがってる?!

 なんで?!


「学校の教頭や校長とも軽く話をしてきたんだが、なかなかに難しそうでね……喧嘩の被害に遭った学生の親のなかには裁判を起こしたいと考えている人もいるそうだ。幸い私のところには話は持ち込まれていないがね」


 世の仲の困ったことでお悩みの皆さん、大きなトラブルに発展する前に是非父にご連絡を!


 父は困った人の味方……弁護士という職業に就いている。


「だから裕理。今の学校は実質上退学処分ということにしておいた。新しい学校も決めてある。共学で男女の比率は半々といったところだな。現生徒会長は女子生徒が担っているというから女子生徒が男子生徒に虐げられているということもない。ごくごく普通の学校と校舎、だったよ」


「……退学……?」


 別に今の学校生活に心残りがあったわけじゃない。

 特別親しい間柄の友人がいたわけじゃない。

 それでも数か月間過ごした学生生活がこれから一変するというのだから頭が追い付かなかった。


「校長、教頭、それからクラス担任となる予定の教師とも既に話はつけてある。裕理が多少トラブルに巻き込まれやすいと説明しても特に気にする様子もなかった。良いか、裕理。環境をがらりと変えてみるのも良い機会だと思うよ」


 ぽた、ぽたた……。


「裕理ちゃ……!」

「裕理のことを理解してくれる、裕理の友人になってくれる人と今まで出会う機会が無かっただけだ。それをこれから通う学校で見つけていけば良いんだよ」


 ぽた、ぽた……。


 おかしい。


 視界が滲んでる。

 目頭が熱い。

 そして、なんだこれは……?

 頬が、濡れてる?

 拭いても拭いても次から次へと濡れていくのはなんでだ?


 何度も何度も頬を拭いていたら母が両腕をいっぱい広げて私の体を抱きしめてくれた。

 母の鼓動がすぐ近くに聞こえる。

 じゃっかん母の腕が震えているように感じるのは気のせいだろうか?


 喧嘩をしても、例え理不尽に叱られることがあっても、今まで泣いた記憶は無い。

 泣くのは喧嘩に負けた側。

 つまり喧嘩が弱い奴らだったはずだ。


 私は喧嘩は強い、はずなのに。

 しばらくの間、私の目から涙が止まることはなかった。



 数時間後、帰宅してきた兄に真っ赤になった私の目元を見られて父vs兄という喧嘩に発展するんじゃないかとひやひやしていたものの私の寂しい学生生活を把握していた様子の兄は新しい学校で過ごすという期待、新たな人間関係を築いていけるチャンスという期待を抱いて、父が勝手に手続きをしていた退学と転入に関しての文句が飛び出てくることはなかった。

 さすが、父。



「ねぇ、裕理ちゃん。今までの学校の私物はどうするの?」

「んー、特に必要無いから捨てちゃうよ。近々行ったらゴミ捨て場に置いてくる」

 

 転校する日付まで余裕があった私は、一日のほとんどを家のなかでだらだらと過ごしていた。

 だけどずっと自分の部屋のなかで引きこもりになっていたわけじゃない。

 時には母の仕事の手伝いをし(母は専業主婦。得意なものは料理だ)最近は、早めに帰宅することが多くなったような兄貴と過ごす時間を大切にしていた。


 もちろん転校した先で勉強に取り残されてしまうことがないように、と兄貴特製の学習プリントで毎日の勉強も忘れずに。


 転校するまでは自分が通うはずの学校がどんな校舎なのか全く情報が無かったから試しにインターネットのお力を借りてみることに。

 するとデカデカと情報が掲載されていた。

 今の学校におけるお偉いさんたち(校長とか教頭とか)さらには現生徒会長の写真も掲載されていて学生生活における目標や学校の伝統といった説明文は生徒会長が掲載されているページで把握することができた。


 というか、生徒会長……美人!

 眼鏡をかけているから兄のようにザ・インテリ系かな?と思うが柔和に微笑んでいる写真からは優しさ、女神のような気品を感じられた。


「転校したら生徒会長と話す機会とかってあるのかな?」


 さすがに一年と三年では対面で話す機会は皆無だろう。

 なにか特別な席でも設けないかぎりは。



 放課後、帰宅部の生徒たちが帰宅する頃合いを見計らって退学処分を受けた(父が勝手に退学処分という形でこの学校の生徒の身分を取り上げた)学校に戻り、教室に残っていた私物は全てゴミ捨て場行きとした。

 残っているといっても学校で使っていた教科書やノートの類と学校指定の体育ジャージや上履きぐらいだったが……。


 たいした思い出らしい思い出なんか無い。

 無い、が……もう二度とこの校舎には来られないのだと思うとほんの少しばかり寂しさのようなものを感じた。


 さあ、来週の頭からは新しい学校生活がはじまる!


 今度こそ、私にも友人を!

 信頼できる教師を!


 どんな生徒や教師が待っているのか、今の私には楽しみで仕方なかった。

 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 月森Ma_yaと申します。

 学園モノ、そしてGLに発展させていきたいものを!(今回の話だけではGLの要素らしい要素がまったくありませんが……)と考えたときに出会いの形もそれぞれ考えてみたいということで転校生設定を考えてみました。

 これからどんな人との出会いが待ち受けているのか……どうかお楽しみください!


 もしもGL作品に興味、もしくは今回の作品に少しでも面白さや感動することがありましたら、ブックマークと評価をしていただけますとますます気合いが入ります!

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