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雑血共の血闘書  作者: 怒羽 米
0.プロローグ
4/4

ジュナ.人間の目覚め

受験終わったぞー!

 …~~~~!~~~~!」


 ほんのりと赤い世界が広がる中、ヒトが最初に感じたのはけたたましい鳴き声だった。


「~~~~~~~~~~、~~~…?」

「~~~~。~~~~~~~~~~~~~…」




「ぅぅぅ………、ハッ!…」


 身震いと同時に視界を覆う闇が一気に(ひら)ける。


「…」

 またあの夢だ。

_____________________________


 劣化し始め、開閉するたびに乾いた音を鳴らす木扉を抜けた先にあるのは私の寝室に隣接した化粧室。多くの化粧品があるが、お母さんのお友達から貰ったものを飾っているだけで実際は3つ程しか使わない。

 

 洗面台の蛇口を(ひね)り冷水で顔を流す。

 

「ふぅ…」


 顔を上げると、鏡にはいつも通り淡い灰色のぼさぼさ頭、薄色碧眼の少女…私が写っていた。

 



 





「よし…!」

 

 肌のケアを済ませ、昨日整えてもらったショートボブも完璧。それと今日から()()はアイデンティティ…アイデンティティ…


_______________________________________________


 顔を流すのも良いけど、完全に目を覚ますには軽く走るのが一番だ。とはいえ、外だと山から魔獣が下りてくる事もあるし、うちに中庭があってよかった。


「やっと見つけた~おはよう~」

「あ、おはようお姉ちゃん。」


 

 私とお姉ちゃんはお母さんに似て髪の色素が薄い。今日はなんて言う髪型なんだろ。


「朝食作る時間だって、、、お〜?今日は()()()()()隠さないの~?コンプレックスとか言ってたのに~」

「これは今日から私のアイデンティティにしたの!家族の中で一人だけ()()()()()があるなんて変かもしれないけど!」

「ふ~んそうなんだ~まぁ前から可愛いと思ってたしジュナがいいならいいんじゃないかな~」

「お姉ちゃん…」


 そう思ってたなら早く言ってくれればよかったのに~///


「…ジュナ〜やっぱり~ずっと中庭で運動してたら、空から魔獣が来るかもよ~?」

「いつも言ってるけど大丈夫だよ…だって上には金網が張ってあるんだからね!」

「本当に大丈夫なのかしらね~まぁお母さんも待ってるし行こっか~」

「うん!」


____________________


 へぇーツーサイドアップって言うんだ…ってまずい!ゆっくり話し過ぎた!

 お姉ちゃんに髪型の名前を教えてもらいながら厨房に入るとお母さんが不機嫌な顔で朝食の支度を進めていた。


「おはようジュナ…ちょっと遅くないかしら?」

「おはようお母さん…お姉ちゃんとつい話し込んじゃって……ごめんなさい」

「そんなかしこまらなくていいわよ!とにかく約束と時間はちゃんと守るのよ?ミーナも!」


「はい…」「は~い」


_____________________


 出来た料理を持ってお母さんについていくと、既にお父さんがテーブルに座っていた。いつもボサボサの茶色いヒゲは丁寧に整えてある。

「朝ご飯できたわよー」

「おっ今日は随分と遅かったけど…っ!この匂いは!」

「朝も寒くなってきたので、今日はあなたお気に入りのボルシチにしてみました♪」

「冬、いや冬様、本当にありがとうございます…」

「感謝するなら私とジュナとミーナにして下さい!」

「2人も手伝ったの!?いやぁ嬉しいなぁ娘達の手料理を食べられるなんてお父さんは幸せ者だなぁ…」


 あ、やっと話回ってきた。


「明日の為に練習してたんだぁ〜」

「明日はお兄ちゃんが士官学校から帰ってくるんだよ?妹の成長も見せないとね!」



「それでは頂きましょうか」


 パクッ…モグモグモグ…


「トマトの酸味に中にほんのりとビーツの甘味が感じられて……うぅ…この味をこっちに待ってきてくれてありがとう…モグモグ…」

「あなたはいつも大袈裟ねぇ…でも、ビーツを作る為に農家になるなんて思わなかったわ…」

「ゴクン! 何を言っているんだい!?こんな美味しい料理になる作物を作らない訳無いじゃないか!僕は退役するまで君の家のボルシチを忘れた事は無かったんだからね!それに軍生活で培ったこの肉体を維持するのにピッタリじゃないか!」

「ふふふ…そうね。熱弁するのはいいけど早く食べないとタクシーが着いちゃうわよ?」


「お姉ちゃんそのペースで食べてると準備する時間なくなっちゃうよ!」

「だって〜これでもいつもより早いじゃない〜」


 確かにそうだけど…


______________________________


「お姉ちゃん頑張って!あと少し!」

「頑張ってミーナ!…って!そんな所で寝ないで頂戴!」






「今年も賑やかですねぇ」

「ああ…だけどシキニアさん、今年は息子が帰って来るから帰りはもっと賑やかになるよ!毎年お世話になっていたが、それも今日と明日で終わりか…今年もボスコリケ駅まで頼むよ!」

「ええ…それでは、お嬢様方が乗り次第出発といたしましょう。」


________________________________


 朝の騒ぎで皆疲れたのか、ほんのりと蒸気の臭いが漂うタクシー内はひと時の静寂に包まれている。窓から私達の町・ボスコリケの木々や川を眺めていると、さっきまで感じていたタクシーの揺れが急におさまった。土の道から平らな石畳の道に変わったんだ。


お父さんが腕時計を覗く。


「みんな…!今年は汽車に間に合うかも知れないよ!」


_____________________________


「ハァ…今年はなんとか時間通り…汽車に乗れたわね…」

「お姉ちゃんが時間通りに支度したなんて言ったらお兄ちゃんどんな顔するかな?」

「失礼ね〜お姉ちゃんの事を何だと思ってるの〜?」

 

 いつもはおっとりしてるけど、本気を出せば何でもできる人…かな?



「薄暗いし、降りる時になったらミーナは忘れ物が無いか10回は確認するんだよ!」


_____________________


「今年は早く着いたー!」


ワシントン Final Defence Capital.…一年前と変わってない…F.D.C.(最終防衛首都)の名の通り街を囲む15mの壁、おしゃれな物が沢山ある雑貨屋さん!黒煙を吐きながら走るタクシー達!


「今から僕とお母さんでエデメルを迎えに言って来るよ。帰ってきたら好きなお店で二人に何か買ってあげよう」


「ほんとに!?」「ありがとうお父さん〜」


「帰って来るまでに選んでおくんだよ。勿論、エデメルへのお祝いもね!」


_____________________


 これ、良いな


 初めて入る雑貨店の調理器具コーナーに置かれていたのは、刃渡り20cm程のシェフナイフ


 少し重いけど、丈夫そう。取り敢えず私のは決まった。お兄ちゃん何をあげたら喜ぶかな?



 もうすぐ成人するしお酒…?養成所じゃおしゃれなんか出来なかっただろうし服なんかもありかな……


 何にしようか迷いに迷いながら店内をウロウロしていると一つの商品に目が留まった。『あなたのひと手間で宿る大切な願い』というキャッチフレーズと共に、ブドウ一粒程の赤い宝石が付いたペンダントがショーケースに収められている。商品名は『カーマインペティション』。


 

 なんだろう…すごく引き込まれるような……


「あっ」「ひゃっ」


 誰かと手がぶつかった…?

 

 …いつの間にか商品に手を伸ばしていたようだ。横へ目をやると私と同じ歳位の女の子が少し驚いた表情をして私を見ている。


「あっ…えっと…ごめんなさい。そのペンダントに見とれてしまって…」

「こちらこそ驚いてすみませんでした……私もこういうの好きです。」


 この辺に住んでいるのだろう。少し癖の付いたブロンド髪を肩にかける彼女は小洒落たエプロンをつけている。なんか所々大人びてていいなぁー


「誰かへの贈り物ですか?」

「はい!おに…兄に!」

「私もお世話になってる人に贈ろうとこの辺りを周っていたところです♪もう目星は付きました?」

「私はこれにしようかな…って」

 

 目の前のペンダントを指しながらながら言った。


「やっぱり!丁度私もそれに決めたところだったの!…えっと…ごめんなさい…」

「大丈夫だよ。私と同じだったって安心したから♪」

「フフッ…バレたかー」


______________________


「お支払いはこちらで~す…おっエシューク!隣の子は新しい友達かい?」

「うん!」

「ジュナって言います!」


「かわいい友達じゃないか。お揃いのペンダントと…ジュナちゃんはシェフナイフもだね。」

「私はもうすぐ父が来るのでその時に。」

「オッケー。にしても二人共いいもん選んだねぇ。」

「なんかすごいペンダントなの?これ。」


「これはねぇ…買った人の願いが叶うようにおじさんの(LOVE)パワーが込められているんだ!」


「うえーきもちわるー」

「ハハハ…」


「それにもうその分しかないんだ。チェーン部分は俺が作ったんだけど、宝石の方は収集癖のある知り合いに貰ってね?そいつ兵士でさ、任務中に海岸で拾ったらしい。」


「ふーん。じゃあこれでお願い!」

「まいど〜」






「じゃあジュナ、またね!」

「また、またいつか!エシューク!」


_____________________________


「ジュナ、跳ね毛の事気にする素振りも無いわね…本当に楽しそう…」

「もう言っても良いのかもしれないね…」


「父さん、母さん、どうしたんだ!そんなところで立ち止まって!」

「「シー!!」」


「ごめん…声が大きかったね…どうしたんだい?」


「ジュナが同じくらいの女の子と楽しそうに話してるの…♪エデメル、あれが成長した妹よ♪」

魔獣の身体的特徴に関するレポート(最新版)


 人類は過去400年以上、彼方より訪れし侵略者に存続を(おびや)かされる歴史を歩んできた。その者等の名は、魔獣。魔獣侵略以前より自然界で確認されてきた種とは似て非なる存在である。外見はネコやブタ、シカなどの既存種(以降これら通常の生物を一般種とする)に酷似しているが、多くの場合、肉食性で極めて獰猛である。また同形態の一般種と比べ、様々な器官、特に狩猟器官が発達している。そして特筆すべきは異常な再生能力と生殖方法である。まず異常な再生能力についてだが、魔獣は体の一部を欠損したり何らかの理由で傷が塞がらなかったりしない限り傷を修復する事が出来、欠損した体の一部も、失った体積に見合う魔獣由来の成分を摂取する事で再生することが可能。しかし消化器官が大きく損傷、欠損するなどして食物を消化吸収できない状況に陥った場合や、脳、心臓、脊椎などの重要器官を大きく損傷した場合にのみ再生は止まるようだ。そして生殖方法についてだが、基本的に雌雄で行われていると思われる。しかし、つがいの形態が全く異なる場合でも生殖行動を行うことが可能であり、そのため、魔獣が持つ形質は多種多様である。幼体の体長や体重は母体のそれに依存する。彼らの生態や特性には未解明な点が多く、その全貌は未だ不明である。





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