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”私にはもう心に決めた殿方がいますので”

「おお、その通りだ。この頃のあの成り上がり者の振る舞いにはさすがに目に余る所があるとは思わんか?たかが幸運に恵まれただけの卑しい生まれの娘が、恐れ多くもこのままでは皇太女となる未来すら見えて来ている」


 フライリヒート公爵が我が意を得たりとばかりに言葉を並べて来る。

 ……ああ、予想通りと言うか前世通りの思考をしてくれていて何だか逆に安心してしまう。


「だから彼女を止めるために両家で手を組まないか、と」


「うむ。我がフライリヒート公爵家とマールバッハ公爵家は共に帝国でも名門中の名門。さらにパッツドルフ侯爵を始めとした軍内の名門貴族達も味方としている。我らが力を合わせればあの娘を排除し、より相応しい者を帝位に就けるのは容易い事であろう」


「そんな大切なお話、お父様ではなく私が相手でよろしかったのでしょうか?」


「今マールバッハ公爵家を実質的に取り仕切っているのは君だろう。帝国の貴族でそれを知らぬ者はいない」


「賞賛として受け取っておきますよ」


 私はニコリと微笑みながら答えた……何だかこの辺りの立ち回りはティーネから学んだ気がする。


「この頃、マールバッハ公爵令嬢はエーベルス伯と誼を通じている、などと言う噂も聞いた事があるが、しかし栄えある帝国貴族の一人として当然いつまでもあんな娘の下に就くつもりはあるまい?」


 そう言うフライリヒート公爵の声には期待と不安と猜疑心が入り混じっている。


「ですがフライリヒート公爵。より相応しい者が帝位に就く、と言っても帝位は一つしか存在しません。それは分かっておられますか?」


 私はそう訊ね返した。


「うむ。しかし今はエーベルス伯のこれ以上の増長を止める事が先決では無いか?」


「その考えは危険でしょう。我々がエーベルス伯に勝利した時、どちらの家の者が帝位に就くか。事前にそれをはっきりと決めておかなければ、同盟に不和が生じる事になります。そしてあの忌々しい女は必ずその隙を突いて来る事でしょう」


「むむ」


「ここは互いに言葉を飾るのはやめましょう、公爵。フライリヒート公爵家には私が皇太女となるために全力の支援をして頂く。その代わり、私が帝位に就いた後にはフライリヒート公爵家から相応しい者を後継者に指名する、と言うのはどうでしょうか?」


 フライリヒート公爵は考える顔をした。


 さすがに長らく大貴族の当主として陰謀渦巻く界隈を渡って来ただけあって、こんないざとなったらあっさり反故にされそうな条件にすぐ乗ってくる事は無かった。

 でも現状では全く功績も軍内の地位も無いクレスツェンナはティーネにはもちろん、私と比べても帝位継承レースで劣勢過ぎる。


 後々の事はともかくとしても、ここは一時的にでもマールバッハ公爵家の風下に立つ事を肯ずるしか無いと言うのは恐らく理解しているだろう。


「……それに関しては、文書の形で誓約してもらえるのだろうな?」


 フライリヒート公爵がこちらを探るような目で見て来る。


「空手形は切れませんから、全ては私が帝位に就いた後で、と言うのが前提になりますが、それで良ければ」


 私が帝位に就く時がくればね!(就く気があるとは言っていない)


「うむ……」


 フライリヒート公爵が曖昧に頷く。その眼から猜疑心の色は当然ながら消えていない。


「では公爵令嬢、保証と言う訳では無いが、両家の末永い友好のために婚姻などはどうかな。公爵令嬢ももう一八。将来のために相応しい婿を迎えても良いと思うのだが」


「……」


 まあ、そう来るわな。


 フライリヒート公爵としてはこれを機に自分の一族を私と結婚させられれば、場合によってはマールバッハの乗っ取りも可能だし、最悪でも裏切りへの大きな牽制になる、と考えているだろう。

 こちらを立てるのは一時的、隙あらば後ろから刺すまでは行かないまでも、出し抜く事はいつでもやろう、と考えているのは明らかだった。


 こっちも後で梯子外す気満々だからお互い様なんだけどね。


「申し訳ありません、公爵。私との婚姻と言う事であればお断りします」


 私は落ち着き払った声でそう答えた。


「何故かな?」


 公爵の猜疑心の色が強くなる。


「私にはもう心に決めた殿方がいますので。その方以外と結ばれるぐらいであれば今の地位を捨てますわ」


 ゴフウッ!と私の背後で変な音がした。


 首だけでそちらを見ると、エアハルトがバランスを崩して倒れかけている。


「あら、どうしたのエアハルト?」


「い、いえ、何も……」


 澄まして尋ねる私に顔を真っ赤にしたエアハルトがごほごほせき込みながら首を振る。


 こっちを見て来るその眼が「それはもしかしなくても私ですか?」と聞いていたので、私も眼で「当たり前でしょ、アンタ以外の誰がいるのよ」と返しておいた。


 フフッ、たまにはこんな風に私もエアハルトを動揺させたいぞ。

 ……内心は私も心臓がドキドキ言っているのは内緒だ。


「そ、そうか……そう言う事なら残念ながら仕方がないな」


 さすがのフライリヒート公爵も私の返答が率直すぎて想定外だったのか、毒気を抜かれたような顔をしていた。


「逆に、クレスツェンナの方はどうなんでしょう?さすがにまだ結婚は早いでしょうが、婚約と言う事で誰か私の一族の中から良い婿を選んで頂いてもいいのですけど」


「えっ……」


 名前を呼ばれた事にびっくりしたようにクレスツェンナが顔を上げた。


「それともクレスツェンナにも意中の人がもういるのかしら?」


 牽制半分、冗談半分の発言だった。

 クレスツェンナが不安そうな表情で父親とジークリンデ中佐、そして最後にヴェルナー中佐をじっと見詰める。


「……クレスツェンナ様はまだ一三歳であらせられます。さすがに婚姻の話はまだ早いのでは……」


 フライリヒート公爵も返答に悩んでいるのを確認してから、控えめにヴェルナー中佐が発言した。

 自己紹介以降、彼の今日初めての発言だった。


 おやあ……?

 ヴェルナー中佐はエアハルトと同年代か少し年上程度に見える……だいたい十歳差と言ったぐらいかな。

 五年後にはギリセーフになるかも知れないぐらいの年齢差はさておき、その身分差は修羅の道だと思うよ二人とも……私も全くもって人の事は言えないのだけど。


「フフッ、冗談よ。フライリヒート公爵もまさかいきなりこの場で両家の縁談をまとめよう、と考えておられた訳では無いでしょう」


 私はそう答えて、縁談話自体を冗談へと紛らわせようとした。

 フライリヒート公爵が曖昧な様子で、それでも頷く。

今までに登場しているネームドの女性キャラを胸の大きさ順に並べるなら


ロベルティナ>ジークリンデ>ロスヴァイゼ>ジウナー>エウフェミア>コルネリア>シビラ>かなみ>ティーネ>>>>>ヒルト>クレスツェンナ


です(多分)

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