双子姉妹メイドとかこの世に実在していたのか
帝都にいる間、私はわずかな余暇を使ってある事を始めていた。
ティーネ、そして彼女麾下の提督達とのシミュレーター上の対戦である。
今までもエアハルトやクライスト提督には相手をしてもらっていたが(無論連戦連敗である。エアハルトにはもちろんクライスト提督にも全く勝てない)、より経験を積みたい、と言う理由でティーネに依頼し、交代で時間を取ってもらっていた。
さすがに皆今のタイミングだと忙しいので機会は限られているが、それでも皆嫌な顔をせず私の相手をしてくれた。
やはりティーネ本人やカシーク提督、ジウナー提督には無論の事、フィデッサー提督やマイ提督にも全く勝てはしなかったが、それでもそれぞれ個性の見える戦い方をする提督達との対戦は私の糧になっている気はした……本当の所はどうか分からないが。
それとカシーク提督の推薦で対戦を勧められたのが提督の部下である二人の任務群司令。
エーファ・フォン・レッチェルト准将とレタ・フォン・レッチェルト准将の双子姉妹だ。
今日私はこの二人とカシーク提督に順番に対戦してもらっている。
この二人は前の世界線ではもう少し先、確か帝国が内乱状態になったタイミングで中将に昇進して一個艦隊の提督になっていたので、私も覚えていた。
帝国の内乱や連盟侵攻作戦で活躍し、『鏡写しのジレーネ』の異名で呼ばれるようになるティーネ配下の名将の内の二人だ……確かエーファの方はカズサワ提督との戦いで戦死して、レタの方は最後はカシーク提督の叛乱に従ってたっけな?
年齢は二三歳。カシーク提督の従妹に当たる下級貴族の家の出だと言う。
ステータスはエーファの方が……
統率82 戦略71 政治77
運営59 情報77 機動76
攻撃85 防御75 陸戦78
空戦81 白兵70 魅力83
レタは……
統率82 戦略71 政治77
運営59 情報77 機動76
攻撃75 防御85 陸戦78
空戦81 白兵70 魅力83
お、おおおお……
双子だから外見は瓜二つで軍服を着ていると髪に付けているリボンの色以外で私は見分けが付かないんだけど、まさかステータスまでここまでそっくりになるとは。
攻撃と防御の数字が入れ替わっているだけだ。
ちなみに攻撃と防御の差はそれぞれの性格を反映しているのかエーファの方が少し積極的な印象を受ける……口を開くのは大抵彼女の方が先だ。
もちろんこんな名将二人が相手だと対戦結果はやっぱり私の全敗だった。
「まだまだですな。俺に敵わぬのは当然としても、エーファやレタ相手にはせめてもう少し食い下がれる程度にはなって頂きたい物です。公爵令嬢も、もう数個艦隊を率いられる身分になられるのですから」
二人との対戦が終わった後、さらに追い討ちを掛けるように何の容赦もなく私をフルボッコにしたカシーク提督がしたり顔で言う。
彼我の損害比は実戦で無くて良かったと心底思うほど悲惨な物だ。
「やっぱりエアハルトやクライスト提督に任せきりじゃダメでしょうか?」
「実戦の指揮が出来るに越した事は無いでしょう。確かにあの二人は良い将です。それを押し退けて敢えて公爵令嬢が指揮される必要は無いかも知れませんが、しかし実戦では何が起こるのか分からないのですから。特に戦いの規模が大きくなればなるほど、意思疎通の不備は起きやすくなる。兵を率いる者は取り返しの付かない決断を、最後は自分でほんの短い時間で下さなくてはならない時が最後は来る物です」
「カシーク提督にもそんな決断を下された事が?」
「実戦に出る度にそうですよ。俺はティーネ様の判断能力に絶対な信頼を置いてはいますが、同時に後方にいる者と最前線に立つ者ではどうした所で見える物が違うのです。いちいち全ての判断を仰ぐ訳にはいかない」
「むしろティーネ様の下に付かれる事で以前よりまだマシになった、と言うべきかも知れません」
「以前はその数々の独断専行が災いして功績の割に全く昇進が進んでいませんでしたからね、ヴァーツ兄様は」
エーファとレタの二人が順番に口を挟んだ。
この二人はプライベートではカシーク提督の事を「ヴァーツ兄様」と呼ぶ。
貴族とは言えレッチェルトはカシーク提督の実家を遥かに下回る貧乏貴族で、子どもの頃は生活費を浮かすためにカシーク提督の家に住み込んでメイドの真似事をやっていた事もあったらしい……双子姉妹メイドとかこの世に実在していたのか。
ティーネにコルネリアにジウナー提督にさらにこの二人……あらためて考えてみればカシーク提督、周りを美女と美少女に囲まれてるなあ……もしこの世界がハーレム物のラノベやアニメだったら多分主人公だぞ、この人(対抗馬は連盟のカズサワ提督かな)。
「俺を使いこなせないどころか逆に足を引っ張っていたような無能共が悪いのだ。全く、帝国の将官共がティーネ様とまでは言わないまでも、せめて全員公爵令嬢ほどに物分かりが良ければ、当の昔に俺の力で帝国を勝たせていたのに」
「いやあ、さすがにそれは無理じゃないですか。連盟にはこの前カシーク提督に勝ったカズサワ提督もいますし」
大言壮語を言い放つカシーク提督に私は無邪気に突っ込んだ。カシーク提督が秀麗な顔を歪め、獰猛な笑顔を私に向ける。
それはそれで思わずぞくりとしてしまう程の魅力的な表情ではあった。
「公爵令嬢、他の相手ならいざ知らず、俺を相手に家柄や階級が防壁となるとは思われない事です。今度同じような事を言われる時はせめてベルガー准将を側に置かれておくべきですな」
私は思わず首を竦める。カシーク提督が今度は快活に笑った。どうやらただの冗談らしい。
「全く、私達には事あるごとに『決して自惚れるな、自分達より強い者などいくらでもいると言う事を常に忘れるな』と口うるさく言われるのに」
「ヴァーツ兄様自身は自分より強い相手がいると言う事はまるで子どものように意固地になって認められませんね」
エーファとレタがそっくりな動作で呆れたように首を横に振る。
「この銀河で俺より強い可能性がある者など仮にいたとしても片手で数えるほどだろうからな。しかもその内何人かは俺の味方側にいる。だから俺はお前達と違って傲慢でいいのさ」
これも半ば冗談の混ざった大言壮語なのだろうけど、多分かなり正確な評価なのが何とも言えない。
そのままカシーク提督は私の対戦記録を見ながら、エーファとレタの二人を交え、感想戦をやってくれた。
全体的にボロボロの内容だったけど、それでも特に改善すべき所を的確に指摘してくれ、わずかながらに褒めるべき采配も評価してくれる。
ティーネやジウナー提督、クライスト提督はどっちかと言えば理屈よりも直感派だし、エアハルトは私に甘過ぎるし、何だかんだで私にとってはカシーク提督が一番戦術面での指導者としては適任なのかも知れない。
……だけどもちろん私はただ自分の指揮能力を伸ばすためだけに、わざわざ提督達の貴重な時間を割いてもらっている訳ではなかった。
これをやっている本当の目的は、ティーネやジウナー提督を抜きにして、カシーク提督と個別に話せる時間を自然に取る事だ。
エーファとレタの二人もいるけど、この二人なら私が内密の話を始めればカシーク提督が空気を読んで遠ざけてくれるだろう。




