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第五

 古びた旅館が立ち並ぶ風情のある街並み。


 そこには至る所から湯煙が上がっていて、食べ物は美味しく、外湯が至る所にあるのと、温泉街と呼ぶべきそのレトロな場所には、貸間と呼ばれる文化が残っていた。


 その名の通り部屋だけを時間制で貸してくれるというのだ。


 旅先は、それが理由で決めたのだろう。


 僕は風呂が比較的長い。だからその間、みゆきは自由に散策できる。


 これはいつものことだからおかしなことではない。


 みゆきは肌が白く、湯に浸かり過ぎると真っ赤になりグタッてしまう体質で、すぐに湯当たりしてしまうから昔からお風呂は苦手だった。


 その為、温泉地ではよく別行動をしていた。


 湯上がりのみゆきは色っぽく、その様子は僕の好きな姿だったけど、もう見ることはないだろう。


 昨日の一日目は移動日だったから予想通り中西は来なかった。盛るタイミングもなかったから読んでないけど、来るとすれば二日目の昼からだろうと読んでいた。


 だからみゆきに前もって回りたい温泉は伝えていた。


 案の定、長風呂嫌いの彼女には最初だけ難色を示された。


「え〜やっぱり回るの〜? 長風呂好きなのに?」


「浴衣で巡るのなんてした事ないし。その間自由に観光しててよ。ダメかな?」


「…ダメじゃないけど…もっと正邦と…」



 少し逡巡していたが、これらはポーズだろう。思ったとおりすぐにみゆきは納得していた。



「ううん、わかった。じゃあいつものように美味しいものを食べ尽くしてやる〜!」


「…そうだな。後で教えてくれよ」


「ふーんだ。穴場とか巡ってやるから! 頬張ってる写真送るからね!」


「…はは。お土産よろしく」


「わかった〜夜は一緒に内湯に入ろうね?」


「ああ、うん」



 そうして別行動になった。


 僕は予定通り温泉巡り。ここ最近は別のことで疲れていたから本当に堪能した。


 美味しいものを食べ歩きながら、こちらからも写真を送る。すぐに返事が来る。なんだ、まだ来てないのか。


 宿に戻り、ぼうっと外を眺めていた。すぐに暗くなってきたから一足早く内湯に入った。


 空はまるで星が降り注ぐような光に包まれていた。


 月も綺麗だ。晴れて良かった。


 湯から上がると夜の七時頃だった。


 みゆきからはちょうど30分置きくらいに写真が届いていた。いろいろな施設や食べ物、街並み、まるでアリバイ作りみたいだ。


 瓶ビールを飲みながら夜ご飯を検索してみたけど、腰が重い。


 外に出ればいろいろなお店があったから、宿の料理はそれを見越して頼んでなかった。


 昼間に食べ歩いたし、もういいか。そう思っていたら途中道に迷い遅くなるから先に食べてとメッセが入っていた。


 どうやら合流したようだ。


 それから彼女が宿に戻ってきたのは夜の11時頃だったらしいが、僕はもう寝ていた。


 その日の裏で何が行われてるか気になったけど、初日と同じように、自分に睡眠薬を使い、彼女を待たずに9時頃にはぐっすりと寝ていた、


 お酒と眠剤は危ないけど、どうでもよかった。


 でもその影響なのか、すぐに続きが読みたかったのか、寝起きはイライラとしていた。



「ごめんなさい…わたし浮かれちゃって…飲み過ぎて…あんなに遅くに帰ってきて…」



 朝一の第一声はそんな始まりだった。元々旅先で別行動はよくしていたからそこまで気にする必要なんてないのに、彼女は本当に反省しているかのようでしゅんとしていた。


 もしかしたらイライラが顔に出ていたのかもしれない。


 けど、そんな顔する必要なんてないのに。そのみゆきの様子になんだかイライラが収まってしまった。



「…いや僕も先に寝ててごめん」


「正邦が謝る必要ないでしょ!」


「…とりあえず内湯に行くか?」



 おそらく断るだろうけど、どう断るのだろうか。



「あ…お風呂入ると汗かくし…これから移動でしょ? 時間も勿体ないし」



 確かに今日は風呂に入らずに街中デートだ。中西は帰ったのだろうか。



「そうだな」


「あ、でもここ、このホテルの温泉行こ? レビュー見たんだけど、眺めが良いんだって。正邦が喜ぶと思って探してたんだ〜」



 なんだ、まだ帰ってなかったのか。なら二時間くらい貰おうか。



「ありがと、嬉しいよ。じゃあそこに寄ろう」


「うん!」



 おそらく今回が最後の旅行だ。好きにすればいい。


 風呂と眺めと帰ってからが楽しみだ。

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