第六話:怪我をした二匹の恐竜
翌日、誰よりも早く起きたカツキは、畑を見て収穫できるものは収穫し、昨日の寝る前にヒロキからもらい、そのままカツキの魔法の書の収納へ保管された食材を取り出して、朝食を作った。
「肉のスープにサラダ、炊き立てのご飯にフルーツポンチ!
これで私とヒロキ君の朝食ができた!
後は……ネザーは確か生のお肉で、アローラは舌で食べれるものならなんでも良いから……アレ?
レシピにペーストってあるけど、何々……なるほど、材料なら問題ないですわ!」
こうして、カツキはアローラとネザーの朝食を作り終え、最初にアローラとネザーのところへ朝食を持って行った。
「?」
「?」
「おはよう!
もう起きてるみたいですね!
はい、朝食!」
ネザーには生肉、アローラにはペーストを与えた。
ガツガツッ!
ペロペロッ!
「美味しいですか?」
カツキがそう尋ねるとアローラもネザーも頷いて、美味しそうに食べていた。
そしてカツキはすぐにヒロキを起こした。
「……ん?
もう朝か?」
「おはようございます!」
「お、おはよう……」
「朝食ができてますよ!」
「あ、ありがとう……」
そしてヒロキとカツキの二人で朝食を食べた。
「美味しい!
僕よりも君が作る料理はとても美味しいよ!」
「あ、ありがとうございます!
ところで、今回は何をするのですか?」
「今日?
そうだなぁ……食糧の消費期限を延長するための塩が必要だから、岩塩を取りに行こうかなと思ってね」
「それはどこに?」
「洞窟とか砂漠とかその辺りかな?」
「ここにはないのですか?」
「洞窟ならどこかにあるとは思うけど、今のところはそれらしき場所は見かけないね。
それに、砂漠はずっと向こうの方だしね。
ここにいるジャングルから相当遠いところにあるんだけど、ジャングルを抜けるとサバンナに辿り着いて、そこからずっと向こうまでの遠い距離まで行くと砂漠へ辿り着くんだ。
でも距離的に考えると超絶遠出の旅になるけど」
「ってことは、岩塩がある洞窟を探せば良いんですよね?」
「まぁ、そういうことになるのかな?
でも、このジャングルには何がいるのかまだわからない状態なんだ。
仮に僕が砂漠へ取りに行っている間に、この拠点を誰かに留守番をして守ってもらわないといけない気がするんだ。
そこが結構難しいしなぁ……」
「それは困りましたね……」
「うん、どうしょうかと思ってなぁ」
「わ、私でよろしければ……」
「いや、ダメだ。
今の君では危なすぎる」
「そ、そうですか?」
「君はまだ恐竜などの生き物とは戦ったこともないし、君のステータスではまだレベル1のままなはず……少しでも経験値を溜めてレベルをあげないとマジで即死するからね?」
「で、ですよね……」
「それに場合によってはこの拠点に襲撃されたこともあるから尚更……」
「確か、たるのたうるすのことですよね?」
「“カルノタウルス”ね!
ソイツらのような危険な動物がたくさんいるから、常に警戒しないといけないんだ」
「でしたら、良いアイデアがあります!」
「ん?」
「この拠点を守れるくらい強くて頼もしい仲間を手に入れることです!」
「強くて頼もしい仲間?」
「例えばその……カルノタウルスという名前の恐竜ですよね?
私は恐竜のことはあまり詳しくないのですが、トリケラトプスやティラノサウルスとかいうのは聞いたことがあって、特にティラノサウルスは恐竜の中では最強だと聞いたことがあります!」
「なるほどなぁ……言われてみればそう言った強い恐竜とかを仲間にするのは良さそうだね!
でも……ソイツらはそもそもここに生息しているのか、僕ですらわからないよ」
「そっか……とりあえず一緒に探しませんか?」
「えっ?」
朝食を食べた後、アローラとネザーを留守番させて、ヒロキはアローラと一緒に頼もしい生き物を仲間にするべく、探し回った。
「どこにいるのか全くわからないし、むしろだんだんと怖くなってきたわ……」
「大丈夫!
僕がいるからさ!」
「た、頼もしいですね……」
すると、二人はある怪我をした二匹の恐竜を見かけた。
「アレ!?
あそこにいる子達、怪我をしていますよ!?」
「あ、アレはディノニクス!?
しかも二匹とも、結構深い傷を負っているな……これは重症どころか、逆に死ぬぞ」
「ど、どうすればいいんですか?」
「本来、コイツらは僕達を襲う危険な恐竜だけど、今はそれよりも早く助けることが最優先!
だから、君には申し訳ないけど……傷を治す傷薬と包帯を作ってくれないか?」
「傷薬と包帯?」
「傷薬は確か、レシピに載っているはずだから、その通りに作ってくれたらいい……包帯は綿だけでもクラフトして作れるはず!」
「綿ですか?
それはどこに?」
「綿はこのジャングルのあらゆる場所に生えているから、それらしきものがあれば、どんどん取ってくれ!
この子達は僕が拠点へ連れて行くから、頼んだぞ!」
「は、はい!」
カツキは包帯の材料となる綿を探しに行った。
ヒロキは二匹のディノニクスを引っ張って拠点へ連れて行った。
ギギギギッ……
「ごめんよ……痛いとは思うけど、我慢してくれ!
僕の拠点についたら治してやるから!」
「グルルルッ……」
「ヴァウッ!」
「警戒されても仕方ないか……でも、怪我のせいで僕を襲うスタミナすらないみたいだね」
二匹のディノニクスを見つけたのは、拠点から徒歩で三分程度の短い距離だったので、ヒロキは二匹のディノニクスを引っ張りながらもなんとか拠点へ辿り着いた。
「ピィーーーッ!!!」
「ヴォーーーッ!!!」
ヒロキが二匹のディノニクスを見て、拠点で留守番をしていたアローラとネザーは高い声をあげて、警戒していた。
「アローラ、ネザー!
コイツらは怪我をしているから、そこまで警戒する必要はない!」
「……」
「……」
攻撃する体制にはなっていないが、アローラとネザーは二匹のディノニクスに睨みながら警戒をしていた。
そこへ、たくさんの綿と薬草を抱えたカツキが帰ってきた。
「ヒロキ君、このくらいの量ならいける?」
「クラフトしてみればわかる!
クラフトは魔法の書の収納ってところでできるから!」
「やってみます!」
カツキは魔法の書にある収納のページを開いて、そこへ綿を収納し、そこから包帯をクラフトした。
「できました!
これで足りますか?」
「あぁ、充分だ!
ここに置いて、君はすぐに傷薬を!」
「は、はい!」
カツキに傷薬を作らせている間、ヒロキはクラフトした木のバケツに水を入れて、それで二匹のディノニクスの傷口を洗った。
「傷口を洗わせてもらうね!
ちょっと我慢して……」
「……」
「……」
(てっきり暴れるのかと思ってたけど、思ってた以上におとなしくしてくれている……)
傷口を洗い終わった頃にはカツキが傷薬を完成させ、それをヒロキのところへ持ってきた。
「できました!」
「ありがとう!
後はこうして……」
傷薬で二匹のディノニクスの傷口に塗って、そして包帯で傷口のところだけ巻いた。
「……さて、これでもう大丈夫。
この子達をアローラとネザーから離れた場所に置いて、そこで安静にし置いておこう」
「どうしてですか?」
「もしもディノニクスの傷が回復して、立ち上がった時、もしかしたらアローラとネザーを襲う可能性があるから、念のためにね!」
「た、確かに……」
二匹のディノニクスを拠点から離れた場所に置いて、そこで安静にさせた。
その間に再び頼もしい生き物を探しに行った。
「……そういえば、川のところって何かいましたか?」
「まぁ、魚とかならいるけど……」
「だとしたらその川に行けば、見つかるかもしれません!
川にはいろんな動物が集まってくる場所ですから!」
「確かに……なら行ってみる?」
「はい!」
と言うわけで、ヒロキはカツキと一緒に前にヒロキがティタノボアと戦い、そこで魚を釣った川へ行きました。
「こ、ここですか?」
「うん、僕はこの世界に来て、最初に君が遭遇したのは少し大きなティタノボアと戦った場所でもあるんだ。
ここにはいろんな魚がいるけど……」
「そうだったんですね……」
すると……
ガサガサッ!
「向こうからか?」
「な、なんですか!?」
「静かに!」
深いジャングルの奥の方から一頭の巨大な恐竜が姿を現した。
ドスッ!
ドスッ!
ドスッ!
ドスッ!
「……」
強力な長い爪ととても大きな体を持つ恐竜でした。
「で、デッカ……」
「あ、アレって確か……前にテレビで見たことがあります!」
「テレビで?」
「はい、新種の恐竜が見つかったとかで……」
「あぁ〜〜!!
アイツね!?」
「ご存じですか!?」
「あぁ、僕もそのニュースを見て、学校で話題になってたよ!
確か、デイノケイルスだ!!」
そう、姿を現したその恐竜は、“デイノケイルス”と呼ばれる約7,000万年前の中生代白亜紀末期に生存した恐竜で、骨格が完全に復元された新種の恐竜として話題になっていました。
「まさかそんな奴がこの目で見れるとは……」
「しかもとても強そうです!
どうしますか?」
「……と、とにかく調べてみよう!」
ヒロキは魔法の書の図鑑を開いて、そこに既に記録されているディノケイルスのページを見てみた。
「……」
「なんて書かれてました?」
「……なるほど、“セイバートゥースサーモン”っていう魚を丸ごと餌として与えることで、飼い慣らすことができるらしいよ!」
「本当ですか!?
では、そのなんとかサーモンとやらは……」
「まぁ、釣りしかないでしょ?」
ヒロキは釣り竿を取り出し、その川で釣りを始めた。
「……」
「……釣れないですよね」
「そりゃ……釣りってそういうものですからね」
「……」
「……あちらのディノケイルスがずっと見守ってますわ」
「何もしなければいいんだけど……」
すると……
ポチャッ!
「!?」
ヒロキは釣り竿を引っ張って、そこから魚を釣り上げました!
パシャッ!
「釣れた!」
「釣れましたね!
で、でも……」
ピチピチッ!
「なんかヤバそうな見た目だな……」
「まるで映画とかで出てくるピラニアみたいですね」
その時……
バクッ!!
「あっ!?」
「釣った魚をディノケイルスが!?」
なんと、釣った魚をディノケイルスが横取りして食べてしまったのです。
モグモグッ!
「ま、まぁ……あくまでもサーモンだからね?」
「で、ですよね……」
「ひ、引き続き釣るぞ」
再び釣りを始めた。
しかし、二人の背後には、傷の手当てを受けた二匹のディノニクスがやってきた。
「……」
「……」
ポチャッ!
「!?」
パシャッ!
「釣れた!
でもやっぱりサーモンじゃない……」
バクッ!!
「そしてまた……」
「ま、まぁ……コイツを仲間にすればなんとか食べられずに済むだろう……」
サーモンではない魚を釣っては食べられ、釣ってはまた食べられるという繰り返しがあって、そこから約一時間が経過していた。
そんな時……
ポチャッ!
「こ、今度こそ……」
「お願いします!」
パシャッ!
ピチピチッ!
「で、デカい……これがそのなんとかサーモン!?」
「間違いない……セイバートゥースサーモンだ!」
そして奴も……
バクッ!!
「……」
「……こ、こうなりますよね」
「で、ですよねー」
モグモグッ!
やっと釣ったセイバートゥースサーモンをディノケイルスが横取りして、そして平らげたのでした。
ペロリッ!
すると、ヒロキの前に“ディノケイルスが仲間になりたそうにこちらを見つめている”という表示が現れ、その下には“仲間にしますか?”があり、その下には“YES”か“NO”のどちらかが出た。
「こ、これって?」
「ここに“YES”を押せば、僕達の仲間になれるよ!」
「まるでゲームみたいな感じですね……」
「まぁ、そんな感じかな?」
そしてヒロキは“YES”をクリックした。
ポチッ!
すると、“ディノケイルスはあなたに飼い慣らされ、あなたの仲間になりました!”と表示された。
「ヴァオォ〜ッ!」
「喜んでるみたいですわね!」
「そうだね!
じゃあ君は今日から君には“ゴードン”と名付けるよ!」
「ごーどん?」
「まぁ、適当に名前をつけてるけど……」
「な、なるほど……ちなみになんですが、飼い慣らした後に名前をつけるのって?」
「名前をつけないといけないからね。
それに、名前をつけれるのは、生き物を飼い慣らした張本人だけってこと!
つまり、ディノケイルスは僕が釣ったサーモンを食べたから、実質僕が飼い慣らしたってことかな?」
「そうなんですね……」
すると、そこへあのディノニクスがやってきた。
ドスッ!
ドスッ!
「君達!?
もう治ったの!?」
二匹のディノニクスは頷いた。
「よかったですね!」
「あぁ、そうだね!
じゃあ、君達……元気でいろよ!
次にあったら多分、君達がやられる番になるけど!」
「そ、それは……」
「助けてもらったからと言って、油断は禁物だよ!」
「……」
ディノケイルスのゴードンと一緒にヒロキとカツキは拠点へ戻った。
ところが、拠点に戻っても何故か二匹のディノニクスはついてきたのでした。
「アレ?
いつの間に?」
「見た感じ、私達を襲うつもりはないみたいですよ」
「どういうこと?」
ヒロキは思わず、ディノニクスについて調べてみることにした。
魔法の書にある図鑑には、ディノニクスは草食系の肉が好物で、その草食系の肉を食べさせると飼い慣らすことができるとしか出ていなかった。
「草食系って、要するに草食恐竜とか象などの草食動物とかかな?」
「見たいですね……でも、少なくとも私達の仲間になって欲しそうな目で私達のことを見ていますね」
「なるほど、そう言うことか?」
「えっ?」
「僕達に助けられたからそのお礼がしたいから、僕達の仲間になってくれってことかな?」
「なるほど……」
そんな二人の会話を聞いていたネザーは黙ってどこかへ飛び出した。
そしてアローラはゴードンとは互いに挨拶をしていた。
「ゴードンがアローラと互いに挨拶をしていますわ!」
「仲間だとお互いに認識しているみたいだけど……ってか、ネザーはどこ行った?」
その時……
ドサッ!!
「!?」
「な、何!?」
なんと、二人の目の前にションブルグジカ降ってきた。
どうやらネザーがとって来てくれたようだ。
「これは……鹿?」
「ションブルグジカという絶滅した鹿なんだよ」
「絶滅した鹿?
どういうことですか?」
「魔法の書の図鑑によると、かつてはタイの南西部の湿原地帯に生息していたけど、ツノを目的とした狩猟や開発などが原因で絶滅したんだって!
どうやらこの世界では、恐竜などの大昔にいた生き物以外にも、人間によって滅ぼされた動物も絶滅種として存在するみたいなんだ」
「ということは、ニホンオオカミやニホンカワウソなどの日本で絶滅した動物もいるってことですか?」
「まぁ……そういうことになるかな?」
バサッバサッ!
「……」
ドシッ!
すると、ネザーは地面に着陸した後に突然と大きな声で鳴き出した。
「ピィィィィーーーーッ!!!!」
どうやら“早く仲間にしてやれ!”と言っているようです。
「ご、ごめん!!
忘れてた!!」
「ちょっと待ってくださいね!!
……えっと、生のその鹿のお肉でいいんですよね?」
「う、うん……そうだね!
じゃ、じゃあさぁ……君があの子達にあげてみる?」
「わ、私?」
「うん、君があげたら、君が飼い慣らしたってことになるし、名前もつけれるけど、どうする?」
「……そうですわね……やってみます!」
カツキはネザーが仕留めたションブルグジカの肉の一部を切り取って、それを二匹のディノニクスに与えた。
ガツガツッ!
「美味しいですか?」
「ヴァウッ!」
「ヴァウッ!」
すると、カツキの目の前に“ディノニクスが仲間になりたそうにこちらを見つめている”という表示が現れ、その下には“仲間にしますか?”があり、その下には“YES”か“NO”のどちらかが出た。
「い、YESを押せばいいんですね?」
カツキは迷わずにすぐに“YES”をクリックした。
ポチッ!
すると、“ディノニクスはあなたに飼い慣らされ、あなたの仲間になりました!”と表示された。
「おっ?
君も初めて飼い慣らすことができたね!」
「こ、これでいいんですか?」
「うん、君の魔法の書のステータスを確認すればわかる!」
カツキは魔法の書のステータスを確認した。
既にカツキはレベル3へと上がっており、飼い慣らした生物は2となっており、そして二匹のディノニクスのステータスが表示された。
「後はこの子達に名前をつけてあげて!」
「名前?」
「君が飼い慣らしたんだから、名前をつける権利は君にある!」
「そ、そうでしたね……ステータスを見た感じ、同じレベル11のオスとメスのペアって感じがするので、オスにタンポポで、メスにミントにしょうかな?」
「タンポポとミント?」
「どちらも生命力が強い植物って聞いたことがあります!」
「まぁ、確かにタンポポは根っこが太いし、根っこだけでもまた再生することができるし……ミントは確か、植えては行けないと言われるほどの繁殖力を持つ厄介な植物って本にそう書いてあったなぁ……まぁ、いいんじゃないかな?
あの子達が気に入ってくれたらいいんだけど……」
「ヴァオッ!」
「ヴァオッ!」
「気に入っていらっしゃいますよ!」
「そ、そうか……」
こうして、ディノケイルスのゴードン、そして手当てしたディノニクスのタンポポ(オス)とミント(メス)を仲間に入れた。
「まぁ、とりあえずしばらく遠出の旅に出ても、コイツらがいる限り、拠点はなんとかなりそうだな!」
「はい、明日になったら、岩塩を取りに行きましょう!」
「うん!」
そして二人は明日、岩塩を取りに行くとそう決心したのでした。