表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星空舞う騎士の英雄譚  作者: 小鳥遊 白奈
初見殺しの遺跡
9/19

プレイヤー

 絢爛豪華な大扉を開けて、広がるのはボス部屋。2人が部屋に入ると、後ろの扉が消失する。


「逃げるという選択肢は無いようですね……」

 ヴィッタちゃんが呟いてる中、僕は1歩も動かず辺りを見渡す…

「……来るよ。絶対に僕より先に攻撃しないで。」

 それは突如現れた。

 なんの予備動作もなく、文字通りと言うには若干の語弊が有るが……


【今は亡き主の仇、不届き者。覚悟せよ】

 ジャッカル…ファラオを守護する黒い犬の人型の化身という伝承が多いが……今目の前に居るのは正しくそれである。


 ジャッカル Lv.80

「ひ、ひさと様の、、、嘘つき!!!」

 本来のジャッカルはレベル20の中ボス程度の強さなのだが、この遺跡の裏ボスであるファラオを倒したあとにこの場所へ来ると、強化版のジャッカルと戦闘が出来る。

 もちろん、そんな事は知っている上でボス部屋に入っている。

 ジャッカルが動かないのを確認して僕は間合いを図る。

「…!?」


 ゲームの仕様通りならジャッカルは攻撃範囲に入るか、こちらから攻撃しない限り、先制攻撃が必ず許される筈なんだが。残念ながら世の中はそう甘くは無いらしい……


『ひさ兄!?』

 ヴィッタちゃんに庇われ、何とか一命を取り留める……

「大丈夫ですか?…」

「ごめん。助かったよ。だけど確かめたいことは確かめれた、なら勝てない道理は無い」


 HPバーはあれども数字表記されない意味不明なこの状況だが…分の悪くない賭けをする価値はあるらしい


「ですが…作戦も無しでこの戦力差を埋めるのは……」

「……大丈夫、信じて。僕に合わせて。今のLv差なら3時間もあれば倒せる。」


【遺言は残しあえたか?どちらから死にたい?】


「悪いけど僕らで相手だ。」

 最初に与えられた何の変哲もないロングソードを握り締めて正面に居る犬の化け物に喧嘩を売る。


【愚かなる賊達よ。その勇ましさだけは賞賛してやろう。】

 僕の戦闘意志を受け取ったのか、黒い手から鋭い爪を伸ばして応戦の構えを取る。因みに言うまでもないが一撃でもまともに貰えば、ご想像の通りだ。故に取る戦法は最初から決めている。


「泥臭い戦いにはなるだろうけどね…確実な戦法で行く。」


 Lv差は歴然。僕のLvは超高Lvのファラオを倒したからと言って飛び級Lvで強くなった訳じゃない。

 強敵を倒せば、expは確かに同Lvの魔物を倒すよりもかなり多く貰える。

 だがしかし、この世界でその量を反映させるには時間と労力が必要になる。

 それがLvの横に書かれた☆マークの意味なのだ……。

 僕がLv1の時に反映されてたステータスの評価がE-、殆どのステータスが5以上の20以下しかない事を意味する。

 それがファラオを倒した現状、正確な数値は確認しないと分からないが…レベルアップして30前後のステータスにしかなって無いはずだ。

 それ以上は上昇しても体が順応出来ずに、力を持て余してしまう。キャパオーバーという訳だ。

 例えるならそれは、赤子がいきなりトラックを持ち上げるような力を制御できるか?ということである。


 前回、ファラオを倒して僕が得たexpは過剰過ぎて肉体に適応されてない。それを日を跨がずに順応させる方法はこれしか僕は知らない。


「行くよ!」

 行われるはヒットアンドアウェイの応酬…ヴィッタちゃんと息を合わせて、挟み撃ちを作りながら攻撃をテンポをズラしながら行い、時には片方が戦線から離脱して、遠距離からの攻撃を行う。

 魔法を詠唱しようとすると、ジャッカルはそれを止めようと一瞬だけタゲを動かす瞬間がある。その一瞬の硬直をヴィッタちゃんが叩く、するとタゲが取り切れず、僕に攻撃が間に合わず魔法の詠唱が出来る。


「爆ぜろ!ファイヤーボール!」

 初級も初級の詠唱魔法。

 もしプレイヤーとしての彼を知っている誰かが居たのなら、鼻で笑う光景だろうが、それ以上の上級魔法が唱えれないんだから仕方ないし、何より唱えれたとして、ヴィッタちゃん1人に援護をお願いするほど余裕の相手でもない。

 最適解では無いが、現状用いられる妥協案で攻撃を行う…。

 しかし、若干ヴィッタちゃんの立ち位置が良くなかったのか、敵が僅かに前進してしまい、直撃は免れる。

 エイム自体がきちんとしてた訳では無い、直撃してれば少し戦闘が早く終わっただけの話。

 RTAを望んでる訳では無いため、躱されようがまいが支障はない…だが、時間は現状有限で僕らの肉体的資源も有限だ。

 ならば、手数はより少なく、確実にが1番理想ではある。


 ジャッカルのHPは今の攻撃でようやっと1/4を切ったところだ…

 傷だらけの体の傷に鞭打ってまで主の仇を打とうとするその佇まいは尊敬に値する。


「向こうが倒れる前に、こちらが倒れそうですね…」

 時間にして1時間以上の攻防を一手に担ってる彼女はもう肩で息をしながら武器を握ってる。

 しかし、彼女は言葉とは裏腹に不敵な笑みを浮かべてる、一歩、一手、間違えれば自分の命等、簡単に刈り取られるこの状況を彼女なりに楽しんでいるのかもしれない。

「だからいい加減、息絶えてください!」


 彼女は武器を構え直し、強く地面を蹴る、戦いの中で戦いを練磨していく彼女は頼もしい限りだった。

 一撃一撃でワンテンポおいて攻撃してた彼女も短いとも言えない時間の中で、敵の動きを正確に、緻密に把握し僕の援護がどう来るか?まで予測し、一撃一撃のテンポも上がり続けていた。

 言うまでもないが、こういう戦法で戦う等と彼女と作戦を立てる時間等ありもしなかった。


 一手一手、地味なダメージを時間とともに重ねて行く。結果僕らは体に順応しきれてないexpを消化し続けている。

 戦い始めた時こそ、全くHPバーが動かず、勝つなど奇跡の領域だったが…時間を与えれば与える程、相手は確実に、自分の命を削り続け、敵を殺す手段など文字通り余る程あると言うのに、発動する寸前で不発に終わる。


 その所作を一切見逃さない狂気としか言えないレベルの洞察力、いいや、この場合は記憶力という方が正しいかもしれない。

【有り得ぬ、たかが賊程度の分際で】

 刃の形状が変わる。ただ伸びていただけの爪は、禍々しい炎を纏う。


『何これ、ステータスが倍くらいに…』

 妹の呟きが聞こえる。

 なんてことはない…ただ火事場が発動しただけだ。ココからが正念場だってだけだ。


【賊共よ。肉体が残る等と期待するな。。。】


「行くぞ、バケモノが…」

 瞬間、ヴィッタちゃんの体が霞んで見える、否、霞んだのでは無い。

 その場で強く踏み込み、勢いで加速したのだ。

 多分、本人が1番驚いているのかもしれない、だが長い時間の戦闘が彼女のオーバースペックを適正にまで昇華させた。

 しかし、瞬きの間で詰め寄った間合いも化け物相手では意味が薄れる。ヴィッタちゃんの居合を、化け物は両爪で完全に受け切り、それを前に押し出そうと力を入れ…


「影の針鼠!」

 化け物の足元から棘が生えてくる。いや、微妙に場所が異なる。

 ヴィッタちゃんの足元の影から敵正面に向けて斜めの刺突が襲いかかる。

 質量が襲いかかり化け物は地面から足を浮かせる。

 瞬時に判断し、針を粉微塵に切り刻み、地面に着地後、バックステップで間合いを1度取り直そうとしたところを、追撃が入る。

「逃さないです。」

 そのヴィッタちゃんの追撃にバランスの悪い状態で、爪で方向をずらす。

 しかし、大きく体勢を崩してしまい、そこを更に足蹴りで仰け反る。


「貰いました!」

 今彼女は、所謂ゾーンに入っている。

 戦乙女の血筋なのか、元々のポテンシャルなのかはさておき、この流れを崩すのはもう負けることを意味する。


「刀身よ。その輝きが曇らんことを···シャープネス!」


 陽鎖刀は彼女のバフを。下級ではあるがそれでも今の彼女にとってはそれ相応のバフではあるはずだ。


【愚賊どもが!】

「私言いました。いい加減に倒れてくださいと。」

 その刃は相手の首を確実に狙い切り落とした。



【主よ…今、そちらに…ま…】

 体ごと煙に巻かれて消えていく。

 それを見届けてから、ヴィッタちゃんは膝を折り、疲れたと意思表示を示す。


「お疲れ様。」

「はい、お疲れ様でした。正直これ以上の戦闘は今日はご勘弁願いたいところです。」

 僕はそんな彼女に果物を差し出して、ジャッカルが護っていたものを一瞥する。


「。。。それがここまで来た理由ですか?」

「そうなるね、中身は実は大したものじゃないんだけどね。」

 宝箱を躊躇いなく開けてそれを手に入れる。それは真っ白な本だった。

 題名や著者の名前が無い上にページを開くことは出来ない。

  だが、見慣れたそれを僕は知っているんだが、、、

「は、、、?なんでコレがココに、、、、?」

「反応からして目当てのものでは無かったようですね。」

「…ごめんね、無駄足だったみたいだから本来なら久遠の杖が手に入るんだけど…」


「いえ、問題ありません。あなたのおかげで、かなりと強くなった自覚があります。

 シルフィーを助けるのに充分過ぎるほど…。出口はどちらですか?」

 僕が戸惑っているのを見て話題を変えたのだろう。

「そだね。着いてきて。

 救出には少し準備してから行こう。時間もあまりないから突貫工事にはなるけど。」

 そういって僕は本をアイテムボックスへと入れる。


「なるほど、備えあれば憂いなしという訳ですか。賛成です。」

 ジャッカルを無事に倒した余韻を感じる間もなく、僕達は出口へと歩を進める。

 若干、ふらつく彼女とお互い支えながらというホントに締まらない状況ではあるが頼りの道標はもうほぼほぼ当てにならないと思った方が良さそうだ。

ふーん。短時間でここまでするんだ。

思ったよか楽しましてくれそうじゃないか。余計な茶々入れをさせられた身としてはこれ以上失望させないで欲しいんだけどさ。

ご褒美にしては、ちょっとやり過ぎたかもだけど、イレギュラー込でここまでやったんなら丁度いいかもね。

彼を勝手に召喚したあの子には悪いんだけどさ、先にイカサマしたのは君からだから文句は言わせないよ?

ま…ホントにイカサマしてるのは、どっちって話かもだけどね?

あ、そうそう…面白いもの見せて貰ったついでの拍子なんだけど、バグは取り除いたよ。エリアボス?あーそんな話もあったかもね。

だけどそれ以上の成果を見せられたら、そうせざるを得ないでしょ?まぁどうせ戦う羽目になるさ。だって彼はさ。。。


〝運命〟から逃げれない様になっているんだからさ。もっと楽しませてくれよ…



パタンと何かを閉じる音だけが最後に聞こえたんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ