予想外の救援
言うまでも無いが、陽鎖刀は戦士では無いし、魔法使いの血筋だった訳でもない、少し剣道を齧ったゲーマー程度でしかない。
だから彼自身、他の異世界転移者がどうかは知らないが少なくとも、この世界に召喚されたという事実を知った僕は、自分が知る限り1番、不快な顔をしたものだ。
いわゆる、なろう系では異世界転生したけど勝ち組です!とか仲間外れにされたけど色々あって最強になりましたとかあるが陽鎖刀自身はチートスキルを貰えた訳でもなく、かと言って強いキャラが仲間になった訳でもない。
それでも彼が勝利を辛くも手に入れれてるのは、彼自身の運要素が多分にあったと言える。
だがそれを他人に言われることだけは彼自身言われる謂れはない。
しかし、運が本当に良かったという訳でもない。
異世界に強制的に召喚されたことから始まり、アマゾネスに殺されかけ、初心者のダンジョンで化け物と戦わされ、ダンジョンボスをワンパンしたら、バグって襲ってくる。
極めつけは新しい街で、友達探しに占い師頼ったら襲われると言う運の無さである。
「今度……お祓いでも行こうかな……」
そう零したのは記憶に新しい。
ともかく、目の前の問題を処理しないといけない。
「空駆ける星々に小さな祈りを……」
レコットが自分の杖を敵に向け、まるで照準を定めるかの様に振るう。
それを見た敵が、はいそうですかと待っていてくれる訳でもない。
「ミリュちゃん、あの小さな女の子から食べようね?」
「ぐああああ!!!」
少女の声に化け物が呼応する。
「陽鎖刀!!姉さんを頼む!!!」
言いながらリュアは前線を突っ切り、化け物に切りかかる。
「シルフィー、彼の援護を。
弱き祈願者達に祝福を!時限式強化」
シルフィーが頷くのを横目に、リュアに強化魔法を掛けようとするが発動しなかった。
「不発!?なんで!?」
マナ切れか詠唱ミスか。
どちらかしかないが……そんな初歩的なミスをするだろうか……?
「私小さくないもん!!!オーロラ・ヴェール!」
僕の不発に時間差でレコットが魔法を成功させる。
あまり自信はないが、デバフ系だったはず…
瞬間リュアが攻撃した場所が岩で出来てる場所を簡単に破壊した。
「陽鎖刀くん、魔法なら任せて!」
レコットは笑顔で失敗を責めない。
「いじめちゃ、やーだ。」
少女はそういうと指をパチンと鳴らして魔法陣を完成させる。
【闇夜の鉤爪】
「いじめちゃう子なんて死んじゃえ?えーい」
少女の指を鳴らした片腕が大きい黒い鋭い爪を持った腕に代わりリュアを襲う。
「ちぃ!!」
横凪に飛んできた攻撃をリュアは大剣で守りはしたが大きく弾かれてしまい、戦場から物理的に離脱させられた。
「リュアくん!!!」
「シルフィー!!!下がれ!!!」
彼の復帰には時間がかかると踏み、前線を帰る為にすぐ様、剣に持ち帰る。
シルフィーは呆気に取られているのか、体を硬直させており、棒立ち状態になっている。
瞬時に対応出来ないパーティーは瓦解の一途を辿る。
「バイバイ?」
「陽鎖刀くん、痛いけど我慢してね!【突風よ】!」
背中を風で押されて体勢を大きく崩しそうになるが調整されているのか、加速するに留まる。だが、この距離…感覚で分かる、間に合わない……。
理解した途端に、自分の頭が一瞬、真っ白になってしまう。
「クソがぁあああああああ!!!!」
僕の罵声に、シルフィーが若干ビクッと動き状況を理解する。慌てて、防御姿勢に入るが
先程のリュアへの一撃を見るに彼女が耐えれるとは到底思えない。
「狐ちゃん!!避けて!!!」
叫ぶレコットの声と同時に魔法が聞こえた。
「氷棘!」
空気が凍てつき、シルフィーの足元から、大量のトゲが出現する。
1本なら簡単にへし折られたかも知れないが、砕けた先から更に複数の棘が発生する。
その結果、被弾までに大きく遅延する羽目になる。
「ひさ兄!!!いっけぇぇぇ!」
【寛容たる恵み…その怒りを受けよ。大地の怒り!!!】
押し寄せる氷の棘で大きく体勢を崩す巨体と跳ね返されると思わなかった少女の困惑。何よりも聞こえるはずのない声での声援が陽鎖刀の迷いを打ち消し、詠唱を許す。
魔法の詠唱に呼応して、敵の足元が大きくひび割れ、爆発し土煙が発生する、それに乗じてシルフィーを回収して後ろに隠す。土煙が晴れる頃には形を保てなくなった、大岩のモンスターの背に隠れるボロボロの少女の姿が映った。
「ミリュ…ちゃん…逃げるよ。」
「…」
少女の呼び掛けに、魔物は黙り込む。
「次は、、、絶対食べてやる。」
指を少女が鳴らすと、強く閃光が起きて閃光が無くなる頃には誰も居なかった。
「逃げたっぽいね。」
「あの…この方は…?」
「積もる話は後にしよう。動けるうちに教会まで撤退しよう。」
「賛成…リュアくんも気になるしね。」
その後、教会まで特に戦闘に巻き込まれることも無く心配されてたリュアは教会の手前辺りで負傷していたのを拾い、死傷者ゼロで湖での戦いは幕を引いたのだった。
「敗走とは些か、愚かとしか言えませんね?」
「うるさい!うるさい!!途中で邪魔が入らなかったら私が勝ってたのに!」
「はいはい、怪我してるのだから暴れないの?」
少女に話し掛けた人物は眼鏡を弄りながら…
「しかし、そうですか。あなたが負ける相手ですか。すこーしだけ興味がありますね?」
「だめだよ!ヴェル!あれは私のご・は・ん!!横取りしないの!!!」
「分かってますとも。しかし、2回目は無いですよ」
ヴェルと呼ばれた、化け物はただただ微笑した




