星座の名前を教えてくれる魔術師
なろうラジオ大賞4投稿作品になります
すべてがつまらなくてひとりぼっちになった。
やっぱり仮病でも使ってサボればよかったかなと思いながら、ぼんやりと星空を眺めてる。
部活に強制加入が規則の学校に入ったのも間違いだった。楽だからと思って選んだ卓球部も、弱小校のくせに意外とやる気があって、昨日から張り切ってこんな山奥で合宿だ。レギュラーなんてなるつもりもないあたしはひとり浮いていた。
あたしは今、なんにもやる気がないんだ。
生きるのってつまらない。
子供の頃はこんなんじゃなかった。もっと毎日が楽しくて、時間もゆっくり流れてた。どうしてあの頃に戻れないんだろ。
夜空の星を眺めていると、あそこへ行きたくなる。あれは遥か昔に消えたものの光だって習った。
死んだ星の光。今はもうないものが永遠のように光り輝いてる。いいな……。あたしも早くあの星みたいになって消えたいな。
がさりと草を掻き分ける音がして振り向いたら、メガネ地味男子の星野がいた。
「わ。びっくりした! ……棚橋さん? こんなとこで何してるの」
声だけはやたらいいけどつまらなそうなやつ。あたしは無視してまた星を見上げた。すると星野が隣に座ってくる。許可した覚えはないんだが……。
「すごいね」星野が言った。「夏の星座がよく視える」
「星座なんて興味ない」
邪魔だという意味を込めてあたしがそう言うと、
「ほら。空のど真ん中に大きな十字があるだろ? あれが白鳥座」と、真面目な顔。
「白鳥? どれ?」
思わず探してしまった。
「目を凝らしてみて? うっすらと天の川が視えるだろ?」
「んー……あ、本当だ! 天の川、ある!」
「それに乗るように白鳥座。ほら、天の川の対岸をよく視て? 大きく輝く星がそれぞれにあるだろ? あれが彦星。あっちが織姫」
「わっ! あれが……!?」
学校で習ったはずなのに、知らなかった。星野が次々と星座の名前を教えてくれると、ただの死んだ光のはずだった星々が、生き生きとした形に浮かび上がる。動き出すみたいに視えてきた。
地味だとしか思ってなかった星野の顔も、なんだか魔術師みたいに見えてきた。夜空に星で絵を描く魔術師だ。
自分が今までどれだけ何も知らずに生きてきたかを教えてくれる。まだ知らないことがたくさんあるって教えてくれた。
目には見えてたはずなのに視えてなかったものが、あたしの前にたくさん現れた!
「おお! ペルセウス座流星群だ!」
「何それ!? すっっごい名前!」
これから学校も部活も楽しくなりそうな気がする!