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借金取りに殺されてしまったので異世界では普通に生きたい  作者: シバスケ
第一章 始まりの異世界
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第一幕 1 【 初めの一歩 】


-憎たらしいくらい快晴だ-


視界いっぱいの雲一つない真っ青な空から注ぐ暖かな陽の光はそんな内心とは裏腹にサンサンと輝いている。


視界に映る青い空、肌を擽る草の感触から草原だろうか。記憶に残る最後の記憶は血まみれになった一室だったはずなのだが。

ゆっくりと体を起こし周りを見渡す。

周囲を木々に囲まれているところを見るに俺を襲った借金取り共が隠蔽の為に山の中にでも捨てたというのが可能性としては高いだろう。


今居る場所におおよその当たりをつけることが出来たので、一番の疑問点に触れるとしよう。


-頭の傷がない-


借金取りに襲われ頭蓋骨共々かち割られてできた傷が元からなかったかのように綺麗さっぱり無くなっている。

着ている服には一滴の血の跡すらない。新品同然の綺麗さだ。

夢でも見ていたのだと言われたらそのまま信用してしまいそうな状況ではあるが目の前に映る光景から夢ではないのだろう。


「…体は動くみたいだし軽く歩いてみよう」


何度か手足を動かし立ち上がる。

襲われた後全く動かなかった手足が動くというのも疑問なところだが今はここがどこなのか確認しよう。


「あれは兎と馬であってる、よな?」


道無き道を草木をかき分けながら歩き続け開けた先には広大な平原が広がっていた。

遠くの方に小型の兎らしき姿や馬に似たのも見える。ただ普通の兎や馬にはない筈の角が頭部から生えている。

そんな生物は見たことも聞いたこともない、品種改良やら遺伝子組み換えなどで生まれた新種なのだろうか?



草原をひたすら歩き見えてきたのは人工的な道。人工的なとは言ったが草木が抜かれただけの土道。

ろくに整備もされていないのか凹凸が目立つ、がこれは人間の手によって切り開かれた道であるのは確かだ。

他に手がかりとなるものはない為その道を進むことにしよう。上手く行けば人間に会えるかもしれない。


「あれは馬車か?」


見つけた土道を歩き続けていると前方に馬車らしきものが停滞しているのが見える。

実物を見るのは初めてだが学校の教科書で見た写真と酷似しているので間違いはなさそうだがこの時代に馬車とは相当な田舎なのだろうか。


「もし、そこの殿方」


「え、あ、私ですか」


風情のある田舎だな…なんて考えながら歩き続け丁度馬車の横を通り過ぎた直後後方から声が聞こえる。

突然の事に反射的に自分が呼ばれたものだと思い振り返ったが他の人に声をかけていたのなら相当恥ずかしい。


「はい、貴方様です。」


それを聞いて安堵の息が漏れる。よかった呼ばれたのは俺であっていたようだ。

呼び止めたのは小柄な老人だろうか深めフードを被り顔はよく見えないが声音には歳を感じさせる。


「それで、私になにか御用ですか?」


「おぉ、呼び止めておいてすみませぬ。実は積荷の運搬をしていたのですが馬車の車輪が溝に落ちてしまいまして抜け出すお手伝いをお願いしたく」


申し訳なさそうに語る老人。

確かに片側の車輪が土道に空いた溝にハマってしまい少し傾いている。

何度か抜け出そうとしたのだろうが砂で滑ってしまうのだろう空回りした跡が何重にも刻まれている。


「分かりました。お手伝いします」


「誠ですか!」


「え、えぇもちろんです。早速取り掛かりましょう」


藁にもすがる思いだったのだろうか不意に両の手を握られブンブンと上下に振られる。

一瞬驚いたが気を取り直して作業に取り掛かるとしよう。


「では、せーので後ろから押しますので合図と共に馬に引かせてください」


「分かりました。お願いいたします」


「行きます…せーの!」


馬車の後ろへと周り合図と共に力一杯押すと同時にバチッとムチの音と馬の鳴き声が響く。

ジャリジャリと砂が擦れながらも徐々に上へと持ち上がっていく。これは何とかなりそうだ。



「っしょ!抜けた!」


しばらく押し続けると硬い地面に乗っかったのか自然と馬車が前へと進んだ。変な傾きや異音は特になさそうだ。


「本当にありがとうございました!このご恩は必ずお返ししますので」


「気にしないでください。偶々通りかかっただけですので」


御者台に乗っていた老人が勢いよくこちらに駆け寄りすごい勢いで頭を下げ始めた。

そこまで感謝されても困ってしまうのだが。


「それよりお急ぎなのでは?」


「はっ! そうでした。今日中に届けなければならないものがあるのでした」


「私の事は気にせず行ってください。お礼はまたお会いした時にでも大丈夫ですので」


「いや、しかしそういう訳には」


余程人がいいのか助けてもらった相手をそのままには出来ないらしい。

急ぎの届け物があるが俺をそのまま置いていくことも出来ないとなると方法は一つか。


「では、届け先まで一緒に乗せて頂けますか?それをお礼として受け取ります」


「そんなことでよろしいのですか?」


「はい、徒歩では中々遠く乗せていただけると助かるのですが」


「分かりました。もちろん構いませんよ」


少し納得いかなそうではあるが今の目的は他の人間が集まる場所に向かうこと、徒歩よりも何倍も早く移動もできる馬車に乗せてもらえるだけでも非常に助かる。



「…にわかには信じがたいことですな」


「そうですよね」


あれから馬車の荷台に乗せてもらい目的地に向かいながら御者台に乗る老人-ローガスさんに自身に起きた不思議な現象や話を聞ける人を探して歩いていた事ついて話していた。


「お力になれずすみませぬ」


「いえ、話を聞いて頂けただけでも助かりました」


普通なら致命傷の傷を負い死にかけていたのに気がついたら森の中に居て怪我も完治していたなんて夢物語のような話を聞いて真剣に原因を考えてくれただけでも嬉しいものだ。


「タチバナ殿、見えてまいりましたよ」


「…えっ」


ローガスさんの声で荷台から顔を出すと絶句してしまった。

視界に映ったのは通ってきた土道には到底似つかわしくない巨大な城壁だった。


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