プロローグ 【勘違いで現世からリタイアしました】
-転移とは言わずと知れた異世界モノのテンプレである-
神社の鳥居を潜り抜けたら異世界に繋がっていたやら普段通りに寝て目が覚めたら目の前に女神様が居て、別世界の危機を救う勇者として転移されることが多いだろう。
そして異世界モノで忘れてはいけないのはチート能力である。あらゆるものを創造する能力や相手の技、魔法などを1度見ただけで完璧にコピーする能力なんて明らかに人生イージーモードのぶっ壊れ能力である。
-この状況だと転移じゃなくて転生、だな-
苦笑いと同時に喉から込み上げる赤黒い体液を吐き出す。咳き込み、口に血泡が浮かぶほどの吐血。定まらない視界には真っ赤に染まった床が見える。
-腐ってもちゃんと人間なんだな、俺-
にちゃっとした粘着質の赤い液体に浸る自身の腕。人間である以上体内から出てくるものは赤い血液であるのは明白である。
こんな形で人間である事を再確認している辺り混乱のあまり逆に落ち着いてるのかはたまた恐怖で頭がイカれたか。
-…あぁ、頭、割られてたのか-
脳みそが沸騰しそうな感覚に僅かに動く手を添える。指先に微かに伝わる熱い液体の感触で納得した。
痛みはない。が異常に熱い。
痛みを熱と誤認し身体の危機を警告しているのかもしれない。
冴えた意識とは裏腹に体は動かない。
助けを呼ぼうにも口から漏れるのは空気を押し出した音と血が混ざった唾液だけ。
これはもう人生の終わりを告げられた、ということだろう。どうにも助かる未来が見当たらない。
そう意識した瞬間意識が朦朧とし始める。
先程までの覚醒したような感覚はどこへやら二度寝をするような微睡みに飲み込まれるよう焼けるような熱さもにちゃついた血の感触すらも連れていかれる。
その場に残るのは意識の遠のきつつある肉体のみ。
手足を動かすことも出来ず一度閉じた瞳をもう一度開けることすら肉体が拒否してしまう。
そんなどうしようもない肉体は唯一聴力だけは最後まで仕事をしてくれるらしく微かに話し声が聞こえてくる。
男女が交互に話しているのが少し遠くに聞こえる。近くではペチャリと血溜まりを踏む音。
人数は三人。
共犯だろうが俺を襲ったのはその中の1人だけだろう。
話の内容が途切れ途切れだが聞こえてくる。
殺し
金
今後
-あぁ、成程。こいつらは金貸しか-
薄れつつある意識の中聞き取れた言葉から導き出せた答えはそれだけだ。
一つ疑問に思うのは金を借りた覚えがないことだろうか。
記憶に間違いがなければ贅沢とは言えないが人並みの生活を送れる程度には稼いでいた筈だ。
しかし現状はこの通りだ。
おそらく金貸しであろう人間が三人、頭から血を流し倒れている俺。
何かの手違いなのか、知らない内に連帯保証人にでもされてしまったか。
話が纏まったのか3人組の声はドアが閉まる音共に消える。
今更考えたところで意味は無いがそれでも言わせて欲しい。
-俺は借金なんてしてないんだよクソヤロ-
その言葉を最後に 立花 叶人は生涯を終えた。