11月23日(祝)チョップと赤面から始まる休日の嶋
ピピピピピ ピピピピピ……
正確な機械音がうちに朝の目覚めを知らせる。「えい!」とチョップで、その正確に知らせる白い置き時計の音を止めた。
仕事の日もオフの日も変わらない。毎日のルーティン。
繰り返される毎朝。その日常。故にウチはその「目覚めの時」を鳴り知らせるのを待っているほどだ。
起きてまずはコップ一杯の水を飲む。
そこからゆっくりと柔軟体操。ヨガなのか他のなにかなのかは、やり続け足しているうちにわからなくなったけれど、毎日のこれは自身の身体の不調や今日のコンディションを知る調べとなる。
うん、今日はいけてんな! 自分!
頭に血が巡ってきたところで瞑想、いや昨日の反省検討会が脳内で繰り広げられる。今日は休日なのだ。仕事の反省会は今朝はいらない。それは保留とする。
さて! そんなことよりも八洲君と生田ちゃんじゃないのよ!
どうも生田ちゃんの思考は読みづらい。感情表現豊かな子だけれども、たぶんきっと大事なところは表面に明かしてはいない。思うに今の段階では好きな異性はいない感じ?
でもなぁ~、昨日の彼女は表面的な感じと内面の乖離があった気がするな~
なんかあったのかしら?
うちとは思考が違う感じがする。うむむぅ! 読めんぞ生田桃花!!
それに比べてバンビ君よぉう! 君はわかりやすいな~~~
絶対に昨日、あの場に居た生田ちゃんに意識したよね? え?なになに!
ちょっと上司を前に意識しちゃった感じ? ちょっと「俺は出来る男だぜ!」ってアピっちゃった感じ?
いやいいね~! このフレッシュで初々しい恋愛初期な感じ!
あ~~~! たまんないわぁ~~!
からのウチ! グッジョブなんじゃな~い?
『八洲くん貴方、ちょっと明日は私に付き合いなさい!』
これで、
生田ちゃん『ああ! 八洲くんは鬼蜘蛛女上司の毒牙にかかってしまうの?!』
誰が鬼蜘蛛やねん!(セルフツッコミ! うへへ!)
バンビ『すまん……、これも社畜の務め……。けっして君への愛の裏切りではないのだ! 信じてくれ!!』ってキャーーー!!
やばいな! 間違いなく生田ちゃんはハラハラしているはず!
キュンキュンドキドキと心が打ちのめされているはず!!
でもね~~~今日は違うんだな~~~
名付けて「生田ちゃんを落とそうぜ!」大作戦!
バンビを育て上げ、雄々しい雄鹿へと導くプロジェクト第1弾!!
恋のライバル、いや悪女の登場! プラス実はモテ男へのコーディネート!!
一石二鳥の作戦じゃん!! 間違いないね、これ!!
しかも最終的に「ウチは最大の味方、後見人でした~!」というオチね!!
身近でプロデュースからの大団円! 間違いないよ、これウチ!!
一石三鳥、ハピエンじゃん!!
と、いうわけで、
早速、朝食代わりのオーツラテを飲みながら身支度を整える。
う~ん、悪女風はバンビ君に対してはいらないんだよな~
んま、いつも通りのOFFもーどでいっか。
仕事の時とは違い化粧は薄目の最小限簡易版。服装はウチのいつもの休日仕様でいいや。楽なユルフワ秋バージョン。だってねぇ、作戦遂行中とはいえ、休日に肩の力は入れたくないじゃん。
眼鏡をかけ、時計を見る。うん、ちょっと早いけれど出るか。時間まで喫茶店で読みかけのネット漫画を読んでりゃいいし。
玄関を出て空を見上げる。
秋晴れ、小春日和ってやつか。うん、散歩ついでつうには良い天気だな。
『バンビ改造大作戦その1』が終わったら、適当なところでカツ丼か牛丼を食べてでしょ~ その後に新刊の漫画を3冊ほど買ってでしょ~ んでいつも通りに家に帰って今日は読書タイムかな~
とか思って歩いていたら、待ち合わせの駅前に居るし!!
1時間前から居るかねぇ……。
んでなに? 君はOFFでもONなスーツなわけ? こっちはOFFもーどですが? しかもなにその立ち姿! ガチ漢な応援団な感じ? 直立不動かよ!!
「君ってさ~、応援団だったわけ?」
「ハッ! 自分応援団長を務めました!」
ってさぁ、ウチも開口一番そう声かけたけどさぁ。
それって即問即答なん? それが正しい回答なの??
答えた後、上から下にウチを見て、赤面しながら目を瞑り天を仰ぐバンビ。
いやちょっと! 不動の態勢のままに天を仰ぐ? なに赤面してるわけ? え? なんかウチの服装が変だって恥ずかしいって言いたいわけ? なんなの? ふざけんじゃないわよ! ウチだって休みの日にはラフにするし! いやつかそうは言っても外に出てるわけだし気に掛けたし!
自分の服装を検める。
ニットロングのガーリーなワンピに肩掛けバッグ。いや軽装だけれども割とシンプルだけれども、ダメ出しはないでしょ!
「……、なんでスーツなわけ? それって君の普段着なの?」
「いや、ハッ!
自分、今日は営業先への同行であると思いまして!」
「あっそ、ごめんね。」
バンビ君の赤面につられウチも顔に血が上るのを感じる。
はずいから! ちょっとなんなのよ!
思いっきり視線を逸らし反転して歩き出す。
「今日はそういうんじゃないから、ついてきて。」
短く「ハッ!」という答えが返ってくるのを背に聞きながら先へと歩く。
うんあぁ、そんなんじゃ生田ちゃんにモテないでしょうが! 誘ったデートにスーツとかマジおかしいから!!
先を歩き、駅近のデパートに入りなが聞く。
「君ってさ~、普段は、
どんな服装なわけ?(スーツは着てないよね?)」
「ハッ、自分、
普段と言いますか楽なので作務衣とか和装が多く……」
「はぁ? 君は侍なの?」
「いえ、あの、
部屋着と言いますか家ではそういう感じですが、
外出時は、その……」
立ち止まった気配に振りかえ見る。
「……えっとあの、
あぁ言う感じです。」
直立不動、でも恥ずかしいのか俯く姿勢。
指を差した方向の先を見る。
あ~~~、あっそ。割と元ヤンな感じ?
その指を差した先のお店は、けっこう攻め攻めな男性ファッションのお店だった。
ウチは卒業したけれど、まだまだオラオラな感じ? 圧が強いなぁ。
う~む、バンビ君。それはウチは嫌いなファッションではないけれども、でもさ?
もう少し乙女心を知ろっか?
「能ある鷹は爪を隠す」って言うじゃん? 心に反骨精神を持ちながらも、君の見た目にあった、相手の求める理想像を具現! ってあると思うのよ? お姉さまとしては?
「え? そんな! バンビだと思っていたのに雄々しい獣??」
ってギャップじゃん?
……、いやこれ、
そもそも生田ちゃんの好みではないんじゃないかな~
もっと好青年、明るく爽やか路線でいかないか? 君!
いい素材持ってると思うんだけどな~~
再びウチは歩き先導する。
目についた店で、
シルエットのいい細身のパンツ、ちょっと個性を出したインナー、そこに来て全体と調和しそうなバランス取れたジャケット、ちょっとしたアクセントのネックとついでにカフスと指輪。かけるかはさて置き色の入った眼鏡。
出来れば髪型をセットしたくはあるけれども……
「んじゃ、それに着替えて。今すぐ。」
バンビ君に持たせていたそれぞれの品を指さし、最後に入った靴屋で言う。
勿論、仕上げに靴をコーディネートしてからだ。
着替えている間に清算する。
「お待たせ……、致しました。」
うん! いいんじゃな~~~い?
優しさを前面に押し出しながらも随所に「尖り」が出た感じ!
あるいは「尖り」を残しながらも柔らかさで包んだ感じ!
めっちゃウチの好みの仕上がりじゃん!!
うんこれ、生田ちゃんみたいな小動物はイチコロなコーデなんじゃない??
「んじゃ、お茶でもしよっか。」
ウチは満足しながらバンビ君の背を叩き、階下のお洒落なカフェへと促した。
あ~~~! 実に充実した休日のスタートだね!!
オフの日ぐらい力抜きたいわけじゃない?
いやオンの服ももちろんありだと思うわけ
うん、なんかさ
スイッチのオンオフの服装ってあると思うのよね
んで、今日はどんな服装で決めたのよ?
(-。-)y-゜゜゜