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滅亡の一年誌

ジャンル:パニック


登場人物

⚫︎テルル……主人公。有名な歌手で、ラジオやテレビにも出演。

⚫︎サド……マネージャー。歳上で厳しい。

⚫︎ユリヌ……ホテル従業員。テルルの大親友である。

⚫︎ジャンム……テルルへ片想いを寄せる、男友達。

⚫︎ユシレ……病気知らずだったのに突然重い病に苦しみ、感染症の最初の被害者になった。


簡単プロット


 一月始め、新型ウイルスが発生したとニュースが流れる。

 主人公で有名歌手のテルルは、最初の感染者が知り合いだと知り、不安に駆られる。しかし手出しのしようもないので仕方なく歌手活動を続けた。

 しかし感染は広がり、非常事態になる。外出規制を経てまた自由になるが政府の失策で再拡大。短期間で死者は増え、世界が大混乱に。そして人口が減り、親友やマネージャーも死去し、テルルの心はゆっくりと壊れていった。

 一人になったテルルは十二月末、無人の病院を訪ね、男の友人と再会。

 しかし心休まるときは続かず、不幸の影はさらに彼女たちを包み込むのだった。

 一月七日の朝、テルルが朝ごはんを食べていた時、全ては始まった。

「新型ウイルスがU市で発生した模様です。今月五日、風邪かと思われた男性を検査した所、新しいウイルスが検出されたという事です」

 テルルは思わず手を止めてそのテレビニュースに聞き入った。数年前に新型ウイルスが流行って世界がストップした事があったからだ。その時は警戒したわりにウイルスが弱くて拍子抜けしてしまったのだった。テルルはその事を思い出し、苦笑しながら半ば安心した。きっとまたろくでもないウイルスなのだろう。

 彼女はその後もテレビニュースを半ば聞きながらごはんを終え、支度をした。その日はラジオ番組に出演しなければならず、歌手であるテルルは早めに出勤しなければならないのだった。テルルは間も無く支度を済ませて家を出た。

 ううう、なんて寒いんだろう。一月はこれだから困る、テルルは寒さに震えながら雪の降る中をバス停まで走って行った。彼女は大柄で身長が並であり、運動能力は高い方なのだった。

 バス停でバスに乗り込み、テルルは新聞を見た。政治家のスキャンダル、バブルの崩壊、株の暴落、政策の失敗、新兵器の開発成功、芸能人の訃報・・・。なんてつまらないのだろう、テルルは嫌な気分になった。景気は一向によくならないし、あらゆる政策は失敗に終わるばかり・・・。せっかく十九歳で歌手として食べていけるようになったばかりなのに。彼女は毎朝のように失望し、いつものように新聞を破ってバスの中の屑籠に投げ入れるのだった。

 しばらく考え事をしていると若い男に話しかけられた。「あっ、テルルさんだ」

 ああ、またこういう連中か。テルルは思わず苦笑したくなるのを必死にこらえた。有名人になってからというもの、こういう若い男が色々とねだってくるのだ。サインは勿論の事、今までに結婚をせがまれたり、猥褻な行為をされそうになった事もあった。

 男が彼女に近寄ってきた。「テルルさんですよね、サインくださいません?」

 テルルは嫌悪感を抱きながらもできるだけ愛想の良い声で応対した。「サインですか、よろしいですよ」バッグから紙とペンを取り出した。「あなた、お名前は?」

「カオズです」若い男はとても嬉しそうだった。こういう顔を見るのはテルルも嫌いではない。サインをして男にくれてやるとさっと顔を背けた。

 男は感謝の意を示し、去っていった。

 それから二十分程して、バスはスタジオ前のバス停で停車した。時計を見ると、遅刻寸前である。テルルは走りながら、ニュースに聞き入って食事の手を緩めたことを後悔した。「後の祭りか」呟きながら、テルルは何とかマネージャのいる部屋に飛び込んだ。

 番組の撮影が開始された。

「さあ、始まりました。ラジオ名歌特集。司会のエラシーでございます。さて、今日の出演者は歌手のテルルさんです!」

「はいどうも、テルルです・・・」

 永遠と続くラジオ番組の撮影時間。次第にテルルは疲れてきて、投げやりに喋るようになる。「この曲はダメですよ」「あなた、見る目ありませんねえ」「こんな曲、思い入れありませんし」

 マネージャのサドが番組にストップをかけた。「テルルちゃん、何言ってんですか。エレシーさん、ちょっとごめんなさい。数分だけ、この子と話してきます」

 サドは二十九歳の女だ。だから、テルルをまるで幼い子供のように扱う。テルルは彼女のその性質が嫌だった。目上の人には礼儀正しい癖に、いつも年下には何でも言っていいと思っているんだな、テルルはため息をついた。

「テルルちゃん、あんな事言ったらダメ。本当に、生放送じゃなくて良かったよ。評判落ちるに決まってんじゃん。勿論三時間の番組で永遠に喋り続けなくちゃならないなんてあなたの性に合わないことは分かってる。でもねテルルちゃん、あなたがこの番組に出たいって言ったんだからね。容姿もそこそこなんだしそんな口聞いてちゃファンがいなくなっちゃうよ、分かったねテルルちゃん。やり直すんだよ、ちゃんと」

「分かったよサド」テルルは彼女を見下ろした。大柄なテルルとは対照的にとても身長が短くて小太りしたサドは何だか年下のように思えて仕方ないのだった。

 テルルはまたスタジオで撮り直しも合わせて一時間も喋り続けた。司会が終了の合図をした時、テルルは死んだようにぐったりと椅子にもたれかかっていた。その姿はきっと、いつも以上に醜く見えた事だろう。

 彼女は力無くスタジオを出ていった。ラジオなんていいもんじゃない、その言葉をテルルは頭の中で何回呟いたか分からない。サドに心配されながらスタジオのある建物を出て、一人でバスに乗り込み、帰宅した。

 どれ程眠ったろうか、ソファで寝ていたテルルを叩き起こしたのは電話の音だった。

「はいもしもし」

「テルル、聞いた聞いた?新型ウイルスのニュース」テルルの高校時代の友人でホテルのメイドであるユリヌからだった。

「知ってるよ。また世界がストップしちゃったらどうしようって、ちょっと怖くなっちゃった」

「でねでね、最初の感染者、誰だと思う?」

「さあ、誰?」

「ユシレなんだって」

「えっ、ユシレが?」テルルは思わず驚愕した。ユシレは二人と同学年で、体が丈夫で一度も風邪を引いた事がないと自慢していた男子だった。実際、一度風邪で学校閉鎖した時も彼だけ感染しなかった。

「大丈夫かなあ、と思ってあたし不安になっちゃった。きっと前のこともあって政府は後ろ向きだろうしね。でもユシレがかかったんだから、どんなもんか分からないよ」

「へえ。教えてくれてありがと。もっと聞きたいけど、あたしラジオの番組やって疲れちゃったんだ」

「ああ、どうだった、上手くいった?」

「ううん、全然。もう二度とラジオ出ない」

「へえ。分かった。じゃあまた新しい情報届いたら連絡する」

「うん、お願い」電話を切った。

 喋りまくった事で、ラジオで滅入ってしまっていた気持ちは幾ばくか晴れた。しかし疲労感は消えず、昼ごはんを抜いた分早めに夕ごはんを食べようと思い立ち、支度をした、

 再び電話が鳴り、テルルは火を止めて受話器に飛びついた。「はいもしもし」

「久しぶりテルル。ちょっと話があってね」驚いた事にユシレからだった。

「ユシレ。ウイルスに感染したってねえ」

「ああ、ユリヌから聞いたのか。それについてなんだよ、話っていうのは」

「何よう、調理中だから早く言ってよ」

「ああ、もう夕ごはんかい。早いんだね。本題に入るとだね、このウイルスはなんだかおかしいんだよ」

「おかしい?」

「うん、基本的には軽い風邪のようなんだけど肌が痛むんだよ」

「気のせいじゃない? だってあんた、昔から乾燥肌だったし」

「いや、皮が剥がれそうなぐらい痛むんだ。これは僕の推測だけどねテルル。僕、死ぬんじゃないかな」

「まさか」テルルは声を上げて笑った。「大丈夫だよユシレ。ユシレの事だから、すぐ治るって」

「そんなもんじゃないと思うんだよ」ユシレの声が沈んでいくのが、電話越しにでもはっきり分かった。「これは、そんなもんじゃないんだ」

 しばらく沈黙が続いた。「あ、調理中だったんだね。じゃ、切るよ」

「う、うん。電話ありがと」

 調理中ずっと、ユシレの「これは、そんなもんじゃないんだ」が頭の中を駆け巡っていた。そんなもんじゃないって、どういう事なんだろう? そのうちに夕ご飯は終わって日が暮れていった。

 テルルは心に大きな疑問を残して眠りについた。


 一月十日。テルルが朝のニュースを見ているとこんな報道があった。

「例の新型ウイルスの感染者が、新たに三名判明しました。全員最初の感染者と同僚で、会食をしたという事です」

 その時、けたたましく電話が鳴った。誰からだろう、何だか嫌な予感がした。「はいもしもし」

「テルル、大変なんだ・・・」ユシレの弱々しい声がした。

「ユシレ、どうした?」テルルが絶叫に近い声を発した。

「痛いんだ・・・。全身がズキズキして痛いんだ。それに、灰色なんだよ・・・、黒がかってきたんだ・・・、言っただろう、普通じゃないって・・・、やっぱりそうだったんだ・・・、これは・・・」

「どういう事? 分かんないよユシレ。大丈夫? 肌が灰色ってどういう事さ?」

「前、痛いって言ったろう? 顔も、腕も、さなかも、全身ん肌が焼け焦げたようになって・・・、黒くなったんだ・・・、もう時期僕は死ぬんじゃないかな・・・」

「何言ってんのユシレ、分かんないよ」

 電話がぷつり、と途絶えた。

「ユシレ、ユシレ」

 彼の容体が悪化しているらしい事はよく分かった。でも、どういう事? テルルの中でいろんな疑問が渦巻き、蠢いていた。

 もう一度テレビに目を戻すと、驚くべき映像が流れている所だった。

 隅から隅まで焼け焦げた腕、脚、顔、胸、背中・・・。すごくグロテスクで、思わず目を背けてしまった。「これが感染者の男性の肌です・・・、黒く焼け焦げています」

 何これ・・・、これがユシレの肌・・・。黒く醜い肌・・・、あのユシレの白い肌だとは思えない・・・。これが新型ウイルスの症状だというのか? テルルは愕然とし、立ち尽くした。

 その日はテレビ番組があり、また出かけなくてはならない。しかしテルルは何も手につかなかった。ユシレとあのウイルスの事で頭がいっぱいだったのだ。何だろう、あれは。一体彼はどうなってしまうんだろう? その時、再び電話が鳴った。「はいもしもし」

「テルルちゃん、早くいらっしゃい。間に合わないじゃないの、そんじゃあ人気落ちちゃうよ。さあ、早く来て」サドだった。

「サド・・・、あたし、怖い」

「何がよ?」サドはとても苛立ち、今にも怒鳴り出しそうだった。

「ウイルスよ・・・、最初に感染したの、あたしの同級生だった人なんだ・・・。その人の肌をテレビで見たら、酷かった・・・。電話では元気がなくて・・・、今まで風邪だって引いた事なかったのに・・・。あたし怖いよサド。ユシレが死んじゃう・・・、この世の中が壊れてしまう・・・」

「新型ウイルス? 何の事さ、早くおいで」

「あたし今日仕事休むよ・・・、ユシレに会いに行く・・・」

「何言ってんの、テルルちゃん。ねえ、しっかりして。今日は大事な日なんだよ、迎えに行くからね!」サドは怒りに震えていた。

 テルルはソファにへたり込んだ。ユシレをお見舞いに行かなくちゃ、何だか大変な事になってるみたい・・・。

 間も無くサドが合鍵で家の中に入って来た。「テルルちゃん、来るんだよ。遅れるから早く」

「行かない! ユシレのお見舞いに行かないと」

「ほら行くんだよ1」

 テルルは体を締められた。呻き声をあげるだけで、どうする事もできない。手足を強引にロープで縛られて、サドの車に乗せられた。

 スタジオに着くとようやく、サドはテルルの縄を解いた。「着いたよテルルちゃん」

「剛情女! 馬鹿女!」喚くテルル。彼女は半ば頭がおかしくなっていた。最近彼女は仕事で疲労していたし、ユシレの事で恐怖し過ぎていた。

一年くらい前、執筆開始当初に書いたものなので、文章の稚拙さはご容赦ください。

ご意見などございましたら、よろしくお願いします。

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