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メイドちゃんの恋模様

ジャンル:異世界(恋愛)


登場人物

⚫︎ジュリー……主人公で、元村娘のメイド。気が強く奔放。

⚫︎ルピオ……屋敷の主人。最初は冷たいが、後でジュリーと相思相愛になる。

⚫︎タイーザ夫人……奥様。ジュリーにひどい。


簡単プロット


 村娘のジュリーは、ひょんなことから貴族のお屋敷でメイドとして働くことになった。

 そしてやって来た彼女は、早速屋敷の主人ルピオに挨拶をし、働き始める。

 しかし自由奔放で礼儀作法の整っていない彼女はあまり気に入られず、ルピオには冷たくされるし奥様にいじめられるしで散々だった。

「アタシ、やめちゃおっかな」

 そんなことを思っていたある日、奥様に熱湯を浴びせられて火傷を負ってしまう。

 そこへルピオが現れて、彼女を助けてくれたことから彼ら二人の関係は変わっていき……。

 少女、ジュリーはどこにでもいるような普通の村娘であった。

 百姓の家に生まれ、父母に愛されて育ってきたと思う。村の中では可愛がられていたし、気が強いせいかして子供グループの中ではいつもトップだった。


 将来は父の跡を継いで百姓になるのが夢だった。


 そんな生活にある時突然ヒビが入る。


 父が病に倒れ、呆気なくその命を散らしたのだ。

 あまりにもぽっくりと逝かれてしまったから、ジュリーも母親も悲しみというより驚きが強かっただろう。


 主に農作業を行なっていたのは父だったから、亡くなったことで百姓の仕事が立ち行かなくなった。母親はちまちま村の人たちから金を借りていたがそれでもうまくいかず、やがて借金に溺れることになる。


 ジュリーはそんな母親を見ているだけで、何もできなかった。だって彼女はまだ十七歳、ろくに手伝えることがない。


 農業を手伝ったりして小遣いを稼いでいたが、ジリ貧だった。


 そしてとうとう、先が見えないこの生活に終わりが訪れた。


「……ジュリー。今、侯爵様が使用人を募集しているらしいの。若い娘なら誰でも歓迎なのだそうよ。本当に悪いと思ってるわ、でもこの手しかないの。お願い」


 母親にそう頼み込まれて、ジュリーは反論できなかった。

 侯爵がどんな人間かは噂ですら知らないが、とにかく貴族ということは金持ち。そこで働けば、借金を返せるという算段だろう。

 この村から離れることは嫌だった。でも、そうでもしなければジュリーは母と一緒に飢え死にしてしまう。だから、断るという選択肢はないのだ。


「わかったわ母さん。アタシ、侯爵の屋敷で使用人? になってくる」


 具体的に、使用人がどんなことをするのかは知らない。今まで農作業しかしてこなかったので、畑関係以外は疎いのである。

 母親は本当に申し訳なさそうに頷いて、ジュリーを送り出した。


 これが彼女の物語の幕開けとなる。



* * * * * * * * * * * * * * *



「これがお屋敷ね。馬鹿でかい。こんなに広いなら畑にでもすればいいのに」


 ジュリーは目の前の建物を見上げ、思わずそんな言葉を漏らしていた。


 無駄に大きいそれは、侯爵邸なのだそう。屋敷というものがこんなに巨大なのかと、少女は正直驚いた。

 普通の民家の十倍以上はありそうだ。


 まあ、そんなことはどうでもいいか。


 ジュリーはそう思い、屋敷の大扉をノックした。

 するとすぐに中から誰かが現れる。それは黒いドレスに白のエプロン姿の、背の低い女性だった。


「あら、あなたが新しいメイドでございますか?」


 育ちの関係だろうか、男並みに背の大きいジュリーを見て驚きながら、彼女がそう言った。

 メイド、というのはどうやら女の使用人のことであるらしいと母親から教えられていたので理解できた。


「アタシはジュリー。使用人になるためにここへ来たの。早く主人に会いたいんだけど」


 使用人と思われる相手の女性が不満げに眉をしかめた。何か変なことでも言っただろうか?


 しかし女性は何も言わないで、「こっち」と言ってジュリーに手招きし、歩き出す。

 少女は慌てて女性の後を追った。


 ――そして豪華な部屋の前で立ち止まり、女性がドアを叩く。


「旦那様。失礼いたします」


「なんだ?」


 声がすると同時に、開かれた扉の中へ飛び込むジュリー。そして、一人の男と対面することになった。



* * * * * * * * * * * * * * *



「まさか走り込んでくるとは。これは驚いたぞ」


 豪華な部屋の真ん中に腰掛ける男は、どうやらお貴族様のようだ。

 見るところ二十歳そこそこである。仕立てのいい服を着ており、やはりジュリーより背が低い。


 短い金髪にヘーゼル色の瞳の美男子だった。


「これが新入りのメイドか?」


「そうでございます」隣にいた女性が深々と頭を垂れた。


 ジュリーは胸を張り、高らかに名乗り上げる。


「初めまして。アタシはジュリー。アンタの名前は?」


 でもそれが相当ダメだったのかして、メイドに小突かれてしまった。

 村では普通にこの挨拶だったのに、どこがいけないのかと首を傾げるしかない。


「礼儀作法がなってないな。俺様はこの屋敷の主人、ルピオ・パンネル侯爵だ。跪くが良い」


「ごめんだけどアタシさぁ、跪くっていうのを知らないのよね。で、俺様っていう一人称だけど、それ気持ち悪いからやめて」


「ま、まぁっ」


 すごい形相で隣のメイドが睨みつけてきた。

 そして大慌てで平謝り。


「申し訳ありません旦那様。この子にはまだ教育を施す前でしたものですから。これほど頭がアレとは思わず……」


「最初だし仕方あるまい。そのうち俺様の魅力にメロメロになるさ。なあ、ジュリー?」


「お、男としては悪くない。スタイルはいいし」


 口ではそう言ったが、実はすでにルピオ侯爵に惚れてしまっていることにジュリーは気づいていた。

 こんなに魅力的な男性と会うのは初めてだ。声を聞いた瞬間、胸がキュンとなったのである。


「後でまた話そうっと」


 ……色々とありつつも、若侯爵ルピオに屋敷で働くことを許されたジュリー。

 腑に落ちないことはたくさんあるがそのうちなんとかなるだろう。そう思いながら、部屋を後にした。



* * * * * * * * * * * * * * *



「何ですかあの無礼な態度。普通なら斬首刑でもおかしくありませんよ」


 数分後、廊下を歩いていると先輩メイドにそんなことを言われた。

 彼女はかなり怒っている様子だが、ジュリーは頭に?マークが浮かんでいるだけだ。


「何かおかしかった? アタシ、なるべく丁寧に相手したつもりなんだけど」


「あれのどこが丁寧なんですかっ!?」


 怒鳴られてしまい、ジュリーは思わずギョッとなった。

 この女性、背は頭一つ分以上低いくせに、声の迫力だけはあるらしい。


「これから徹底的に作法を叩き込みます。いいですね?」


「お作法とか面倒臭いことは苦手なの。それだったら畑を耕してる方がずっと楽」


「メイドは作法が基本! わかりましたか!?」


 殴りかかられそうな勢いに気圧され、頷くしかなかった。

 でも先ほども言った通りお作法は苦手なのだ。この先の面倒ごとの予感にはぁと溜息を漏らさずにはいられない。


 そうこうしているうちに、簡素な部屋の前にたどり着いた。ここがメイド用の更衣室らしい。


「ここで着替えます。あなたに合うドレスのサイズを選んで」


 部屋には、ハンガーに引っ掛けられた洋服がずらり。どれもメイドのエプロンドレスばかりだった。


 ジュリーはそれを手でかき分け、一番大きいドレスを手にする。それでもやや小さいくらいだったが、贅沢ばかり言ってはいられないので着てみることに。


 そして自分で鏡を覗き込んで、ジュリーは思わずうっとりしてしまった。


 セミロングの黒髪に黒瞳の少女が、黒いエプロンドレスを身に纏っている。所々にあしらわれた白いフリルが素敵だ。

 長い白靴下はジュリーのゴツい足を隠してくれていて、この格好だとかなりの美少女に見える。


「素敵! これでアタシも一人前のメイドってわけね」


 なんだかこれからのメイド生活が楽しみになりつつあった。

ご意見などございましたら、よろしくお願いします。

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